92万人原発避難所:地球沸騰時代の夏,体育館の中のテントで過ごす?


避難所の居室要件

避難所は,たとえ一時的な生活施設であっても,生命と健康維持のための機能と質,広さが確保されていなければならない。

第1に大切なのが,窓があることである。建築基準法が人間が常時,使用する居室に求めているのが,採光と換気の機能をもつ窓である。しかし,茨城県の避難計画は,その基本さえ無視し,居室ではなく,当初,窓のない体育館倉庫を避難所にし,居室ではあるが窓がない音楽ホールも避難所にした。

双葉町民が避難所に利用したさいたまスーパーアリーナでは,居室ではあるが,窓がなく人工照明だけのアリーナではなく,通路を利用した。その理由を推測するに,通路は,人の流れが絶えず落ち着かずプライバシーもまったく考慮されないが,窓から太陽の自然光が差し込んで明るく,窓による自然換気もできたからではないだろうか。

避難所に使われる学校体育館には窓がある。体育館の天井の高さは3階建て程度もある大規模空間で,窓は床面4m以上の高窓が,室の四方をぐるりと取り囲んで設置されている。高窓からの彩光は問題がない。その点では合格である。しかし,換気が大問題である。

第2に,その大問題になる換気について。体育館は,避難所になって大人数が利用することを想定して設計されていない。その体育館が避難所になった場合,呼吸で排気される二酸化炭素をはじめ,衣服や毛布の埃,外から持ち込まれるウイルスや花粉など,それ自体がいわば汚染源となる人間が,密度高く入り,常時,そこで過ごす。人数が増えれば増えるほど,人の動きが増えれば増えるほど,空気汚染は増す。

換気対策の要は,汚れた空気を適切に常時,新鮮な空気と入れ替えることである。換気対象となる領域は,床面から2m程度までの避難者の生活領域である。ところが,体育館の換気窓は,床面から4m以上の高い位置にある。これだけ高いと,四方の窓を開けても,高窓間で空気が動くだけで,生活領域の汚染空気は排出されない。

床面に横長の換気窓が設置されている体育館があるが,この窓を換気窓として有効に使うには,常に開口しておき,冷暖房設備を稼働し,室内外の温度差をつくって温度差換気を促すことである。しかし,おそらく,換気窓は適切に開口されないだろう。

92万人の避難所となる学校体育館は,在室人数が著しく多く,そのため,常時,著しい換気不足状態になり,空気汚染は相当なレベルになることが避けられない。

茨城県は,感染症対策のために一人当たりの占用床面積を2㎡から3㎡に拡大するとした。しかし,換気システムを構築し,換気設備を設置しないまま,わずかな床面積の拡大で感染症対策として効果的に働くことはないだろう。

第3に,断熱性についてである。

2023年7月,国連のアントニオ・グテレス事務総長は,今月の世界の月間平均気温が過去最高を更新する見通しとなったことを受けて,「地球温暖化の時代は終わり,地球沸騰の時代が到来した」と述べた。夏の外気温が著しく上がっているのである。

同年8月末,東海村民の避難先になっている守谷市の小学校では,体育館室温が37℃に達した。外気温より高い数値だった 。そこで,学校は,熱中症対策のために体育館の使用中止の判断をした。上述の37℃は,児童が半日,学校で過ごすにあたって,体育館や屋外利用の可能性を確認するため,午前中に測定したと推察される。午後の室温は,さらに上昇しただろう。

外気温より体育館の室内温度が高いのは,建物の天井,壁,窓の断熱性がないからである。また,屋根が高くても,断熱材が施工されていない鉄板の屋根からの輻射熱が,室内温度をさらに高める効果をもたらしたのだろう。

このような体育館は,守谷市の小学校のこの体育館に限らない。新設の体育館では,構造や設備,材料でそれなりの対応をしていると見られる例もあるが,ほとんどの体育館の断熱性は決定的に不足している。体育館を避難所にするには,断熱性の向上が不可欠である。同時に,冷暖房設備の設置も必要である。

