94万人原発避難計画の問題(その2) 図書館,音楽ホールを避難所にすべきではない

先の論考で,避難所に使われる学校が毎年,廃校で減っているという事態と,その問題を指摘した。本稿では,避難所計画の2つ目の問題=図書館や音楽ホールを避難所にしている問題と,3つ目の問題=貧困なTKB(トイレ,キッチン,ベッド)問題を取り上げる。

まず,2つ目の問題=図書館や音楽ホールを避難所にしている問題について。この施設を避難所にすべきではない理由を解説する。

図書館は,書籍,雑誌,資料が収集され,市民が閲覧,貸し出しできる施設である。図書館の室は,これらを収めた大型本棚を置いているところである。図1に,つくば市立中央図書館を例にあげたが,大型書棚の間の床で就寝するなど到底できないし,してはならないということはすぐわかる。要するに,図書館には,避難所として使える床はほとんどないということである。また,貴重な本や資料などの公共財の破損や紛失という重大なリスクもある。


図1 つくば市立中央図書館(避難所に利用する図書館の空間をイメージするための写真)


音楽ホールの場合。音楽ホールには窓がない。自然採光も自然換気もまったくできない。もし停電が起きていたら,人工照明も機械換気も不能になる。きわめて危険な環境になる。また,窓は外の景色や様子が見られて,それだけでも心理的な負担が少しは減るというものだが,窓のない牢獄のような空間で避難生活をしろとは,私には狂気の沙汰としか思えない。避難所といえども,建築基準法の居室に準じた室を選択すべきである。

また,音楽ホールは床も問題である。床は階段状になっていて,就寝できる床はない。固定椅子は就寝には使えない。

では,ホール外側のホワイエや通路があるではないか,これらが避難者の床に使えるだろう,というのかもしれないが,これも問題である。これらは居室ではないし,これらは人や物の行き来に使われる空間だから,その片隅を就寝や生活の空間に使うことはすべきではない。私たちは,3.11のとき,さいたまスーパーアリーナへ,役場とともに避難した双葉町民1,500人がどんな悲惨な避難生活をさせられたかを思い起こさなければならない。

最後に,音楽ホールと図書館に共通する避難所問題を指摘しておきたい。

第一に,床素材の問題。板床の体育館とは違い,コンクリート床だから,硬いし,毛布1枚では横になった時,全身の体温が奪われる。また,これらは,指定管理者による管理がたいへん多い。廃校施設で指摘したことと同じ問題がある。

第二に,実は,これが重要な観点ではないかと思うが,音楽ホールや図書館は市街地に立地していて,敷地の余裕がないところが多い。学校は,市街地に立地していても,運動場があり,これが,駐車場のほか,生活物資の配布,情報交換,トイレなどの衛生施設設置,ボランティア基地など,避難者のためのいろいろな機能を担うことができる。市街地の音楽ホールや図書館を規模の大きい避難所として利用する場合はとくに,これを期待することはできず,避難生活維持にとって機能麻痺に陥るかもしれない。


3つ目の問題=貧困なTKB問題について。

図2 体育館での避難生活(長田区真野小学校,1995年4月6日,神戸市提供),震災から3ヶ月近くたっていて,体育館内は整理されている。


災害対策基本法は,2013年の改正で,「「避難所における良好な居住性の確保」( §86の6)が記載された。では,「良好な居住性」とはどのようなものか,災害対策基本法施行令を確認する。

ここには,避難所指定の基準(§20の6)4項目があげられている。①被災者等を滞在させるために必要かつ適切な規模のものであること,②速やかに,被災者等を受け入れ,または生活関連物資を配布することが可能な構造,設備を有すること,③想定される災害の影響が比較的少ない場所にあること,④車両などによる輸送が比較的容易な場所にあること。

指定基準は,施設の規模,施設の構造・設備,立地,車両輸送の4項目で,雑魚寝の改善につながるような基準項目はない。

では,福祉避難所指定の基準(§20の7)はどうか。①要配慮者の円滑な利用を確保するための措置が講じられていること,②災害時に要配慮者が相談し,支援を受けることができる体制が整備されること,③災害時に主として要配慮者を滞在させるために必要な居室が可能な限り確保されること,3項目が示されている。

注目すべきは,③の「居室が可能な限り確保されること」である。上述の避難所の指定基準にはなかった「居室確保」が福祉避難所の指定基準には明記されている。「居室」とは建築基準法上の法律用語で,採光や自然換気ができる窓がある室のことである。なぜ,避難所の指定基準に「居室が可能な限り確保されること」を入れることができないのだろうか。

では,スフィア基準は,避難所空間はどのような質を持つべきと考えているかを見てみよう。

居住スペースは,睡眠,調理,食事,洗濯,身支度など,日常の活動を行うために,また家族の所持品やその他の財産を守る上で適切でなければならない。

②同一世帯内においても,性別,さまざまな年齢のグループや家族に求められるプライバシー及び距離間隔を確保する必要がある。

最低居住面積は3.5㎡/人。

最低限の居住スペースに屋根を設置し,その後,壁,ドア,窓の支援を行う

⑤障がい者は,特に知的障がいや心理社会的な障がいがある場合,より多くのスペースを必要とすることがある。

スフィア基準は,避難所は避難者が日常の活動を行う空間であること(単に屋根の下,床の上で就寝ができればいいというものではないということ),プライバシーを守る空間規模が必要であること,最低居住面積は3.5㎡/人,居住スペースには屋根,壁,ドア,窓をつけること,障がい者にはより多くのスペースが必要であること,が明記されている。

日本の避難所政策との圧倒的な差がわかる。私たちは,体育館の雑魚寝から脱却する思想と訴えを強める必要がある。


茨城県の94万人原発避難計画の作成現場はどのようなものか。毎日新聞がこの間,明らかにした主要な避難所問題を整理すると,次の3点である。

①「2㎡/人」で避難所収容人数の機械的算定,②トイレ,倉庫など避難生活の床に使えない空間も含めて収容人数を過大算定,図書館,音楽ホールを避難所リストに入れている。

この問題を指摘された大井川知事は,過大算定を認め,再確認すると述べた *。しかし,知事の発言「図面をもとに市町村にヒアリングし,総面積で過大算定していないか再確認する」は,意味深である。単純に見直しをすれば,それでなくても不足している94万人の避難所の床面積の不足がさらに増加する。単純に床面積を減らすわけにはいかない。そこで,出ているのが「図面をもとに市町村にヒアリング」「総面積で再確認する」という意味不明の発言である。これは,市町村に直接ヒアリングして,図面を見ながら(単に削減するだけでなく)避難者の床に有効に使える所はないか探す,という意味だろうと,私は読んだ。


* 毎日新聞「茨城県知事,収容人数の過大算定認める 東海第2の避難計画」,2021年4月9日


(つづく)


0コメント

  • 1000 / 1000