森喜朗氏の発言とアンコンシャス・バイアス
東京五輪・パラリンピック組織委員会 森喜朗会長が,2月3日,日本オリンピック委員会(JOC)臨時評議会の挨拶で,女性蔑視が溢れる発言をした。
海外メディアは,「性差別的発言」「性差別論争に火をつけた」と森発言の本質を的確に表現して発信すると,駐日のドイツ大使館,欧州連合代表部,フィンランド大使館,スウェーデン大使館などがすぐさま森氏の差別発言に沈黙しないとツイートした(図)。図 ドイツ大使館の投稿ツイッター,2021年2月5日
以下が森氏の女性蔑視発言である *。
これはテレビがあるからやりにくいんだが、女性理事を4割というのは文科省がうるさくいうんですね。だけど女性がたくさん入っている理事会は時間がかかります。これもうちの恥を言いますが、ラグビー協会は今までの倍時間がかる。女性がなんと10人くらいいるのか今、5人か、10人に見えた(笑いが起きる)5人います。
女性っていうのは優れているところですが競争意識が強い。誰か1人が手を挙げると、自分も言わなきゃいけないと思うんでしょうね、それでみんな発言されるんです。結局女性っていうのはそういう、あまりいうと新聞に悪口かかれる、俺がまた悪口言ったとなるけど、女性を必ずしも増やしていく場合は、発言の時間をある程度規制をしておかないとなかなか終わらないから困ると言っていて、誰が言ったかは言いませんけど、そんなこともあります。
私どもの組織委員会にも、女性は何人いますか、7人くらいおられますが、みんなわきまえておられます。みんな競技団体からのご出身で国際的に大きな場所を踏んでおられる方々ばかりです。ですからお話もきちんとした的を得た、そういうのが集約されて非常にわれわれ役立っていますが、欠員があるとすぐ女性を選ぼうということになるわけです。
この発言のどこが問題なのか,どこが女性蔑視なのか,2点あげる。
1. 「文科省がうるさく女性理事を4割にとうるさくいう」「欠員があるとすぐ女性を選ぼうということになる」
スポーツ庁は,競技団体の女性役員が20%以下という現状を問題視し,40%以上にするという目標を掲げている。大学でも教員や管理職の女性比率を高めることが求められ,人事で男女どちらを選ぶかという場面では,レベルが同じなら女性を選ぶことを求められている。なぜあえて女性を選ばないといけないのか。
それには,アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)という概念の理解が必要である。たとえば,男女2人の候補者から責任者を選ぶ時,これまで男性を選ぶことが多かった。アンコンシャス・バイアスが働くからである。男性は仕事への責任感が強いからとか,家族を養っているから,女性は産休や育休を取るから,家族の看病介護で休むからなどと,固定的な性別役割分担や女性蔑視,偏見を前提にして,これまで意思決定の場から女性を排除してきたのである。
しかし,組織の意思決定には,その組織の一定割合を占める女性の意見を反映させることが重要で,そのためには,「アンコンシャス・バイアス」を理解し,いろいろな意思決定の場で意識的に女性比率を引き上げることが決定的に重要になっている。
しかるに,森氏は,東京五輪という国家プロジェクト推進の長にありながら,女性役員を登用する,女性比率を上げるという指針の理念,目的をまったく理解していなかった。それだけでも十分に問題だが,さらに,「文科省がうるさくいう」とこの指針を敵対的に見てきたことを,自戒なしに自白したのである。これだけでも,もはやJOC組織委員長に立つ資格がないというほかない。
2. 「女性ってのは優れているところですが,競争心が強い。誰か1人が手を挙げると、自分も言わなきゃいけないと思うんでしょうね。(中略)結局女性っていうのは(中略)、発言の時間をある程度規制をしておかないとなかなか終わらないから困ると言っていて、そんなこともあります」
この文章はわかりにくいが,「女性ってのは」を2度繰り返している。要するに,女性は公的な会議の場でわきまえがないという主張である。これは2重の意味で問題がある。
第一に,森氏のこの発言の趣旨は,会議で質問をしたり意見や異論を述べたりすることは会議を長引かせることになり,根回しや忖度でさっさと決める会議に「わきまえのなさ」を示すものだ,女性はその「わきまえがない」というものである。
会議とは,そもそも異論も含めて意見を出し会議の意思を作り上げるものだが,森氏が好ましいと考えている会議における女性のあり方はその対極にあり,意見や質問などせず,「わきまえて」座っていることだ。議論の闊達な会議に刷新されることを徹底して拒否するという考えである。
第二に,森氏は,はしなくも,女性がたくさん会議に加わることで,当の女性からいろいろ議論が出されて会議が闊達になるということを暴露してしまったが,そのような会議を嫌って,女性は会議の話が長い,わきまえがないと女性への非難にすり替えた。会議における女性の位置,役割を意図して貶める発言であり,女性に向けた極めて卑劣な差別発言である。
私は,森氏の発言は女性蔑視発言だと,問題の三つ目に書いたが,もちろん,氏の発言の問題の第一はまさにこの女性蔑視,女性差別発言にある。森氏の4日の謝罪会見を見たが,森氏は,上に指摘したようなことは何も理解できていないと思った。
5日,森氏は,TV番組で撤回の理由を次のように述べた。「役所から言ってくる人数にばかり手がかかってると,それはもう少しおおらかに考えられたらいい」「だんだん人数を増やしていけばいいんでしょうが,ただ女性だけ増やすとかになると結局話が長くなりますよという話を申し上げた」。
やはり,森氏は,何を批判されているのかまったく理解せず,批判から学ぼうという気もさらさらないということがよくわかった。女性アスリートと五輪をこれ以上傷つけないために,森氏は今すぐ会長を降りるのが正しい選択だと思う。
* 森喜朗会長の3日の“女性蔑視”発言全文,スポニチ,2021年2月4日
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