94万人原発避難計画の問題 そもそも計画とは何か


今年3月18日の水戸地裁判決「東海第二原発の再稼働禁止」を受けて,さよなら原発いばらきネットワーク学習会(2回目)がオンラインで開かれました(2021年7月31日)。

テーマは,私の「94万人原発避難計画の問題」です。計画学,空間の計画学の関心から,①計画とは何か,②94万人避難所計画は何が問題か,についてお話しました。これを2回ないしは3回に分けて書こうと思います。



そもそも計画とはなにか。簡単にいえば,目標と実現の方法,行動指針を示すもの,である。

計画にはプロセスがある。①計画作成,②計画運用,③計画改定,④改訂計画運用,①〜④の繰り返し,である(もちろん1回限りの計画もある)。

①の計画作成には,資料・情報の分析,課題・目標の設定,原案作成,協議,策定というプロセスがある。②の計画運用では,見通し可能な計画期間を設けて計画が実施される。③計画改訂では,計画期間を終える前に計画を評価,改訂する。④改訂計画の運用である。

計画とは,このようなプロセスを持つものであることを確認した上で,次に,原発避難計画の問題を整理し,この計画がもつ非民主性,非人道性を指摘したい。

茨城県では,東海第二原発の再稼働にあたっては,東海村をはじめ14市町村が,原発避難計画を策定しなければならない。うち,原発避難計画を策定したと言っているのは,14市町村の半分にも満たない5市町である。9市村は作成中である。人口27万人を要する水戸市もその一つで,人口があまりに大きすぎて,計画作成には特別の困難がある。

原発避難計画の根本問題は何か,4点整理した。

第一に,作成過程の徹底した秘密主義。計画は,原子力対策課や危機管理課などの担当課が作成しているが,専門家や住民が参加して意見を述べ,それを計画に反映させる協議会のような機関はどこも設置していない。市民が,自分はどこに避難するのかを知りたいと思っても作成中だからと,情報公開請求に応じない(今年2月,水戸市で情報公開請求したが,作成中という理由で断られた)。

第二に,非計画性。計画作成に着手して,早8年たつが,大井川県知事は,14市町村の計画策定はいつになるかわからないと述べている。全人口27万人の避難計画をつくらなければならない水戸市は,策定期日の見込みはまったくついていない。複合災害時の避難経路や二次避難先など,重大な計画要素を計画にもりこむことが困難な要素が多すぎる。計画なのに非計画性が著しい。

第三に,計画目的を無視した方法。避難とは「災害を避けて安全な場所へ立ち退くこと」である。国の中央防災会議は,住民に「適切な避難行動の事故選択と判断力」を求めている。ところが,原発避難計画は,この避難の意味,原則を完全に無視して,①住民個人の判断ではなく,自治体の指示にもとづいて避難するという計画避難と,②地域やコミュニティでまとまって避難をするという団体避難,を要請する。

第四に,命,人道の徹底無視。体育館で雑魚寝,一人あたりの占有面積はわずか2㎡,粗末なTKB(トイレ,キッチン,ベッド)。住民は,原発再稼働と引き換えに,こんな避難計画を絶対に受け入れてはいけない。


これら4つの根本問題のうち,2つ目の「非計画性」以降の問題を見ていきたい(1つ目の「作成過程の徹底した秘密主義」は,本論の計画論からは外れるので,今回は置いておく)。

まず,非計画性について

計画策定がいつになるかわからない,という事態にはどんな問題があるだろうか。

いつまでたってもできないということは,計画の前提とする,最新の情報,データ分析が絶えず古くなるということを意味している。

この後の避難所計画の問題で述べるが,毎年,大量の廃校が出ている。しかもそのうちの半分が,避難所解除になっている。毎年,情報更新をしないと,いざとなった時,避難所がないということが起きかねない。計画は,最新分析をもとに,見通し可能な期間で運用するということの意味が理解できるだろう。

原発避難計画は,「実効性ある避難計画」であることが求められている。しかし,「実効性ある計画」は可能か。実効性とは,「実際の効力,効果,効き目」(国語大辞典,第二版)である。実際の効力ということだから,実際に事故が起こり,計画を運用して初めて,計画通りできたかどうか,何ができなかったかがわかる。事前に実効性がある,とは絶対に言えない。もし「実効性ある避難計画をつくった」という首長がいたら,それは明らかな虚偽発言である。

