東海第二原発60年超運転の大転換 原発からの自立は遠のくのか


脱原発とうかい塾会報『浜ぼうふう』85号(2023年初夏号)



今年2月のこと。確定申告会場で並んでいた私の後ろでいきなり,男性の声がして「これ,大丈夫?」と言いました。振り返ると,男性は,肩にかけた私の鞄にぶら下がっている「原発反対」の小さな札を指さしています。

「うちの電気代,ものすごく上がってんだよ。これで電気代下がるの?」

確かに,我が家の電気代も去年に比べてなんと,4割以上も上がりました。電気代だけでなくあらゆる物が値上がっています。だから,男性の言いたいことがわかります。

一方,原発再稼働が引き起こす問題は,安全,倫理,経済,環境のどこから見てもとてつもなく広く深いものです。私が原発問題を考えるのは,日々の生活の問題を考えることと同じくらい,いやそれ以上に重要だと考えるからであり,何より福島第一原発事故を起こした国の市民の一人であるからです。

あの過酷事故を起こした以上,私たちは,福島で起こった過酷事故の教訓を謙虚に学び,被ばくした人,故郷を奪われた人々に思いをはせ,自分の生活から離れた地域や時代にどんな問題が起こり今後起こるか,想像力を鍛えることを止めてはならないと思うのです。

今国会で,「GX脱炭素電源法」が成立されようとしています。ロシアによるウクライナ侵略戦争,物価高騰を背景に,電力の安定供給確保を理由にして,原発は60年を超えて運転させ,新設も進める,そのために,国の責任で原子力産業界を財政支援をするという,原発を積極活用する法律です。

原発の過酷事故の教訓に学ばず,国民の生活ではなく原発事業者の利益を守ろうとする政治家たちは,電気代の高騰から短絡的に原発再稼働に結びつけて,早く再稼働をと言いたかった,先の御仁とまったく同類です。

福島第一原発事故から12年。これまで行われた市民の意識調査の結果は,時がたつにつれて原発再稼働を容認する方向へ傾斜している,ということを示しています。日本世論調査会が今年3月,発表した調査結果もその通りですが,「GX脱炭素電源法」に対しては,良識をもつ市民が圧倒的多数であることを示しました(下図)。原発の最大限活用の方針は「評価しない」64%,廃炉が決まった原発の建替などの開発・建設推進は「反対」60%,60年を超える運転期間の延長は「支持しない」71%という結果です。


多数の市民は,原発の運転期間延長や新設は,脱炭素や温暖化対策にはつながらないことを理解しているのです。

しかし,この法律が成立すると,立地地域の意思を抑え込んで,原発は維持されます。立地自治体の自立ははるか先に遠のきます。そればかりか,客観的に見て終焉に向かっている原発を抱えつづけることで,地域の衰退が加速していきます。東海第二原発の再稼働につき,原電に対して事前了解の権限をもつ東海村と周辺5市の首長は,憲法学者・芦部信喜の言葉,「主体自立の精神を獲得せねばならぬ」(1947年)を強く噛み締めるときです。


* 原発60年超運転に71%反対 全国世論調査 「政府は十分説明しているとは思わない」92%,西日本新聞,2023年3月5日

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