能登半島地震:原発避難計画は被災者を救わない

元旦16時10分,志賀原発がある能登半島で,M7.6の地震が起きた(図)。石川県によれば,最大震度7を志賀原発のある志賀町で観測した *。

 図 能登半島地震の推計震度分布と周辺原発配置の図

(気象庁発表資料(1月1日,18時10分発表)に筆者が⚫️を加筆)


日本の原発は地震リスクから逃れらない。志賀原発も巨大な揺れに見舞われたが,幸いにも運転停止中だったため,重大事故の発生は避けられた。しかし,被災地の状況からはっきりしたことは,原発の避難計画はまったく絵空ごとにすぎず,原発震災は,住⺠の生存そのものにかかわる権利を奪うということである。原発は再稼働させてはならないということである。

見えてきたこと3点を示したい。

第一は,国,事業者は,原発の情報を決して正確,迅速に発表しないということである。避難計画は,国が地元自治体,住民,地関係機関に情報を正確,迅速に提供することが前提だが,発災直後の政府発表は,「志賀原発は異常なし」だった(1日,17時)。この後,詳細情報が小出しされていった。

北陸電力の情報の出し方は,実に卑劣で姑息である。志賀原発が想定を上回る揺れを受けたことを1週間以上報告しなかったのである。さらに卑劣なのは,規制庁に報告したが地元自治体には報告しなかったことである **。北陸電力が規制庁に報告したのが震災から1週間以上もたった9日で,規制委員会がこれを公表したのは翌10日だった。その内容は,1,2号機の基礎部分における東西方向の0.47秒周期の揺れが1号機957ガル,2号機871ガルというもので,想定は,それぞれ918ガル,846ガルだから,いずれも想定を上回る揺れだった。

原発の被災状況については,国は,発災直後,上述のように,原発に被害はなかったかのように印象づける発表をした後,北陸電力が,被害の具体的状況を小出していった。変圧器の油が漏出し一部電源が使えなくなったこと,最初の発表では油の漏出量はわずかとしたが最新発表では膨大な量に修正されたこと,使用済み核燃料プールの水が飛散したこと,3mの津波が来襲していたこと,津波のために一部防潮堤が傾斜したことなどである。

著しい情報操作が見えるだろう。政府が,先回りして原発に異常はなかったと国民に印象づけ,これにつづいて北陸電力が政府を伺いつつ,情報を小出ししていったのである。福島第一原発事故から何も改善されていない。原発の重大事故が起こっても事故情報は遅れて,そして小さく公表され,重要なことは隠蔽される。これでは,住民は騙されて避難をしないまま,被ばくが強要されることになる。また,子どもの被曝を恐れて避難に踏み切った人は,3.11の時と同様,周りからひどい差別的な仕打ちを受けることになるだろう。

第二に,地震が,冬季,半島というもっとも支援や避難が困難な時期,地域で起こり,くわえて政府支援が不十分な状態がつづいている。被災者の避難生活を劣悪で健康上危険なレベルに押し下げていることが明らかになった。もし,志賀原発事故が起こっていたら,被災者の適切な避難などほぼ不可能だということもはっきりした。避難計画は,どれほどに馬鹿馬鹿しく絵空ごとでしかないかもよくわかった。

モニタリングポストは,避難のタイミングや経路などの判断に必要な情報を提供する設備である。そのモニタリングポストが14カ所で測定不能になったと報じられた(5日)。これ自体,重大な事故であるが,たとえ,モニタリングポストが正常にデータを提供しつづけたとしても,道路が陥没したり積雪,土砂崩れなどで通行不能になれば,それらのデータさえ意味をなさなくなる。

地震は避難の物的前提をつき崩す。そして,情報は操作され隠蔽される。要するに,どうやっても,安全,確実な避難は保障されないのである。

第三に,結局は,原発事故が起こっても,広範囲で避難できない被災者が出ることがはっきりしたということである。避難路が絶たれて避難ができないのは当然,支援物資も不十分な孤立集落の被災者には,被災住宅や避難所で屋内退避せよという無情な指示が出るのだろう。事実上,避難できない地域の被災者は放置される。そして,災害関連死が増える。

原発避難計画はそれでも可能だと言えるのだろうか。原発は再稼働してはいけない。



* 「令和6年能登半島地震による被害等の状況について(危機管理監室)」第7報,石川県,2024年1月3日

** 「志賀原発で一部想定上回る揺れ 規制庁に報告も公表せず―北陸電」,JIJI.COM,2024年1月10日

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