保母武彦さんは,原発避難計画は「出たとこ勝負」だ,と批判した *。原発避難計画の本質を言い当てている。ただ,私に言わせれば,勝負ではなく博打である。勝負は,実績があり勝算がある時に,勝ちに出るものだが,原発避難計画は,実績はないし,非計画的な計画だから,出たとこ「博打」になる可能性が大きい。

そして,計画目標を無視した方法

94万人避難計画は,とにかく94万人の避難経路と避難所を確定させるという目的が先にある。先に述べた計画科学の方法論とは,真っ逆さまの方法である。つまり,問題が出てきても,それらはすべて目的の枠内で解決されなければならない。

94万人という破格の規模の避難計画だから,問題が噴出している。だから,平気で人道に外れた計画がつくられる。たとえば,避難所には通路をいっさい設けず,一人当たり占有面積2㎡で避難者を詰め込むことにするとか,トイレや倉庫も避難者の占有面積に入れる,図書館や音楽ホールも避難所リストに入れる,ということを平気でやる。

原発避難計画は非科学そのものである。これで,もういうべきことはおしまいなのだが,この非科学的計画には,計画策定→計画運用→計画改訂→改訂計画運用,というプロセスさえもない。だから,「出たとこ博打」(私の造語)にならざるを得ない。

命,人道の徹底無視は,後続の論考で述べる。


ここから避難所計画の問題に入っていく。計画では,避難所は,学校などの公共施設利用を前提としている。避難所計画には,非人道のきわみである,一人当たり占有面積「2㎡」問題がある。体育館などにこの占有面積で雑魚寝せよと強要するのである。

しかし,問題はこのほかにもある。避難所に利用される公共施設が,いま直面している問題をまず整理した。3点ある。

第一に,小中学校の廃校が進んでいる。

避難先の市町村では近年,著しい数の学校が廃校になっている。そして,廃校は止まらない。この事態は,避難所確保と避難所運営という観点からどんな問題が起こるだろう。この後で論じる。

第二に,指定外避難所が避難所リストに入っている。

これまで明らかになっているのが図書館と音楽ホールである。これらは絶対,避難所にすべきではない施設である。本稿に続く論考で論じる。

第三に,公共施設の指定管理者管理が増加している。

廃校施設や図書館,音楽ホールは市町村の直営ではなく,指定管理者などによる管理が増加している。避難所運営上の問題が浮上する。本稿に続く論考で論じる。


第一の学校の廃校について。避難先自治体の廃校状況をまとめたのが表1である。茨城県の場合(水戸市や東海村などの避難元の学校も含まれた数字だが),2008年から10年間に113校が廃校になっている。平均すれば1年に11.3校のペースである。群馬県を除いた5県では,平均して毎年,30校程度が廃校になっている。


表1 避難先5県 市町村立小中学校の減少数

(学校基本調査。公立小中学校の数値は減少数。茨城県は,避難元14市町村の廃校数も含まれている。群馬県は2年度分の数字しか公開されていないのでここでは省略した。公立義務教育学校は,2020年現在の設置数)


これら廃校施設は避難所として利用できるのだろうか。

文科省の調査によれば,廃校施設2,443校のうち,51.7%が避難所に指定されている  **。これは言い換えれば,残る5割が,廃校にともなって避難所指定が解除されているということである。毎年,30校が廃校になれば,15校は避難所として使えなくなっているということである。残る15校は避難所として残されているが,常時管理されていない空き家状態の廃校施設が,避難者が避難生活をする施設として問題なく使えるだろうか。

文科省の別の調査では,廃校の8割は活用され,民間事業者が管理運営している  ***。これらが避難所に指定されている場合,市町村と避難所に関する協定はきちんと結ばれているか,民間事業者は,避難所開設,運営をスムーズにできるか,という問題が生じる。熊本地震では,指定管理者が管理する公共施設に,被災者が避難にやってきたが,運営マニュアルはなく,運営に支障をきたしたという報告がある。

避難先自治体で毎年,多数の廃校が出ているという事態には,厄介な問題と解決すべき課題がいくつもあることがわかる。


*  毎日新聞「避難計画は『出たとこ勝負』 住民投票で島根原発の再稼働判断を」,2021年6月25日

** 日本経済新聞,文科省調査,2011年9月17日

*** 文科省「平成30年度 廃校施設等活用状況実施調査の結果について」


(つづく)




0コメント

  • 1000 / 1000