アメリカとイギリスの廃炉と立地地域支援
3.11のあと,22基の原発(福島第二,もんじゅを含む)が閉鎖された。3.11以前は4基だったから,3.11後はその5倍以上である。3.11の事故機のほか,規制基準を満たそうとすれば採算が取れない,それ以前の重大欠陥があるなどの理由である。
今後,原発がゼロとなる立地地域は順次でてくる。この事態に備えて何を考える必要があるだろうか。
5月,東西ドイツ統一時,村の全基閉鎖の決定が突然に言い渡され,村存続の危機に直面した東ドイツの原発の村,ルブミンの話をした(星空講義5)。極限の危機から立ち直って,補助金で原発サイトの一角を再開発して工場団地をつくり,地域再生を大成功させたという,夢のような話である。
ルブミンの場合は,ドイツ統一によって原発事業者は自身の監督者である政府を失ったので,連邦政府が,解体費用を負担し,廃炉会社になった事業者に収益事業ができる道を開いた。日本とは背景の事情がまったく異なるが,とても示唆的である。
まず,ルブミン村と廃炉会社が共同して,原発に代わる新しいエネルギー産業育成の目標をかかげた工場団地を整備するという創造性ある計画をつくったという点である。また,ルブミンは,豊かになった財政で住環境整備と自然保護に投資し,これによって,新たな住民と観光客を獲得した。日本の立地地域が精を出してやってきたハコモノ開発とは発想がぜんぜん違う。
今は,原発の再稼働問題が切羽詰まった段階にあって,原発がゼロになった後の立地地域にどんな将来像を描くかという議論は,色々出されているが,市民レベルではまだまだ不十分である *。
廃炉後の立地自治体がまず直面する最大の問題は,雇用の縮小と人口減少の加速化であろう。地域経済が縮小し財政も縮小する。立地地域は,これに対して,どんな準備をしておく必要があるだろうか,どのような地域の将来像を描くのか,議論を蓄積しておく必要がある。どんな支援制度が必要かも検討しておきたい。
世界の各国では,どのような廃炉政策をとり,立地地域にどのような経済,社会的支援があるのだろうか。今回は,閉鎖炉数トップ2のアメリカとイギリスを取り上げる。
アメリカ
廃炉事業を外注,地域支援は限定的
閉鎖炉36は世界で最多,廃止措置中は23である。廃炉専門会社が廃炉を担っている。
原発事業者が廃炉専門会社に廃炉を外注すれば,地域にどういう影響をもたらすのだろうか。カリフォルニア州のサンオノフレ原発では,1994年,1号機の廃止措置を決定し,一定期間,原子炉施設を安定保管した後に除染,解体する,遅延解体を計画していた。しかし,事業開始を2014年から2000年へ大きく前倒した。
遅延解体にすると相当数が解雇され,廃炉専門会社がやってきて人員が入れ替えられるから,地域雇用に少なからぬ影響をもたらす。サンオノフレ原発では,雇用の影響を小さくするために,作業開始時期を繰り上げて作業員を継続雇用した **。
アメリカでは,多くが原子炉閉鎖後,時間を待たずに廃炉の作業をはじめる,即時解体を採用している。また,原発サイトを原子力の規制から解放し制限が一切なく土地利用できる,サイト解放を実施している。日本はまだ例がないが,アメリカには解体を完了したサイトがあり,建屋やサイトを再利用している例もある。
パスフィンダー原発では火力発電所に,メインヤンキー原発では工場,フォート・セント・ブレイン原発では天然ガス発電所に転用している。敷地は,ランチョコセ原発では遅延解体ののち太陽光発電に,コネチカットヤンキー原発では緑地化,メインヤンキー原発も一部緑地化している。こうしてみると改めて,ルブミンのようなサイトの大規模な転用は例外的ということがわかる。
立地地域への廃炉による影響と地域支援はどうだろうか。
立地地域への公的支援は限られているという。メインヤンキー原発の立地自治体,メイン州ウィスカセット町では,1997年,原発の閉鎖が決定された。原発からの町の税収は,閉鎖直前の1996年,1,280万ドルだったのが,5年後の2001年には160万ドルへ急減した(87.5%減)***。豊かな税収によって消防・救急,リクリエーション施設,教育などへ投資されていたが,良質な教育の維持はむずかしくなり,警察や消防などの行政サービスの縮小も議論されていたという。
