刈羽村品田村長と東海村山田村長の対談記事を読む6 持続可能な開発
昨年11月,2村長の対談記事 *が見つかると,山田村長の「原発に反対なら家から一歩も出るな」という過激で無見識な発言が注目されて,東京新聞をはじめいくつかのメディアが批判した。市民も村長に面談を求めその真意を問いただした。
2村長の発言は,上述の発言にみるような過激性で目をひいたが,論理性に乏しく科学性もい。対談としてもなんら新しい視点も提案もなかった。
しかし,この対談には,さらに批判すべき点もあり,もっと大きな問題を論じる必要もあると感じ,これまで5回の対談批判をしてきた。今回でとりあえず締めとし,議論の最後のテーマを「持続可能な開発」とした。
さて,世界のエネルギー予測を見ると,原子力発電の将来展望はほとんど見込めない。日本の原発立地自治体も順次,原発ゼロ地域になる。これは避けられない。立地地域では,早急に地域の持続可能な開発のあり方を考えるべき時に来ている。
原発立地地域の将来を考える上で重要になるエネルギーの将来予測を確認する。
2017年11月,国際エネルギー機関(IEA)が発表した「世界エネルギー概要2017」は,今後2040年までに世界で投資される年間平均発電容量の2/3が再生可能エネルギーになると述べている(図1)**。その理由は,新世代の最小コストの源泉になるからである。
図1 タイプ別にみた世界の年間平均純増加量 *
図1を見れば,2010年から2017年までの8年間でも,太陽光発電(PV)と風力,その他の再生可能エネルギーによる新設発電容量は,石炭,ガス,原子力のいずれと比べても一段と多かった。しかし,2018年以降の24年間は,前の8年間にも増して,再生可能エネルギー発電への投資は大きく伸長する。他方,石炭は急減し,ガスと原子力は伸びない。
「概要2017」は,さらに,再生可能エネルギーの今後の展開について次のように詳述している。太陽光発電が,中国とインドの主導で急速に展開する。これにより,2040年までに太陽光発電が低炭素容量の最大の供給源となり、総発電量の40%が再生可能エネルギーになる。EUでも新規の発電容量の80%は風力を中心とした再生可能エネルギーが占める。
「概要2017」は,これらにより,石炭の時代は終わるだろうという見通しを立てている。
その再生可能エネルギーは,現在,新しい技術を駆使して急速に伸長している。これまでは,電力大手が,石炭やガス,原子力などの大型発電所を建設し,電力供給の効率化を進めてきた。日経新聞は,こうした既存の大手事業者を一切介さず,家庭で発電し,AIを活用して個人間,地域で融通し合うドイツの取り組みをとおして,再生可能エネルギー発電の具体的な進行状況を報告している ***。世界はすでにエネルギー転換の潮流の中にある。
議論を2村長の対談に戻そう。
対談目的はBWR型原発の再稼働推進のアピールだった。その内容は,原発事業者の安全対策を持ち上げ,再稼働反対の市民を愚弄するという,首長対談としてはとても低いレベルだった。しかし,この対談は,単にとても低いレベルというだけではない。山田村長は,原電から求められる事前了解に先立つ住民総意の確認前に,再稼働推進の態度を自ら表明したわけで,中立性を欠く問題の大きい対談だった。
2村長は,原発立地自治体の首長である。世界と日本のエネルギー状況を俯瞰しつつ,村がかかえる課題を明らかにし,なぜ再稼働推進を目指すのか,再稼働をとおして地域の発展をどう構想するのかについて語らなければならなかった。それなくして再稼働推進を主張することはありえないからである。
上述のように,原子力発電は,今後ますます新エネルギーとのコスト競争に勝てなくなり,ほとんど伸びない。法定運転年限は40年,最長でも60年である。
したがって,たとえ再稼働したとしても,残りわずかの運転年限が来たらその先はないと見なければならない。首長は,その先を踏まえた地域の持続可能な開発をどう構想するのか。住民に今後の開発構想を示す責任がある。
原発立地地域にはどんな持続可能な開発があるのだろうか。
国連開発計画(UNDP)が提示している「持続可能な開発目標(SUTAINABLE DEVELOPMENT GOALS=SDGs)」というのがある。目標は17ある(図2)**** 。これを手掛かりに,原発立地地域の持続可能な開発を考えてみようと思う。
UNDPの目標項目は以下のとおりである。
