東海村という居住地 定住の村になるために何が必要か
1月2日の論考のつづきである *。
2006年ごろ,東海村須和間区で,村の役人,村民,茨城大学の学生たちと住宅調査をしていたとき,村の役人Tさんが,東海村は若い子育て世帯に人気だが,子育てが終わると村を出ていく,と悔しそうに語った。東海村とはどういうところか,東海村に住むとはどういうことか。私は,Tさんの言葉を聞いて以来,このことがずっと気になっている。
私は水戸市に住んでいるが,原子力関係でない人からは東海村は怖いとか,東海村には住みたくないという声を聞くし,少なからぬ原子力関係の人が市内に持ち家を建設して住んでいることもよく知っている。
東海村とはどんな居住地なのだろうか。
私の回答は,東海村とはきわめて特殊な居住地である,だ。都市の中に原発と再処理施設がある。人は,これら危険な施設と隣り合って生活することを強いられる,そういう居住地である。格別の不気味さのある居住地である。
なぜこんなことになったか。原子力開発黎明期の1956年夏,原子力産業会議(原産)が,東海村の都市計画策定に割り込み,茨城県と「官民一致」で都市計画を策定した。都市計画は,原産の思い描く施設配置計画に沿うように著しく歪められたのである。さらに,原発周辺の開発規制は厳しく定められ,規制は厳重に守られなければならなかったが,そもそも当初からそのような厳しい規制は整えられず,開発は節操なく進められた。その結果が,今日の東海村の姿=都市の中の原発と再処理施設である。
だから,人が,東海村には住まない,住みたくないという思いをもつのは当然のことである。その思いを堂々と言葉にして提示したのが,看板「東海村は日本一危険な村です」である(図1)。この主張は大体,間違いがないと思う。
図1 看板「東海村をつぶすな!!! 原発はいらない!!! 廃炉に」,電信柱の向こうには「東海村は日本一危険な村です」
動燃通り沿いの福祉施設「常陸東海園」で。ここから約3km先に東海再処理施設と東海第二原発。
大体間違いがないというのは次のようなことだ。全国に数ある村で,危ない村といえば,危険な都市施設が集中立地しているところだろう。東海村と六カ所村が思いつくが,六ヶ所村は,都市計画で工業専用地域と人の生活が営まれる市街地は一応分けられている。そんなことさえまったくできていないのが東海村である。だから,都市計画から見れば,「日本一危険な村」と言っても大体間違いはない。
さて,東海村は若い子育て世代に人気があるが彼らは定住しない,というのは本当だろうか。データで確認してみる。
図2,3は,東海村と水戸市の人口構成である **。全国の人口構成と比較したものである。データは2005年で古いが,見方のポイントは,団塊の世代(50歳代後半)と団塊ジュニア(30歳代前半)の二つのピークを照準にして,これが全国および水戸市とどう違いがあるかにおく。
東海村の人口構造を全国のそれと見比べてみると,団塊の世代では大きな違いはないが,団塊ジュニアは飛び抜けて多い。また50歳前後は全国に比べて少ない(図2)。他方,水戸市は,全国と大差はない(図3)。東海村の人口は,きわめて特徴的な構成をもっていることがわかる。
図2 東海村の人口構成
図3 水戸市の人口構成
30歳代の若い世代が著しく多いのは,この年齢層はよそからやってきた人たちであることを示している。この年齢層が,これまでの東海村の人口増加を支えてきた層だということがわかる。この若い子育て世代が東海村に定住すれば,この後の年齢層も全国より著しく多いはずだが,まったくそうはなっていない。40歳代から全国より急速に減少し,50歳前後には全国より明らかに少なくなっているのである。この動きを示す年齢層に着目すれば,村外での持ち家建設で転出しているのだろうと想像できる。
確かに,村の役人Tさんが悔しがったとおりである。若い来住者には東海村は,教育や福祉などの政策が充実しており子育てには魅力的である。しかし,若い来住者たちには定住するところとはみなされていないということだ。その理由の本当のところは調査してみないとわからないが,原発など原子力施設が集中立地していて,原子力災害リスクが大きい村だと理解されているからかもしれない。子育て世代には居住地の選択上,きわめて重要な要素だ。
以上,人口構成から導き出したわずかな知見だが,東海村は確かに,30歳代の若い子育て世代を惹きつける魅力があるが,定住するだけの魅力には著しく欠けていることがはっきりした。
村は最近,人口減少に転じたようだ。廃炉時代という時代の大きな転換期にあって定住の村になるためにどんな施策が求められるか,それを示してほしいと思う。
* 「自分ごと化会議」の住民の意見を考える,須和間の夕日,2021年1月2日
** Wikipedia,東海村,水戸市(2021年1月3日閲覧)
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