病床削減で医療崩壊に直面する病院 県立高校の削減策は必要か

コロナ感染の拡大で,病床が逼迫,医療スタッフは不足,感染症病棟スタッフは疲労困憊している。国がすすめてきた病床削減策の問題が可視化された。

3月27日,田村智子氏(共産党)が,加藤厚労相に,全国の公立・公的病院の統廃合と病床削減の計画撤廃を迫った。これに対する厚労相の回答は,「コロナ対応と並行して将来に向けた対策も考えるのは当然だ」というもので,病院削減計画の見直しを拒否した。

コロナ禍のために,病院は,外来診療の縮小,手術の延期,救急医療崩壊の危機へと事態は急発展している。それにもかかわらず,コロナ対応と病院削減計画は別だと言う厚労相は,何を見てそう答えられるのだろうか。

4月16日,ロイターが「コロナ患者急増、病床削減計画見直しの可能性 政策の矛盾露わに」という記事を出した *。コロナ感染の拡大で,病床削減策の矛盾が露わになり,国は,病床削減計画を見直す可能性を示唆した,という趣旨である。さて,削減計画は見直されるだろうか。

ところで,人口減少を理由にする病院削減策と同じく,文科省は,生徒数の減少を理由に全国の県立学校の削減をすすめている。生徒数が減っても集団教育を維持し学習環境を効率化するため,学校の統廃合が必要だという。

病院には「医療資源の効率的な活用」「病床稼働率の向上」のためにとして削減を求め,学校には「学習環境の効率化」「効率的かつ効果的な学校施設の整備」のためなどと言って,学校施設と教員の削減を合理化している。「人口減少」は,「効率」や「稼働率」とくっつけることで,なんと手前勝手よく使われてきたことか。

文科省がすすめる,その県立高校の統廃合計画を悪用した自治体がある。奈良県である。県教委は,1981年以来40年にわたって放置してきた奈良高校の耐震改修を,普通科の学校で,同校にもっとも近い平城高校を閉校させ,空いた平城高校へ奈良高校を移転させることで,問題解消する計画を立てた。すなわち,「再編計画」の名を借りて,再編とは全く関係のない耐震改修問題を解消させるというのである。もちろん,1校閉校するのだから「再編計画」の目的に合致もしている。このような計画を立てる県教委だから当然なのだが,奈良高校の耐震改修放置を詫びず,平城高校の理由なき閉校についても説明もしない。

この計画に反対する2高校の保護者や生徒,市民が,署名活動,訴訟,県知事・県教委への公開質問などに取り組んできた。しかし,県教委は,市民の反対を無視して,平城高校の2020年度新入生の募集を停止した。2022年度末に平城高校生をゼロにして,翌4月には,奈良高校を移転させる計画を強行実施しようとしている。

岩手県では,県教委が発表した再編計画に対して県内の全市町村長が結束し,県立高校の統廃合計画に対する新たな提言をつくり,その展開を図ろうとしている **。岩手県は,広大な県土に多くの中山間地を抱えているという地勢的な条件にくわえて,東日本大震災により沿岸部は津波により大きな被害を受けている。事情が違えば,こうした自由なあり方検討が認められるべきである。

さて,県立高校の削減は,どんな影響をもたらすだろうか。あるいはどんなことが起きるだろうか。医療システム崩壊の危機に直面している病院の統廃合策の実態と原因から類推してみた。

公立学校の統廃合をすすめるために,これまでもそうであったように,今後さらに教育への予算が減らされていくだろう。人件費の削減をはじめ学校設備費の削減がすすみ,教員のさらなる労働環境の悪化とこれによる教育の質の低下がもたらされるだろう。

学校教員はもはや魅力ある仕事ではなくなり,大学教育学部には能力と意欲のある学生が来なくなるだろう。そうして教員の質の低下がすすむだろう。

資力のある親は,学習環境と教育の質が低い公立高校を選ばず,私立高校により魅力を見いだして私学に子どもを入れようとするだろう。公立高校は資力の少ない世帯の子どもの学校ということになるだろう。高校教育の質は,私立と公立で二分されることになるだろう。

公立高校は生徒数の減少に対応させて減らす計画だから,中山間部では,学校へのアクセスはより悪くなって生徒はさらに集まらず廃校がすすみ,公立高校の立地はどんどん中心部へウエイトが高まるだろう。地域に高校がなくなると,子どもたちは中学を卒業すると都市へ出て行き,そのまま帰ってこないだろう。帰ってきたくてももう故郷には仕事がないだろう。地域のあり様は大きく変質するだろう。これらのうちの相当部分はすでに現実になっている。

要するに,県立高校の削減は,私立高校に利する政策であるとともに,地方を衰退させる政策である。病院削減と同様,良いことは何ももたらされない。地域の実情と関係なく一律に削減するような愚策は,教育も地域も疲弊させることになるだろう。


* 「焦点:コロナ患者急増、病床削減計画見直しの可能性 政策の矛盾露わに」REUTERS, 2020年4月16日,https://jp.reuters.com/article/japan-coronavirus-hospital-idJPKCN21Y0FZ?rpc=122

** 「『地域で考える高校教育』 岩手県33市町村長による県教委高校再編計画への新たな提言」,須和間の夕日,2020年1月29日,https://musashi-mutsuko.amebaownd.com/posts/7629647

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