わが家のエネルギー消費2020

国連環境計画(UNEP)は12月9日,温暖化対策に関する年次報告書「排出量ギャップ報告書」を発表し,2019年の世界の温室効果ガス排出量は591億トンと過去最高となり,前年比2.6%増と急増したことを明らかにした。報告書は,民間セクターや個人の消費行動の変化が必要だと指摘している。

日本は,COP21で,家庭部門の2030年のCO2排出量を2013年に対して40%削減するという数値目標を掲げている。 上記UNEPの報告書でも個人の消費削減を期待しているが,個人世帯には60%までエネルギー効率を高める潜在力があるという具体的な数値の指摘もある。40%にしろ60%にしろ,エネルギーを大量消費することで,楽で快適な生活に慣れた現代人にとってはとても大きい目標だが,チャレンジの価値はあり必要である。

この数値に辿りつくには,どんな生活を描けばいいのだろうか。

筆者が子どもの頃に過ごした木造戸建て住宅での生活を振り返った。当時,住宅内で使う電気といえば,照明だけだった。つづいてテレビ,こたつ,炊飯器,冷蔵庫,洗濯機,掃除機が加わったが,子どもの頃はこのあたりまでだった。1950年終わりごろから70年代のことである。その後,電化製品は徐々に,そしてどんどん増え,今では,台所,居間,寝室など住宅のいたるところに,何かしら電気器具が,しかも色々ある。

余談だが,私たちが「電気をつける」と言う時,それは,照明を点けることを意味する。テレビを点けることでも,炊飯器のスイッチを入れることでもない。電気機器といえば照明器具のことを指した時代が長く,言い習わされた表現が今も残っているということだ。

ところが今では,そんなことにまで電気を使う必要はないということ,例えば,鉛筆削り,体重測定,食器洗いまで電気が仕事をしている。生活を入れる住宅も,省エネを目指して高気密になったので,24時間,機械換気が必要になったし,空気清浄機の需要が高まった。

現代人は,快適で豊かになることを目標にしてきて,エネルギーを大量消費する生活に浸かりきっている。その結果,現代人の感性,想像力が大きく劣化した。吉野正治は,1975年,早くもこうした事態を捉えて,「ナイフの使えない子供たち」「1キロをゆくにも車にのる父親達」「自然とのバランスが原体験の中にない人間」などと例示し,「生活分解」の問題提起をした *。

人間の健康にとって重要な換気と照明,暖房への消費をむやみに削減することはできないが,これまでの「快適」「豊か」に代わる新たな生活の指標が必要である。吉野がいう「生活分解」の解消が目指されなければならない。


さて,筆者は,大学の「住居環境学」で,学生たちは,日照,断熱,換気などを学んだ後に,レポート「我が家のエネルギー消費」を書いてもらっている。後期の半年間,自宅の電気やガスなどの消費量を記録してそのデータを分析し,自身のエネルギー消費と生活を振り返ってもらおうという狙いである。

実は,秋から冬にかけてのわずか半年間のデータでどんな分析ができるのか,これは学生には酷な課題かもしれないと長く不安に思っていた。それで,何が書けるか,どこまで書けるか,去年,筆者もレポートに挑戦しこのブログで公表した **。ただし,筆者のレポートは,ずるいけれど,過去数年分のデータをもとにしている。とりあえず,これを読んでほしいと学生に伝えた。

これ以前の学生レポートは,データを集めたもののきちんと分析しないまま,日が落ちたらすぐに雨戸を閉めるようにします,窓ガラスにプチプチを貼ります,省エネ頑張ります,といった思いつきと決意表明ばかりだった。これでは学びが浅いままに終わると考え,自分が書いて,データ分析の視点や方法を理解してもらえるようという願いもあった。そうしたら,読み応えのあるレポートがいっぱい出てきて感動した。


さて,ここから,筆者の2020年度のレポートである。

筆者の住まいは二階建て戸建て住宅で,1998年築,延床面積132㎡,外壁,屋根,床に50mmの外断熱,窓は樹脂サッシ,複層ガラスである。動力,暖房,照明,換気,調理を電気で,調理はガス,暖房と給湯は灯油でおこなっている。世帯員は大人2人である。

冒頭で,個人世帯では60%の削減潜在力があるとの指摘を引用したが,ここには,建物の断熱改修,消費効率のよい設備器具への交換を含んでいる。これらを大胆に実行すれば,大きな削減が見込まれるだろう。他方,去年のレポートで筆者が掲げた2020年の消費削減(2019年比)は9%である。筆者のエネルギー消費削減目標があまり大きくないのは,住宅断熱,省エネタイプの設備器具交換をほぼ終えていて,生活過程での消費動向を対象にしているからである。

まず,2020年の削減結果を述べると,前年に比べて減らすことができず,1.3%の増加となった(図1)。実は,2017年以来,消費は増え続けている。


図1 エネルギー消費量の推移(1次エネルギー,MJ)


電気,ガス,灯油それぞれについて消費動向を見たのが下である。

  電気: 13.1 %減(2013/2020年), 3.5%増(2019/2020年)

  ガス: 27.3%増(同上),     19.1%増(同上)

  灯油:  6.3%増(2017/2020年),   5.6%減(同上)

  全体:  6.9%増(同上),      1.3%増(同上)

ガス(調理)は7年間で3割近く増え,この1年間でも2割増えた。2013年は仕事で家にいなかったが,自宅にいる時間が増えた。とりわけ,2020年はコロナでほとんど住宅内での生活だったから,調理をよくするようになったことによる。灯油(暖房,給湯)の増加幅は,ガスに比べると小さかった。これらガスと灯油の消費削減の大きな潜在力はなさそうだ。

7年間でガスと灯油は増えたのに対し,電気は1割以上減らすことができた。自宅にいる時間が大きく増加したにもかかわらず,である。我が家の省エネの潜在力は,当然だが,電気消費にあることがわかる。

この7年間で電気を大幅に削減できたのは,図2で明らかだが,2015年の削減による。図3を見ると,2015年の冬の電気使用量のピークが大きく落ち込んでいる。この年の冬,電気ストーブの利用をやめたことで大幅な削減につながったことがわかった。

図2 電気消費量の年別推移(kWh)

図3 電気消費量の推移(kWh)


ここで,エネルギー消費量のなかでももっとも多くを占め,削減潜在力の大きい電気器具にしぼってみていく。我が家には,照明,換気,給湯などの設備を除いて,日常よく使う器具,季節的に使う器具,たまに使う電気器具が23ほどある。その中でとりわけ消費電力の大きい器具は,暖房器具と台所の熱源器具(オーブンレンジ,オーブントースター,電気ケトル,電磁調理器,炊飯器)である。これら台所の熱源器具の中には,CO2排出がより少ないと想定されるガスで調理できる場合がある。

電気消費を減らすために,台所の電源器具をガス調理に置き換えることと,去年のレポートでも書いたが,エネルギーを使わない真空保温調理器を利用することで,消費削減を目指せる。とりあえず,2021年も削減目標を9%におき消費動向を観察していこうと思う。


* 吉野正治,「現代の生活問題と生活学・家政学」,京都府大生活文化センター,『現代家政研究会中間報告』,1975年

** 我が家のエネルギー消費量削減 2020年の目標,須和間の夕日,2020年1月10日

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