イギリス 国家廃炉機関と財政措置のもとでなされる周辺地域支援
イギリスは,世界でもっとも早く商業炉を稼働した国で,閉鎖は14サイト,30基にのぼる(2019年)。公的支援が限られているアメリカとは異なり,廃止措置に関する独立の国の機関,原子力廃止措置機関(NDA)があり,廃炉と地域支援の両面でイニシアティブを取っている。
イギリスが財政措置をとって廃炉と地域支援をする背景には,1989年に電力事業が民間に移管されたが,移管以前の国営原子炉には廃炉費用の積み立てがなかったという重大問題があり,くわえて,廃炉の調査研究と技術開発を集中させることが必要との判断があった。
NDAの根拠法,エネルギー法2004は,NDAの機能や権限,戦略などを規定している。くわえて,「指定の施設やサイトなどの近くに住むコミュニティの社会経済生活に利益をもたらす活動を支援すること」,すなわち周辺地域への経済社会支援も規定されている。廃炉が,地域社会に与える影響を考慮したものである。
第一の任務である廃止措置については,NDAが,廃炉決定されたプラントを保有し,廃止措置戦略を立案,解体については国際入札を通じて大手プラントメーカーを管理会社に選定,その元でサイトライセンスカンパニー(SLC)が廃炉事業を実施している。
セラフィールド株式会社は,国内最大のSLCで,原発4基(廃炉中)のほか,再処理工場,使用済み核燃料貯蔵施設などが集積する。世界最大の複合原子力サイトである。 セラフィールドは,その重要さゆえにNDAの完全子会社とされ,施設運営と安全管理を担っている。
セラフィールドが実施している周辺地域支援には,地元若者の雇用支援,地元企業との事業パートナー契約がある。事業パートナーに選ばれた地元企業は,廃炉事業にあたって過少代表者とめぐまれない人々の雇用枠を設定し,新しい就労制度の実施と就労者の訓練,メンタリングなどを提供している。
また,コミュニティ活動への経済支援にも関わっている。「コミュニティチョイス」はその例で,市民プールやラグビーピッチの整備,家庭内暴力や性的虐待サポート,健康向上など,住民による課題解決型のプロジェクトに経済的な支援をしている。イギリスのこの政策からいろいろ学び取りたい。
解体が完了した商業原発は,アメリカでは13,ドイツ3ある(2019年8月)。日本は,東海原発と浜岡原発1,2号機,敦賀1号機が廃炉中だが,いずれも原子炉周辺の設備を解体している段階で,原子炉本体の解体はこの先である。これらを含めて閉鎖した原発は26基,今後さらに増えるから,日本でも廃炉需要は急速に拡大する。
これを見越してか,原電が,アメリカの廃炉専業大手と提携して,廃炉専門会社設立を検討しており,今年中に最終判断をする(共同通信,2019年4月16日)。この新たな企業をはじめ,アメリカやヨーロッパで事業展開している廃炉会社が,日本の廃炉市場を開放させて,廃炉事業が活発化することになるのだろうか。その時,立地地域には何がもたらされるのだろうか。このことも含めて地域の将来像を考える時がきている。
* 日弁連「第3章 原子力発電依存からの脱却と地域再生」,2014年10月 https://www.nichibenren.or.jp
原子力市民委員会『原発ゼロ社会への道2017 –脱原子力政策の実現のために』2017
** 福井県安全環境部 廃炉・新電源対策室「廃炉・新電源対策に関する内外の現状と課題について ―第一次報告書―」,2014
*** 山本大策「米国における原子力発電と立地地域 ―廃炉局面を迎えて」『歴史と地理』4(713),2018
(原電茨城事務所前抗議行動「星空講義」15,2019年9月13日)
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