多発する豪雨と小さくならない災害

地方と農村を襲った近年の大水害

地方ではいま,人口の減少と高齢化が進行しつづけている。地方が担っている農業分野ではとりわけこの傾向が著しい。農村と農業を守ることが重大な課題になっているが,近年,相次いだ大水害は各地の農村を襲った。

関東・東北豪雨(2015年9月),九州北部豪雨(2017年6〜7月),西日本豪雨(2018年7月),九州豪雨(2019年8月),台風15号(同年9月),台風19号(同年10月)などである。とりわけ2018年と2019年,日本列島に来襲した豪雨と台風は,全国各地で雨量記録を更新する大水害となった。2018年の豪雨では,48時間から72時間という長雨記録が西日本123地点で塗り替えられ,翌2019年の豪雨と台風では,12時間雨量記録が東日本の120地点で更新された*。

2019年の台風19号は,自民党・二階俊博幹事長が,被害実態を正しく把握しないまま「まずまずで収まった」と軽くあしらったために,囂々たる非難を受けたあの台風である。

本稿は,東日本各地の農村に巨大な水害をもたらした台風19号を取り上げ,まずは,台風19号はどんな被害をもたらした台風だったかを確認し,つづいて,筆者が茨城県で考えたことをまとめたい。

10月12日,大雨特別警報が静岡県,神奈川県から宮城県,岩手県にいたる13都県に発令され,この警報にもとづいて避難指示が各地で出された。少なからぬ住民が早めに避難したが,それでも残念ながら,被害を最小限度に抑えることはできず,99人が死亡し,3人が行方不明のままである。住宅では,3,280棟が全壊し,7,837棟が床上浸水した。この巨大な被害に対し,14都県390市区町村で災害救助法が適用されたが,その数は,東日本大震災の8都県237市区町村を大きく上回る過去最大規模となった。


茨城県の台風19号の浸水被害

茨城県では,久慈川,那珂川,鬼怒川,利根川とその水系の多数の地点で氾濫,決壊,越水などが発生して流域各所で浸水した**。しかし,これらの被害全容が見えてきたのは台風通過後しばらくしてからで,最初に県内の水害を伝えたのは,実際に被害を受けた住民や,河川の氾濫や浸水を目の当たりにした住民が発したSNSだった。

台風が通過した10月13日の朝,私は,恐る恐る家の外の様子を見て何の被害もなく安堵していたところ,息子から,水戸市飯富町に住む友人より避難に遅れたためボートで救出されたというメールがきたと伝えられた。その話に驚き,どんな状況なのかとツイートしてみたところ,すぐに写真が載せられた(図1)

図1 水戸市飯富町の浸水状況

(最大7.2m深さの浸水で住宅と田んぼが水没,ホームセンターだけが浮かんで見える。2019年10月13日撮影,大内逸雄氏提供)


大手メディアは,当初,千曲川の氾濫など巨大な被害を繰り返し報道していて,その他の東日本各地がどんな被害状況になっているのかはなかなかわからなかった。そのうちに,県北の久慈川と県央の那珂川が氾濫し,あちこちで浸水被害が起こっていることがわかってきた。図1の飯富町をはじめ周辺の田園地帯に浸水をもたらしたのは,那珂川の氾濫と,低地の集落を挟んで流れる那珂川水系の西田川と田野川の越水だった(図2)

図2 水戸市飯富町周辺の浸水状況(2019年10月13日撮影,茨城県資料***)


県北の久慈川とその水系河川流域では,堤防の決壊で常陸太田市,常陸大宮市,那珂市に浸水被害をもたらしていた(図3)

図3 久慈川流域の浸水状況(2019年10月13日撮影,茨城県資料***)


豪雨水害から農村と農業を守る

ここで,茨城県の特徴を確認しておきたい。県面積の7割を平地が占める茨城県は,広大な農地を擁して首都圏へ食糧を供給する,農業産出額全国2位の農業県でもある。図2図3に見える被災地は,那珂川河口にほど近い水戸市郊外の農村地域と,久慈川中流部の農村地域である。ハクサイ,ネギ,水稲,ホウレンソウなどが被害を受けた。

2大河川流域の農村地域の水害のほか,関東平野の一部をなす県南の農村地域も台風被害を受け,農業被害額は136億8643万円にのぼった(台風19号の1ヶ月前に来襲した台風15号も含む)。

大河川は,100年から200年に一度発生する規模の降雨を基本において,治水施設整備の計画が立てられている。中小河川も自治体で整備計画がつくられている。しかし,大きな水害は毎年のように繰り返され,水害は一向に減らない。

台風19号で甚大な被害を受けた農業者の離農と若い農業就業者の生産意欲が落ちないか強く懸念されている。一向に減らない日本の豪雨災害への対策を強化充実することは,農業者と農業を守ることと直結している。

つづく新井論考は,茨城県の常総市(鬼怒川)洪水被害を取り上げ,ダムを造るために河川整備をおろそかにしてきた河川行政の問題を指摘し,被災者支援の成果を報告する。


* 小池俊雄「気候変動で激甚化する水災害への対応を考える」『科学』Dec.2019,Vol.89,No.12
**  非常災害対策本部「令和元年台風第19 号に係る被害状況等について」,2019年10月20日,
http://www.bousai.go.jp/updates/r1typhoon19/pdf/r1typhoon19_16.pdf
*** 茨城県「令和元年台風第19号の概要」,
http://mobile.pref.ibaraki.jp/doboku/kasen/19gou/documents/04.pdf,   https://www.pref.ibaraki.jp/doboku/kasen/19gou/documents/02.pdf


(『建築とまちづくり』No.495, 2020 April,新建築家技術者集団)

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