枝野氏「原発をやめるのは簡単じゃない」は無責任だ
原発になんの関心も知識もなかったが,関西にいるのは今年最後かもしれないと思い,本当に関西最後になったその年の8月,息子をつれて若狭の大飯原発へ見学に行った。20年前のことである。大飯原発を見上げる漁村の民宿に泊まり,息子と海水浴をした後,大飯原発とPR館,ELPARK OHIを見学した(無知だったから,原発の真下で海水浴をした)。
EL PARK OHI 見学記念のペン
今でも強い印象ととともに記憶に残っている展示がある。使用済み核燃料から取り出したプルトニウムでつくるMOX燃料を説明する展示である。展示室入り口に,東京大学助教授という肩書きの研究者の実物代パネルが(男性,そこそこ背が高かった,名前は覚えていない),にこやかに見学者を迎えていた。MOX燃料は夢の燃料として,そのシステムなどを説明していた。
当時の計画では,2010年までに16~18基でMOX燃料を導入することになっていた。いま思えば,にこやかな顔をした東大助教授の実物大パネルが,展示の入り口で見学者を迎え入れていたのは,大飯原発のMOX燃料導入の理解を進めたかったからだ。
原発に無知な市民には,東大助教授という権威と核燃料のリサイクルという夢語りで,プルサーマル計画を受け入れさせることができる,と関電に軽くあしらわれている感じがした。そもそも東大助教授がパネルで,入り口でにこやかに立っていることからして胡散臭かった。
立憲民主党代表・枝野幸男氏のツイート「原発をやめるのは簡単じゃない」を受けて,西日本新聞が枝野氏をインタビューしまとめた記事(2月15日)を読んだ。
枝野氏が,原発は簡単に辞められないと言う理屈はこうだ *。
原発の使用済み核燃料の行き先を決めないことには、少なくとも原子力発電をやめると宣言することはできません。使用済み核燃料は、ごみではない約束で預かってもらっているものです。
再利用する資源として預かってもらっているから、やめたとなったらその瞬間にごみになってしまう。この約束を破ってしまったら、政府が信用されなくなります。ごみの行き先を決めないと、やめるとは言えない。
でも、どこも引き受けてくれないからすぐには決められない。原発をやめるということは簡単なことじゃない。
使用済み核燃料は,リサイクルできる燃料として保管されている。原発をやめれば,使用済み燃料はただのゴミになってしまう。ゴミの処分先はいまだ見つからない。政治が使用済み燃料をゴミにすると決めてしまえば,燃料サイクルを推進している原子力ムラの信頼を損なう。だから,ゴミの処分先がみつかるまで原発はやめられない,というのである。
枝野氏の発言を読むと,2つの疑問,問題に気づく。
一つは,「ゴミの処分先を決めないと原発を止めるとは言えない」ということについての疑問である。これを裏返せば,ゴミの処分先が決まったら原発を止めると言える,ということだ。ゴミの処分先が決まったら,原発断念を原発事業者に説得できるということなのだろうか。勘ぐれば,原発事業者の本心は,燃料サイクル政策を止める理屈がたてば原発を止めてもいいと考えている,だから,処分先が決まった時には政策転換できるというようにも読める。
しかし,考えてみたら,核のゴミ捨て場がないことを,政策転換できないことのだしにするのは卑怯だし,野党第一党代表として間違っている。
そもそも,核のゴミ処分についての責任がある原発事業者が,原発の運転を始めてから半世紀もの間,処分の責任をはたさないまま,原子炉を増やし使用済み燃料と放射性廃棄物を増やし続けてきた。いまや,その貯蔵場所さえなく,どの原発サイトももはや再稼働できる状況ではないのに,今後も無責任の上に無責任を重ねて,核のゴミを増やそうとする原発事業者と事業者を支えてきた原子力ムラに対して,それでも信頼が大切として彼らを立てるのは野党代表として間違っている。政策の間違いをきちんと正すべきであり,次にあげる立憲民主党の政策目標「原発ゼロ」にむけてどのような道筋を構想するかを語らないといけない。
二つ目の指摘は,上に述べた立憲民主党の政策を直撃するものだが,枝野氏の発言は,党の綱領にも,党が提出した「原発ゼロ基本法案」にも反しているということである。
立憲民主党は綱領に一日も早い「原子力エネルギーに依存しない原発ゼロ社会」の実現を掲げている。
同党が,2018年3月,日本共産党,自由党,社会民主党と共同で衆議院に提出した「原発ゼロ基本法案」は,全ての原発を速やかに停止,廃止する,施行後5年以内に全ての原発の廃炉を決定する,再生可能エネルギーを2030年までに40%以上とする,立地地域の雇用・経済対策に国が支援するという基本理念を表明している。
立憲民主党の綱領「原発ゼロ社会」の実現と「原発ゼロ基本法案」は,そもそも3.11の教訓を踏まえたものだ。にもかかわらず,原発ゼロを望む福島の人々と大多数の国民の思いを誠実に受け止めず,自分はリアリストの政治家だから,無責任なことは言えない,原発事業者の信頼を裏切らないと言うのは,本当に悲しいことだと思っている。党代表として責任ある言葉と政策を示してほしい。
* 「原発をやめるのは簡単じゃない」東日本大震災10年、枝野氏に聞く ,西日本新聞,2月15日
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