韓国の「原発銀座」


日本の原発立地地域の都市計画や開発規制はほとんど機能していないから,原発ができると周辺の開発がすすんで市街地ができ,いつの間にか,原発と人の住処とが混在しているという状況が生まれる。

日本は本当にひどいと思っていたが,隣の中国,韓国も相当ひどい,否,もっとひどいことに気づいた。

ハンギョレ新聞が,「5歳児の体から大人より大量のトリチウム検出…韓国,9年間の原発「がん訴訟」(1)」という記事を出した *。

慶尚北道蔚珍郡147人(新ハヌル原発の周辺住民),慶尚北道慶州市陽南面94人(月城原発),釜山機張郡と蔚山蔚州郡251人(古里原発),全羅南道霊光郡126人(ハンビッ原発),計618人の甲状腺がんを発症した住民とその家族の,総計2,882人による甲状腺がん共同訴訟の第2審判決である。原発から平均7.4kmの距離で19.4年間暮らしてきた。

記事は,次のように要約している。

主文「原告らの控訴をすべて棄却し、控訴費用は原告の負担とする」。甲状腺がんになった原発周辺村の住民618人とその家族2,882人が提訴した訴訟の第二審判決。釜山高裁は,因果性の立証責任を住民に押しつけ,韓水原は何もしなかった。彼らは再び控訴する考えだ。


韓国の原発配置は,無茶苦茶である(図1)。絶句する。原発配置がどれほどにひどいかを述べる。それに先立って,韓国の原発政策の推移を概説しておく。

図1 韓国の原発配置


韓国は,隣国日本の福島第一原発事故の後,2度の原発政策の転換をしている。

2017年,革新系の文氏が政権をとると,福島第一原発事故の教訓から原発政策をそれまでの原発推進策から脱原発へ大きく転換した。ところが,2022年,保守の尹氏へ政権が交代するとふたたび,原発推進へと逆戻りした。尹政権は,電源構成における原発比率を,2021年の27.4%から2030年までに30%以上へ引き上げる計画を発表した。

韓国の原発は,きわめて人口密度が高い地域に設置されているという深刻な状況がある。原発配置の特徴と問題点を次の3点にまとめた。

第一に,原発密度が異常に高いことである。狭い国土に28基もの原発が立地しており(建設中の1基,廃炉を含む,2023年),世界でも比類がない密度の高さである。

第二に,立地が偏在しており,局所的に原発密度が高い。全8サイトのうち7サイトまでが日本海側に集中している。日本海側の7原発サイトは,隣に並んでいるか,離されていても,その距離はせいぜい80km程度である。

第三に,一つのサイトにおける原子炉数が多い。1サイトに6基(ハンビッ原発),隣接する2サイトを合わせれば8基(古里+新古里原発,韓蔚+新韓蔚原発)である。

要するに,韓国の原発配置は,狭い国土に,巨大サイトを日本海沿岸に数珠つなぎに寄せている。原発は,首都ソウルと北朝鮮国境からできるだけ離し,中国と面する狭い黄海沿岸での立地も抑えると,こうならざるを得ないということなのだろう。

それにしても,原発サイト立地地域の人口は著しく大きい。

古里と新古里原発の30km圏には382万人,月城・新月城原発の30km圏には130万人が住んでいる。日本で,30km圏人口がもっとも多いのが東海第二原発で,91万人だが(2020年),韓国のこれらの原発は,日本の東海第二原発地域を遥かに上回る地域に立地している上に,短い海岸線上に数珠つなぎにつながっている様は異常すぎる。日本海側に住んでいる住民は,右,左どちらを見ても,すぐそこに原発の巨大サイトがあるという環境のなかで,住まわされているのである。

首都ソウルの周辺状況と,大都市の中の原発典型例を取り上げて見ていこう。

韓国最大の大都市圏は,ソウル大都市圏(1,000万人,2015年)だが,その中心都市ソウルは,朝鮮半島を南北に隔てる軍事境界線からわずか40kmしか離れていない。原発は,この軍事境界線とソウルのいずれからも遠ざけられた。ソウルにもっとも近い原発は韓蔚(ハヌル)原発と新韓蔚原発(それぞれ6基,4基)だが,ソウルから200km以上遠ざけられている。

古里(コリ)原発と新古里原発(それぞれ4基,1基廃炉)は,30km圏人口が最大である。韓国第二の都市・釜山(332万人,2023年)と,工業都市・蔚山市(ウルサン,112万人)との間にまたがって設置されているからである。この原発2サイトの立地上の問題は,近くの2大都市に挟まれているということにくわえ,釜山と蔚山の中心部のいずれへも20km足らずしか離れていないということである。

筆者は世界の大都市圏の原発を見てきたが,これまで見てきたなかで,もっとも大都市に近い原発である。

地上に近寄って,その周辺状況を読み取ってみよう(図2)。2大都市の郊外部に立地するこの2サイト周辺には,漁港をもつ既存の集落が並んでいる。その後背地には,小さな住宅地をはじめ,集合住宅団地や進行中の大規模開発も見られる。1970年代後半,古里原発の建設が始まった当時はまだ,小さな漁村が点在するのどかな地域だったと思われる。しかし,1980年代までに古里原発4基,さらに21世紀に入って新古里原発2基の建設がつづくなか,十分な規制もされないまま周辺開発が進行したのだろう。

図2 古里・新古里原発  

(古里原発は写真中央の岬東海岸,新古里原発は隣接する東北方向の海岸線上)


都市は拡大しつづけている。新たな原発を,都市から離して立地させるということはもはや困難である(表1)。人類はまさに,原発と共存して生きていくことを強く求められているのである。しかし,原発との共存など許していいのか?


表1 世界の大都市圏の原発 

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