発言「当時の教員に変わり謝罪」(東京新聞2022年8月25日)

歯科医院から戻ってきて,東京新聞をひろげた。「発言 読者とともに / ミラー」(読者の投稿コーナー)に,胸からこみ上げるものが止まらない投稿があった。元小学校長の方の投稿である。記録のためにここに全文を引用することにした。


当時の教員に変わり謝罪, 元小学校長 鈴木 慈(64,千葉県船橋市)
既に二学期が始まった地域もあるだろう。久しぶりの学校に心弾ませる子どもがいる一方,つらい思いをしている子どももいるのではないだろうか。
忘れられないことがある。校長をしていた頃,教諭が困惑した顔で受け持つ児童の連絡帳を持ってきた。
母親から乱れた文字で唐突に「汚い,そばに寄るな。死ね」という言葉。続いて,「小学校時代,私が毎日浴びせられていた言葉です。誰も助けてくれませんでした。先生も何もしてくれませんでした。大人になった今もこの言葉や光景が蘇り,涙が止まらなくなります」。
いつも笑顔で明るくあいさつしてくれるお母さん。夫は亡くなり,一人で仕事をしながら子どもに愛情を注いでいた。その心にこんな傷があったとは。全ての公務より優先して母親に手紙を書いた。
「ごめんなさい。こんな辛く苦しい思いをしているあなたに何もできなかったことを,当時の学校職員と,教職に携わる全ての者に代わり,誤ります。本当に申し訳ありませんでした。生きていて下さって,ありがとうございます。そして今,かわいいお子さんを私に出逢わせて下さって心から感謝します」
いじめは受けた者にとって消えることのない痛みとして続くと教えられた。翌日,母親から手紙を受け取った。「校長先生が(代わりに)謝ってくださり,こんなに嬉しいことはありません。もう振り返らずに前を向いて生きていけます。ありがとうございました」


自分でも驚いたが,この投稿を書き写しながら,涙が溢れてどうしようもなかった。私は親から暴言を吐かれたことはないが,身近な人間から長くひどい言葉を浴びせられ続け,人生の半分,心を病んでいた。一人で仕事をし子どもを育てた。仕事のために知らない土地にやってきてさらに孤独だった。助けは誰にも求められなかった。子どもの先生からこんな手紙をいただけたら,辛い思いを抱えながら歯を食いしばって子育てしている母親は,どんなに心が救われることだろうか。

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