原発避難計画の何が問題か その4 避難所の避難者占有面積「2㎡/人」はどこから来たのか

茨城県の原発避難計画では,県広報によると,避難所の一人当たり占有面積を「2㎡以上」としている(「原子力広報いばらき」第1号,PAZ・UPZ版,2020年11月)。一方で,毎日新聞は,県原子力安全対策課は,避難先自治体に一人当たり「2㎡」として避難所の収容可能数を割り出すよう指示したと報じている。

筆者は,「2㎡以上」と「2㎡」という異なる2つの基準はどこから来たのか,それらの根拠を示してほしいと県原子力安全対策課に依頼した。

受け取った回答は,「2㎡」については,7年前,基準を決める時,他の立地地域に「2㎡」が多かったのでこれを参考にした *,国の基準はない,平成30年の県議会防災環境産業常任委員会で井手委員の質問に「2㎡」と回答した(9月14日),これが公式だ。

他方,「2㎡以上」については,県が避難先自治体に最低2㎡で確保してほしいと指示した,3㎡になっても差し支えないという趣旨で説明したものだ,ということだった。


ここで,私の疑問である。

1. 茨城県民の計画避難人口94万人は破格の規模である。茨城県が基準とする「2㎡」とはギリギリの人間のサイズである。他の立地地域の避難人口は,東海の1/4以下のところがほとんどである。そんなところでも「2㎡」が多かったというのは本当なのだろうか。

「2㎡」とは,「立って半畳,寝て一畳」 というサイズをもつ 物体の収容という発想である。人格を持つ人間の生活空間をどうとるかという発想ではない。人格否定の数字であり,許されていい計画ではない。多くの地域が,本当にこんな数値で避難計画を立てようとしたのだろうか。にわかに信じられない。

泊原発の場合,泊村住民は札幌のアパホテル,隣の共和町住民はルスツリゾートである(図1)。ツインで泊まるとしたら,一人当たり5㎡ぐらいになるだろう。

泊ではどうやって,体育館などの非居住施設ではなく大量のホテルを確保することにしたのだろうか。ここでは「2㎡」などという基準はつくらなかっただろう。そのような数値基準をつくれば,住民全員にホテルの部屋を確保するという政策は出てこなかっただろうと思う。どのようにしてホテル避難が発想され調整されたのだろう。

図1 共和町住民の避難先(「「泊地域の緊急時対応(全体版)」内閣府,平成28年9月)


そもそもだが,一体どことどこの立地自治体が「2㎡」と決めたのか。全国で17箇所ほどある。調べれば,多くの立地自治体が「2㎡」という基準を設けていた,ということが本当かどうかわかるだろう。

2. 県は, 広報でいう「2㎡以上」とは,2㎡に縛られないという姿勢だと説明するが,毎日新聞によれば,広報を出した原子力安全対策課が,避難先自治体には「2㎡」で計算せよと指示している。同課の二枚舌はどう説明できるのだろう。担当者には,毎日新聞の記事を読むように言っておいた。毎日新聞の記事に照らせば,広報の「2㎡以上」は欺瞞である。訂正が必要である。

回答をもらって,以上の私の疑問を伝えておいた。

最後に,「2㎡」自体が重大な問題だが,避難所の延べ床面積を単純に「2㎡」で割るとは,通路を設けないということである。この問題を担当者に説明した。

住宅地計画では通常,3割程度は道路面積をとる。すべての建物敷地は道路に面していないといけないのである。避難所の配置でも同じ原則が貫かれなければならない。

図2は,バグダッド旧市街地である。たいへん建て詰まっているように見えるが,それでも,建物の総面積(黒い部分)は72%である。残る28%(白い部分)は,道路と中庭である。

図2 バグダッドの旧市街地における建物の状況(『住環境の計画5 住環境を整備する」彰国社,1991年)


現在,作成中の避難計画における避難所の問題は,毎日新聞が指摘しているように,玄関やトイレ,倉庫などを居住空間に算定しているという根本的問題がある。ほかにもベッドがない,荷物置き場がない,パーティションがない,医務室,福祉避難所がない,トイレが絶対的に不足している,ペットはどうするのかなど問題だらけだが,まずは, 避難者の就寝空間配置の基本として,通路をきちんと設けなければならないことを強く主張したい。通路がなければ,人の頭をまたぎ,人の体を時には踏んづけて移動するしかないからである。通路なしの算定基準の見直しを求め,その回答をもらいたい,ということを伝えておいた。


(追記)これを書いた翌日の5月28日,県原子力安全対策課から以下のような回答をメールで受け取った。

「この度は貴重なご意見をいただきまして、感謝申し上げます。原子力災害時における1人あたりの避難所面積については、日々、様々なご意見をいただいております。今回いただいたご意見につきましては内部で共有させていただきますとともに、今後、東海第二地域防災協議会 作業部会等におきまして、国、市町村、関係機関等と課題の共通認識を持ったうえで、課題の解決に努め「実効性ある避難計画」の策定にしっかりと取り組んでまいります。今後ともご意見等ございましたらお寄せ頂ければ幸甚です。この度は誠にありがとうございました。」


(追記2)この論考を書いた後,毎日新聞日野行介記者から,ツイッターで情報を提供してもらった。「避難所(面積)調査はそもそも、国民保護法に基づく避難施設データベースを基に市町村に照会する形で行っている」(2021年6月1日)。

茨城県原子力安全対策課は,「国の基準はない」と筆者にはっきり言ったが,それは正しくなかった。日野記者によれば,県は,「国民保護法に基づく避難施設データベース」整備を求める国の通知によりデータベースを作った。国の通知には「2㎡/人」が明記されているということである。

要するに,この数字を基準にして作成したデータベースが県にある。県は,これをもとに原発避難所(面積)調査を避難先自治体に依頼した。しかし,県は,その事実を隠して,この下にある山崎原対課長の議会回答が茨城県の公式見解であるとした。(追記6月2日)



* 山崎原子力安全対策課長兼豪雨支援室長の回答

「まず,1人2平米という基準でございますが,国等において何らかの基準を示しているのかというと,特にそういったものはございません。このため,県で2平米という基準を定めるに当たりましては,ほかの原発立地地域の避難所の面積などを参考に,2平米が多いということもありまして,2平米としたという経緯がございます」

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