「地域で考える高校教育」 岩手県33市町村長による県教委高校再編計画への新たな提言

2020年1月14日、「岩手の高校教育を考える市長村長懇談会」が,中山間地域や沿岸地域の小規模校存続を掲げた提言書をまとめた。遠野テレビが次のように伝えている *。


岩手の高校教育を考える市町村長懇談会

岩手の高校教育を考える市長村長懇談会が、今週火曜日(1月14日)盛岡市で開催されました。その様子が届きましたのでお伝えします。
この懇談会は、平成28年3月に岩手県教育委員会から高校再編計画の前期計画が示されたことを受け、県内の市町村全体で情報を共有し、連携して取り組むための組織として、平成30年10月に設立されました。本田市長をはじめとする県内5つの市長、町長が世話人となり、県内33の市町村長で構成されています。
この日は、代理出席を含め県内全ての市町村長が出席し、岩手県教育委員会が現在検討を進めている令和3年度を初年度とする高校再編計画の後期計画策定に関しての提言書について、内容が提案され、全会一致で承認されました。
この提言書は、国が、第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」で、地域との協働による高校教育の推進を重点として位置づけていることを踏まえてまとめられ、地域検討会議などの意見を踏まえ、大学教授の監修を経て成案化されました。
提言の趣旨は「高校教育の充実による岩手の未来を切り拓いていく地域人材の育成」「県と市町村が高校経営に関して新たな連携・協働による『岩手モデル』の構築」の2つとなっています。提言項目は、「中山間地・沿岸部における小規模校の存続に関すること」や「岩手県独自の少人数学級の運用に関すること」など4項目となっています。
岩手の高校教育を考える市長村長懇談会では、県内全市町村の総意として集約した思いを尊重し、高校再編後期計画が策定されるよう、この提言書をもとに、県や関係団体などに、地域人材を支える高校教育の新たなステージづくりのため、提言活動を展開していくということです。
なお、この懇談会の事務局となっている市教育委員会では、各方面への提言活動を展開していくほか、市が策定を進めている次期総合戦略に、高校魅力化支援のための施策を位置づけ、盛り込む作業を進めていくということです。


「岩手の高校教育を考える市長村長懇談会」による提言書は,岩手県教育委員会が,県内3地区の高校再編計画を提示したことに始まる。再編計画には,遠野高校と遠野緑峰高校の統合計画が含まれていた。

遠野市は2校存続要望を表明,遠野市民も,過疎地の高校廃校は,高校生の他地区流出を促し,未来の地域を担う若者の定着を阻害するとして「高校再編を考える市民会議」を組織した。

遠野市と遠野市民から始まった高校再編計画の再考を求める取り組みは,次のように展開していった **。

 2015年11月 岩手県教育委員会,県立高校再編計画を提示

 2016年3月 県教委,「新たな高校再編計画」前期計画(2016〜20年)発表

 2016年3月 遠野市は遠野高校,遠野緑峰高校両校の存続要望

        遠野市民,「高校再編を考える市民会議」を結成

 2017年11月 市民会議と遠野市長,高校少人数学級実現と両校存続を求める署名(1,0304筆)と高校再編に新たな判断基準を求める請願書を県議会に提出

 2017年11月 県議会,全会一致で請願を採択

 2018年3月 県議会,国に財政措置を求める意見書の提出を議決

 2018年5月 県教委,再編計画実施の延期決定

 2018年10月 「岩手の高校教育を考える市町村長懇談会」設立(図1)

 2020年1月 市町村長懇談会,小規模校存続の提言書をまとめる

要するに,遠野市と遠野市民の連携した取り組みが,県議会を動かして,地元2校の統合計画実施を延期させ,この延期決定に動かされた,県内全33の市町村長が懇談会を立ち上げ,今回,①中山間地・沿岸部における小規模校の存続,②岩手県独自の少人数学級の運用,を含む提言書を発表した,ということだ。


図1 地域で考える高校教育 (広報遠野,2018年12月)


岩手県は,広大な県土に多くの中山間地を抱えているという地勢的な条件にくわえて,東日本大震災により沿岸部は津波により大きな被害を受けているという事情もある。

小規模校の存続と少人数学級の実現は,岩手県のこうした条件や事情から出されてきた切実な要求なのだろう。これら高校のあり方提言に加えて,提言実現のために,県と市町村が高校経営に新たな連携と協働で「岩手モデル」を構築する,というもう一つの大きな提言もしている。

この懇談会の事務局となっている遠野市教育委員会HPで,今回の提言書を探したが,公開されていないようだ。詳細の確認ができていないが,上記報道によれば,今後,各方面への提言活動を展開していくほか,市が策定を進めている次期総合戦略に,高校魅力化支援のための施策を位置づけ,盛り込む作業を進めていくという。「岩手モデル」の今後の展開を見守りたい。



* 遠野テレビ,1月17日,http://www.tonotv.com/html/catv/daily/2020/01/17/1.html

** 「地域で考える高校教育」『広報遠野』2018年12月,http://www.city.tono.iwate.jp/index.cfm/49,46122,c,html/46122/P4-5.pdf

0コメント

  • 1000 / 1000