長崎県対馬市長の核ゴミ施設調査拒否の表明を受けて



9月27日,長崎県対馬市の比田勝尚喜市長は,市議会本会議で,高レベル放射性廃棄物の最終処分場設置のための文献調査に応募しないことを表明した。心から歓迎し,市長を応援したい。

市長は,表明のなかで,市民の合意形成不十分,市民の分断懸念,観光業・水産業などへの風評被害懸念,想定外要因による危険性,原爆被ばく県としての自覚,を語った。きわめてバランスの良い表明の仕方で,信頼できる市長だと感じる。

国策原子力の推進派・首長の言説と比較した時,比田勝市長のバランスの良い考え方が輝いて見える。

推進派の首長は,もちろん「安全優先」を主張する。しかし,不測の事態や事故が起こった時,どう住民を守るかその方法や具体策は語らない(ただの題目だから)。原発に関して言えば新規制基準に合格したのだから,福島のような事故は決して起こらないと考える(安全神話の再生産)。だから,避難計画は実質的でなくて良いと考える(机上の計画でよい)。しかし,住民に向けてはそうは言えないので,「実効性ある避難計画を策定する」という(ただのポーズ。実効性は検証不能だから)。首長としての最終決断は,住民意向を把握した上でと言うが,議会議決を住民意向と読み替える。

原発反対の住民は,時間と労力を費やし,データや実態調査をもとにした理論を構築し説明するが,推進派首長は決して論理で返さない。原発はクリーンエネルギー,脱炭素に貢献するとする題目を唱える。たちの悪い首長は,反対派住民は感情的,非論理的と貶めて,自己が立つ推進側の優越性を確認したがる。

推進派首長は,過疎を避け地域経済を潤すために核施設維持が必要とするが,エネルギー転換の世界的潮流の最中にあるにもかかわらず,核施設維持政策のリスク,産業転換の可能性について語らない。

話は少し逸れるようだが8月,北海道空知の旧産炭地域を旅行した(写真)

バスの移動中,寂れた状況がずっとつづいた。見ていて悲しいものがあった。旧産炭地域は,石炭企業が,道路,橋,上下水道,電気,病院などの主要公共施設を整備した。炭鉱都市と言われる所以である。

1960代以降,石炭から石油への「エネルギー革命」を迎えた時,炭鉱都市は,潮流を正しく読み取れなかった。炭鉱の閉山が相次ぐなかにあっても,新鉱開発に地域の存続をかけた。

炭鉱自治体は撤退した石炭企業所有の道路,水道,電気,病院など買い取らなければならず,苦難の道を歩まなければならなかった。

原発都市は,炭鉱都市とは成り立ちも構成もまったく異なるが,エネルギー転換の進行にどう対応するか同じ課題を抱えている。半世紀前の石炭産業依存から脱却できなかった炭鉱都市から何を学べるか検討する必要がある。


写真 石炭とその原料メタセコイアの実(北海道三笠市立博物館見学の土産)


話をもとに戻す。

茨城県では,東海第二原発が2024年の再稼働を予定している。これを睨んで,その丁度1年前となる今年9月,東海村,つづいて日立市が突如,避難計画策定時期を明言した。東海村は今年中,日立市は今年度中に策定するという。東海村長は,これまで,策定はいつになるかわからないと発言していたから,明らかに,原電の工事予定に歩調を合わせた計画策定発言である。

茨城県では,東海第二原発再稼働に際して避難計画の策定が義務づけられている14市町村のうち,縁辺自治体である常陸太田市や常陸大宮市,笠間市,鉾田市,大子町の5市町は,人口規模が比較的少なく,一度は,いい加減な避難計画を策定したと発表した。この5市町が近々,「実効性ある避難計画」を策定したと発表する可能性がある。人口2.7万人の水戸市は,計画策定は困難をきわめるが,同じく計画未策定のひたちなか市,那珂市とともに,その動きが注視される必要がある。雪崩を打つようにして,避難計画が出揃う可能性を想定する必要が出てきた。

茨城県では,原発立地周辺で,対馬市長のようなバランスある思考をする関係首長はまだ出てこないが,そんな首長が出てきたら応援したい。また,現首長にも安易な妥協的選択をしないよう強く求めたい。




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