ドイツとフランスの廃炉と立地地域支援
前回のアメリカ,イギリスにつづいて,ドイツ,フランスにおける原発立地地域への経済的,社会的支援状況を概観する。
ドイツ
ドイツは,2002年,原発の新設を認めず,既設原発には稼働年限を決める段階的廃止を決定した。その後,稼働延長へと揺り戻されたが,日本が起こした最悪レベルの福島第一原発事故に学んで2011年6月,脱原発の最終決定を下した。これにより,2022年までに全ての原発が閉鎖される。
ドイツでは,原発立地による自治体の利益は事業者からの営業税収入が中心である。原発が閉鎖されれば営業税収入はなくなるから,立地地域は,新たな産業を育成する方策を考え実行することが求められる。
これに対し,日本では,立地自治体に交付される電源三法交付金という制度がある。この制度は,原発立地だけでなく,廃炉や中間貯蔵施設立地に対しても交付されるから,立地地域は原発依存からなかなか断ち切れない。ここに日本とドイツの決定的な違いがある。
旧東ドイツ地域と旧西ドイツ地域で事情は異なる。旧東ドイツ地域のグライフスヴァルト原発とラインスベルク原発の2サイトでは,前回述べたように,原発事業者を監督する政府が消滅したため,連邦政府が,事業者EWN社を国営化し,廃炉費用を担っている。EWN社は廃炉事業をすすめつつ,連邦政府,州政府の支援を得て,解放された1/3のサイトに工場団地をつくり,立地自治体のルブミンほか2者は,工場団地に隣接する工業港を整備した。
この専用港をもつ工場団地は,海上輸送に便利という利点から30を超える企業が入居し,2016年の営業税収入は,工場団地稼働初期との比較で100倍になった。ルブミンは,豊かになった財政で住環境整備と自然保全をすすめ,新たな住民と観光客を呼び込みに成功している。
旧西ドイツ地域は,原発の段階的廃止期の廃止例であるシュターデ原発,3.11後の最終決定期の廃止例であるビブリス原発を取り上げる。これら2例はいずれも,今世紀の閉鎖事例で,地域再生の評価も難しいが,とりあえず現在までに獲得できた事項を記述する。
シュターデ原発は,1994年,州政府が連邦政府に先駆けて段階的停止を決定したニーダーザクセン州にある原発で,州内5サイトのうち,最初に廃炉が決定された原発である。シュターデは,原発と電力多消費型企業を地域経済の基盤にしていたため,廃炉決定は産業都市シュターデの存立にかかわる重大な事態であった。そこで,シュターデは,連邦政府や州政府と交渉して経済支援を得て,近隣大都市ハンブルグとの高速道路整備と鉄道延長,エアバスと炭素繊維の研究センターの誘致を実現させた *。
ビブリスは,原発のほかに産業と言えるものがない人口6,000人余りの町であった。2011年の閉鎖で600人の雇用が失われ一時,町の人口は減った。2013年から人口は8,800人前後で横ばいとなり,近年は400人増加しているという。現町長フジカ氏は,原発依存からの脱却を目指し,ナレッジベースの産業育成を狙い,町内1.3haの土地にITや再生可能エネルギー関連企業を誘致しようとしている **。
フランス
フランスは,原子力発電比率75%と原子力依存度が著しく高い国である(イギリス:20%,アメリカ:19%,ドイツ:16%,日本:1%,2012年)。この電力比率を2035年までに50%に低減することを公表した。
当初の達成期限は2025年だったが,原発を減らすには,石炭火力発電所を維持し新たなガス火力発電所の新設が必要となる。温室効果ガス排出量を増やさず原子力依存度を減らすには,原子力比率の達成時期を先送りする必要があったためという。
フランスには,廃止措置にともなう立地地域への支援制度はない。ということだが,高速増殖実証炉スーパーフェニックスが1998年,政策変更により廃炉を決定した時,地元のクレイ村とマルヴィル村へは,地域活性化を図るため,地元への財政的優遇措置に関する以下のようなプログラムが提示された。
政府は経済発展と雇用創出を支援するための経済開発基金を設立し、年間1,000万フラン(2億2,000万円)を5年間にわたって供出する。フランス電力公社(EDF)は,これに年間500万フラン(1億1,000万円)を上乗せする。また経済的・社会的環境の整備、企業の創設、企業の誘致、雇用問題も検討されている ***。
ここまでアメリカ,イギリス,ドイツ,フランスの廃炉と地域支援について見てきた。廃炉を廃炉専門会社に外注し人員が入れ替わり,地域支援はないアメリカ,国家廃炉機関NDAが全国の廃炉を統括し地域支援をするイギリス,地域支援の制度はなく事情に応じて政府,電力事業者が地域支援をするドイツ,同様に支援制度はないが高速増殖炉の廃炉に際し立地地域の雇用支援,企業誘致をした例があるフランス。
廃炉が決定した立地地域の経済,社会的支援制度が整えられているのは,4国のうちイギリスだけである。日本はどんな支援のあり方を目指したらいいのだろうか。別の国も取り上げてさらに考えていきたい。
* 渡邊理絵「ドイツにおける原子力政策転換と重層的ガバナンス ―シュターデ原子力発電所を事例として―」環境経済・政策研究 12(1),2019
**「脱原子力 ドイツの実像 vol08. 町長は一時間たっぷりと,新しいビブリスの町づくりを語った。原子力抜きの町づくりを。 -ビブリスを行く」,原子力産業新聞,2016年3月11日, https://www.jaif.or.jp/norg_vol-08/2
***「高速増殖炉スーパーフェニックスの即時閉鎖(1998年12月30日)」,原子力資料情報室,2000年3月
(原電茨城事務所前抗議行動「星空講義」16,2019年9月27日)
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