都市の開発競争


寄稿された論文を読んで,思い出すことがあった.工学部に学士編入学し,建築学科の学生になって受けた中瀬勲先生の緑地計画での話である.

時はバブル経済の全盛期.国民の余暇活用を名目にしたリゾート法で全国各地に自然破壊の巨大なリゾート施設が計画され建設されていた.学生たちも自然保護や景観保全に関心がなく,派手な課題設計を競っていた.中瀬先生は,ハサミを持って学生たちの製図室のデスクを回り,山の稜線を遮るような超高層の模型を見つけたら裁断しに行ったと話されたのである.そんな乱暴な指導が可能なのかと思ったが,話が痛快すぎた.ほかの授業は大概忘れたが,この話だけは折に触れて思い出す.

今,大都市では,バブル期の地上げと開発を上回る巨大再開発や超高層ビル建設が進行している.その台風の目・東京では都市計画の異次元の規制緩和がなされ,特集論文でも取り上げられた明治神宮外苑では,緑と景観を壊し都民に親しまれてきた文化施設もつぶす再開発が進められようとしている.大阪市では,国際博覧会2025開催を目指して夢洲での開発が進行中である.多くの問題をかかえ,会期に間に合うのか危ぶまれているところに,能登半島地震が起こった.この開発続行は被災地の復興を大きく妨げるが,それでも博覧会延期も中止も決断されない.

環境アセスメントは,環境を独立の価値として扱い守ることを求める制度である.しかし,都市の開発では,環境の私物化が著しい.アセスメントの理念も手法も生かされないまま,住民や被災者の訴え,科学者や技術者の提言も無視される.そこまでする開発とは何なのか.

最近,「都市ランキング」なるものが引用される場面をよく目にする.大都市については「世界の都市総合ランキング」(森記念財団),地方都市には「都道府県魅力度ランキング」(ブランド総合研究所),「いい部屋ネット 街の住みここちランキング」(大東建託賃貸未来研究所)がある.2000年代に始まったようだ.そのランキング結果に敏感に反応する自治体首長の言葉が伝えられる.

地域衰退,人口減少が進んでいる.都市ランキングは,自治体の不安につけこんで開発競争に駆り立てるのに成功しているようだ.都市,地域はそれぞれ個性をもつ.歴史,文化を生かし自然を守ってこそ,都市の個性は生かされ,未来へつなげていけるのではないか.


『日本の科学者』(特集:環境アセスメント)6月号

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