新潟県だけで流される柏崎刈羽原発の安心テレビCM

東京新聞「発言」で,次のような投稿が載った(2019年5月18日)。読者・上田さんが,東京電力が,柏崎刈羽原発の安心をアピールするテレビCMを新潟県限定で流していることに気づき,首都圏市民として柏崎刈羽原発の再稼働に無関心でいてはならないと主張している。


東京で流れぬ柏崎刈羽CM

連休中に新潟に行き,東京では見たことのない柏崎刈羽原発の安全性PRのテレビCMを見た。これについて新潟日報に投書をしたところ,新潟の方から会員制交流サイト(SNS)で「原発CMが東京では流れていないとは驚いた」という反響があった。

原発事故を収束できていない東電が原発のCMを流す無責任さは言うまでもないが,東京では流していないCMを新潟で流すことも問題だ。新潟は東電管内ではない。しかも,柏崎刈羽原発は,新潟ではなく首都圏に電力を送る原発だ。新潟にだけCMを流すのは,再稼働を新潟だけの問題に矮小化することを意味する。

地方原発の再稼働に無関心でいるのではなく,常に問題意識を持つ。それが首都圏の人間の責務であるし,そうでなければ電力会社の思うつぼになってしまう,と私は思う。首都圏在住者が多いであろう本紙読者はどうお考えだろうか。(会社員 上田義松 32,東京都江東区)


私も東電管内水戸市に住んでいて,東電の安心テレビCMは見たことがない。どんなCMなのかと探したら,東京電力ホールディングスの「CM・新聞・雑誌広告」のページが現れた

http://www.tepco.co.jp/niigata/library/index-j.html 

「柏崎刈羽原子力発電所では,福島第一原子力発電所事故の反省を踏まえ,さまざまな安全対策に取り組んでいます。これらの安全対策についてCMや新聞,雑誌広告などを通じて新潟県の皆さまにお知らせしています」という説明につづき,CMの説明が加えられている。「柏崎刈羽原子力発電所における津波・冷却対策や緊急時の対応力強化に向けた取り組みをご紹介しています」

この説明の下に貼り付けられているCMは,総論編,浸水対策編,電源対策編,冷却対策編,対応力編,社員の決意として板原編,齋藤編,合計7種類ある。クリックしてみたが,数秒後,「アクセスしようとしているサイトを見つけられません」という表示画面に変わった。pdfファイルの新聞・雑誌広告は見ることができるのだが,私のネット環境ではCMはどれも見られなかった。

柏崎刈羽原発の「CM・新聞・雑誌広告」のページは,東京電力ホールディングスではなく,その下にある新潟本社のページにあった。再度,説明を読み返せば「これらの安全対策についてCMや新聞,雑誌広告などを通じて新潟県の皆さまにお知らせしています」と書いてある。新潟県民向けなのである。だから,関東圏の電力消費者・市民にはテレビに流さないということのようである。

東京電力ホールディングス新潟本社は,3.11後の2015年に設立された。「本社」というが独立した会社ではない。「新潟県内の皆さまのお声をよくお伺いしながら,新潟県の一員として『地元本位』の経営を実践してまいります」と代表者が述べるように,新潟県対応の事業部である。柏崎刈羽原発の再稼働に向けた事業が中心だろう。

新潟本社の別のページ「動画 発電所トピックス」にある「柏崎消防署東電フュエル合同救助訓練」(平成31年1月24日,4分58秒)が見られる。これを見ると,東電側担当者が「もし万が一のことが起きた時でも我々社員一人ひとりが表に立って対応が取れるというところを地元の人たちに見ていただいて安心していただく」と述べている。原発の安全神話に代わる新たな安心神話のCMが,新潟県民に集中的に向けられている。

上田さんは,この東電の安心CMの問題は何かについて的確に指摘している。

「新潟にだけCMを流すのは,再稼働を新潟だけの問題に矮小化することを意味する。地方原発の再稼働に無関心でいるのではなく,常に問題意識を持つ。それが首都圏の人間の責務であるし,そうでなければ電力会社の思うつぼになってしまう」。上田さんは問題の本質を鋭くえぐるとともに,首都圏の私たちが考えるべきものについても提示した。

これに私なりの分析を加えておきたい。東電は,市民を,新潟県民と関東圏市民に二分する。新潟県民には,再稼働の土壌づくりのために安心テレビCMを流す。一方,関東圏市民には安心テレビCMを流さない。なぜか。それは,単に管内に東電の原発がないからではない。

東電には2つの重大な原発問題がある。一つは,自身の福島第一原発(これは東北電力管内にある)の事故処理と除染・賠償問題で,もう一つは,自身の原発ではないが管内にある老朽・東海第二原発の再稼働問題である。関東圏には少なくとも2万人の福島から避難している人々がいて,今も帰れない。もう一つの老朽被災東海第二原発の再稼働は重大事故リスクが高く,首都圏市民を巻き込むとして大問題になっている。

この2つの原発問題のため,東電は,関東圏市民に原発の安心テレビCMを流さない。もし安心テレビCMを流したら,この2つの原発問題で深く傷つき苦しんでいる関東圏市民が大論争を提起するのははっきりしている。東電は,関東圏市民の感情を逆なでしないようにということだろう,原発の再稼働につながることには一切触れず,電気とガスとのセットプラン提案といったゆるいCMだけを流している。首都圏の市民は,東電のこの姑息さをよく理解しておく必要がある。

柏崎刈羽原発1〜4号機と5〜7号機のそれぞれ一部が立地している柏崎市は,1〜5号機の廃炉計画策定を求めている。東電による廃炉計画の提示が近いと言う *。柏崎市と刈羽村の歩調が揃わないところがもどかしいが,まずは,この原発と柏崎市の動きに注視していきたい。


* 朝日新聞「東電の廃炉計画提示は7月上旬 柏崎市長が見通し」,2019年6月7日


(原電茨城事務所前抗議行動「星空講義」7,2019年6月14日)

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