第4に,気密性についてである。体育館は,断熱性ばかりでなく気密性もない。また,暖房設備もないところが多い。これら2つの性能と暖房設備がなければ,寒さの厳しい冬の室内温度を適切にコントロールすることはできない。

2023年1月,北海道北見市の学校体育館で行われた宿泊をともなう訓練に,医療関係者や自治体担当者らが参加した。暖房のない室温は2℃。ブルーシートに毛布1枚が配布されたが,寒くて横にもなれないと悲鳴が相次いだ 。根本昌宏氏(日本赤十字北海道看護大)は,「決して床で直接,避難者に雑魚寝させてはいけない」と強調した *。

体温調整機能が衰えている高齢者は,低体温症リスクが高まる。避難所施設の断熱性と気密性の向上,空調設備の設置,そしてベッドをスタンダードにすることは絶対に不可欠である。

第5は,避難所の床についてである。就寝に使える床であることが絶対不可欠である。具体的には,水平面であること,床面におうとつがないこと,人間が横たわった時に十分に余裕のある面積があることである。県の計画は,これら床の条件について完全に無頓着で,とにかくも92万人が就寝できる床面積の総量を確保することを目指している。

問題が大きいのが音楽ホールや図書館を避難所に当てていたことである。学校体育館だけでは92万人分の就寝空間を確保できないためである。

音楽ホールの問題点は,肘掛けつき固定椅子や,勾配がついていたり階段状になっている通路を避難者の就寝のための占用空間としていることである。椅子も勾配床も階段床も就寝には使えない。ある音楽ホールのアトリウムの床は石畳だという。図書館の問題点は,本棚が並ぶ床には,本棚の転倒や本の落下リスクがあることである。このような床を就寝空間にしてはいけないのは誰もが認めるだろう。そもそも,図書館の貴重な文献,資料が,心無い避難者によって破損,紛失するリスクは大きく,その観点からも避難所にしてよい施設ではない。


地球沸騰時代の夏,体育館の中のテントで過ごすという愚策

県は,「実効性ある避難計画」策定のために,パーテーションテントを活用すると発表した(図1)。テント利用は,避難所に感染症対策とプライバシー確保のためだという。図では,テントの中にダンボールベッドを置いているが,県の説明にはベッドはない。

図1 パーテーションテント


しかし,テント利用は,地球沸騰時代の夏の過ごし方としては,完全に間違っている。テント内は,体育館室内よりさらに高温になるだろう。感染症対策についてもテント内の換気ができず,床面2mの生活領域の換気もなされなければ,対策として十全ではない。そもそも,46万台のテントの購入,保管,事故時の運搬が,そもそも可能かという問題がある。おそらく,多くの避難所は雑魚寝就寝となるのだろう。

図2は,体育館でパーテーションテントを使ったレイアウト例として県が作成したものである。図の上と下に描かれた4箇所の窓は,床面につけられた横長の小さな換気窓と思われるが,テントを窓に接するようにレイアウトしている。換気窓の役割を理解していない配置である。

図2 体育館におけるパーテーションテントのレイアウト例


夏のテント利用はしてはいけない。また,ダンボールベッドなど簡易ベッドの導入はスタンダードにする必要がある。

動物園では,厳しい夏の動物の体調管理のために,動物の種類によっては寝室に冷房を設置し,屋外展示場にミストを設置,プールの水温が直射熱で高くならないよう,給水を通常の2倍まで増量するなどの対応をしている。

いしかわ動物園(石川県能美市)の一保友恵さん(企画教育係)は,「(動物に)体調不良が起きないよう,快適な環境を用意することを普段以上に心がけ,何かあってもすぐにケアできるようにしている」と話す 。動物園は,動物福祉の思想にもとづいて動物の生活環境への配慮が細やかになされている。人間の避難所より動物園の方がよっぽどマシと思いたくなる。



* 「厳寒避難所 / 関連死防げ / 北海道で訓練,課題浮上 / 雑魚寝しない」,茨城新聞,2023年2月15日

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