来年の東海第二原発再稼働に向けて動き出した6市村首長の懇談会


2024年9月,東海第二原発の再稼働対策工事の完了が予定されている。再稼働が,1年余り後に迫っている。

再稼働予定の1年以上前の今年5月12日,原子力所在地域首長懇談会(東海村と周辺5市の首長で構成される。座長:山田修村長。以下,懇談会)が,原電に,再稼働に関する協議事項素案を手交した。これに対して,原電・松村衛社長は「ボールは受け取った。信頼関係を維持しながらコミュニケーションしたい」と語ったが,素案の中身は明かさなかった。明かさない理由は,6市村との「信頼関係を維持する」ためだという *。素案文書は懇談会事務局の村から受け取ったというから,原電が村役場に出向いて受けとったのだろう。

それから2週間余りたった5月29日,山田村長は,記者会見で協議事項素案について聞かれ,素案の回答を待っている状況だが,「内容の公表はもう少し待ってほしい」「(原電に)催促はしていないが,時間がかかるようなら日にちを決めて回答をもらいたい」と状況を説明した **。

そもそも,素案などというものは,外部に出す性格のものではない。外部に出せない段階の文書を,懇談会は,なぜ協議会開催の1年以上も前につくり,よりによって協議相手の原電に示したのか。その目的は何なのか。

原電は「ボールを受け取った」と言い,山田村長は,原電の「回答」を待っているという。懇談会(山田村長)が,原電に「協議事項」の是非や妥当性,要望などを聞き,原電が「回答」するという形になっている。

ボールのやり取りは1回きりではない。懇談会(山田村長)が,1年以上も前に原電に投げたのは,これから原電と何度もキャッチボールをするためである。原電・松村社長が言う「信頼関係を維持しながらコミュニケーション」をとるということなのだろう。こうして,「素案」は「案」になり,来年の協議会のテーブルには「議題」となって配布される。


そこで,原子力規制委員会の「秘密会議」を思い出した。秘密会議とは,日野行介氏が,その存在を明らかにした会議である ***。

規制委の秘密会議とは,実質的な議論をして結論を出しておき,公開の定例会合で,委員の誰からも異論を出させずに,方針を正式決定する仕組みである。日野氏の本では,秘密会議で,関電の原発の火山灰問題について,基準不適合を認めて運転を停めさせることをしたくない規制委・更田委員長が出した結論が,定例会合で示され,たった5分で関電に対する命令を出したプロセスが鮮やかに再現されている。

懇談会(山田村長)は,原電と,協議会までの1年余り,秘密会議(あるいは,のようなもの)を重ねるのだろう。こうして,双方の「信頼関係」の上に立った結論が導き出される。すなわち,6市村長の協議会は東海第二原発の再稼働を認めるという結論である。

要するに,協議事項素案の目的は,6市村首長から再稼働反対が出ないように事前の調整をし,今後,30年以上長期にわたる原発運転に向けて,村と原電との信頼を強固なものにする,懇談会はそのために利用される。こうして,6市村首長の事前了解権は完全に反故にされる。

しかし,それにしても,6市村首長が再稼働の事前了解をするには,なお重い課題が存在している。避難計画の策定と,住民意向の把握である。

避難計画については,常陸太田市は「策定した」とするが,その他の自治体はどこも策定の目処がついていない。常陸太田市も含め,どの自治体も避難所配当のやり直しをする羽目になっている。避難所は就寝空間が必要だから,床さえあればどんな施設でもいいというわけではない。「実効性ある避難計画」の策定などあり得ない。

東海村山田村長は,住民の意向把握や避難計画策定をへて再稼働是非の判断をすると言い,水戸市高橋市長も,広域避難計画を策定した上で,住民意向アンケートを実施し,是非判断をすると述べている。避難計画の策定は,自治体首長にとって,再稼働の事前了解の大前提だが,政府は,GX電源法案を通して,いい加減でも避難計画をゴリ押しさせるつもりのようだ。山田村長は,GX電源法案通過も見込んで,東海第二原発再稼働に向けて懇談会の主導権を発揮しようとしているのかもしれない。



* 東海第二 / 再稼働の協議事項素案 / 地元6市村が原電に,東京新聞茨城版,2023年5月19日

** 東海第二再稼働の協議素案 / 山田・東海村長「原電の回答待つ」,東京新聞茨城版,2023年5月30日

*** 日野行介『原発再稼働:葬られた過酷事故の教訓』,集英社新書,2022年









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