1. 貧困をなくそう / 2. 飢餓をゼロに / 3. すべての人に健康と福祉を / 4. 質の高い教育をみんなに / 6. ジェンダー平等を実現しよう / 7. エネルギーをみんなにそしてグリーンに / 8. 働きがいも経済成長も / 9. 産業と技術革新の基盤をつくろう / 10. 人や国の不平等をなくそう / 11. 住み続けられるまちづくりを / 12. つくる責任つかう責任 / 13. 気候変動に具体的な対策を / 14. 海の豊さを守ろう / 15. 陸の豊かさも守ろう / 16. 平和と公正をすべての人に / 17. パートナーシップで目標を達成しよう
図2 持続可能な開発目標 ***
これらを一覧してわかることは,持続可能な開発とは、民主的なガバナンス,平和の構築、気候変動や災害への備えなど,多様な目標へのアプローチを通して実現していく包括的な開発概念だということである。
説明によれば,SDGsは,パートナーシップと実用主義の精神に基づき,いま正しい選択をすることで,将来の世代の暮らしを持続可能な形で改善することを目指している。それぞれの国の優先課題に応じて,明確なガイドラインやターゲットも設けられているという。
SDGsの役割は,包摂的なアジェンダとして,私たち人間社会と地球環境の両方にとってプラスとなる変化の実現に向けて,私たちを団結させるものであるという。
原発立地地域は,周辺自治体と比べて財政力指標が高く,財政力の豊かさが住民生活の満足度を高めている。その一方で,原発立地ゆえの問題が存在する。
とりわけ原発への依存が強い地域では,2村長が今回の対談で明らかにしたように,安全神話が吹聴され,安全神話を信じない反対住民の考えを排除する,さらには反対住民の自由な生活を阻害するというとんでもない考えが発せられる。こうして,住民の間に分断がもたらされる。
SDGsのプロセスでは,行政,住民,事業者,民間がどのようにパートナーシップを組むのかが図られなければならない。原発事故という巨大なリスクを抱える立地地域は,危機に対するレジリエンス(災害や危機に対する柔軟な回復力)を高めることが絶対に重要である。
要するに,原発への強固な依存はSDGsの大きな障害になるのである。原発を再稼働することもSDGsの障害になりうる。あるいはSDGsのプロセスを遅らせることになる。
東西ドイツ統一を契機に,突然の8基の廃炉に直面したドイツ・ルブミン村の取り組みを思い起こしてほしい。この村の取り組みがこのことを証明している。
ルブミン村は廃炉会社とパートナーシップを組んで,廃炉サイトの再開発を規定する地区詳細計画を作成した。そのプロセスで,住民アンケートが実施された。それから四半世紀後の今日,ルブミン村は新エネルギー育成工業団地の成功で,郡の中でもトップクラスの財政力を持つ自治体に生まれ変わったのである。
* 品田宏夫,山田 修「新しい視点48 BWRの再稼働 困難あり 便法あり 希望あり」『ENERGY for the FUTURE』 No.4,2019年10月
** IEA, "World Energy Outlook 2017" 2017年11月,https://www.iea.org/reports/world-energy-outlook-2017
***「エネルギーバトル 電力,変わる主役 (上) 技術が変える供給網 大手介さず個人で融通」日本経済新聞,2020年1月21日
**** 国連開発計画駐日代表事務所, 「持続可能な開発目標」,https://www.jp.undp.org/content/tokyo/ja/home/sustainable-development-goals.html
IEA(International Energy Agency:国際エネルギー機関)とは,第1次石油危機後の1974年に,キッシンジャー米国務長官(当時)の提唱を受けて,OECDの枠内における自律的な機関として設立された。事務局所在地はパリ。事務局長は,ファティ・ビロル(Dr. Fatih Birol)前チーフエコノミスト(任期:2015年9月~2019年8月。2018年1月の理事会で再選が決定し,2019年9月から4年間の任期で2期目を務める予定)。日本を含む30か国が参加。IEAの目標は,エネルギー安全保障の確保,経済成長,環境保護,世界的なエンゲージメント「4つのE」。「4つのE」を掲げ,エネルギー政策全般をカバー。 以上,外務省HPより転載,平成31年4月4日
(原電茨城事務所抗議行動「星空講義」27,2020年1月24日)
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