94万人原発避難計画の問題(その3) 非人道の雑魚寝計画はもうやめるべきだ

94万人避難所計画は,スフィア基準にも,災害対策基本法「良好な居住性の確保」にも無視するものが作られている。94万人の収容先を決定しなければならないからとして,非人道きわまる計画が密かにすすめられてきた。

避難所は,体育館などの公共施設でないといけないのか。災害弱者も含めて,全員を一人当たり2㎡の冷たい床に収容するしかないというのか。選択肢はほかに何もないのか。

他の原発立地地域の避難計画を見れば,泊原発の地元,泊村と共和町では,住民全員が札幌とルスツのホテルに避難する。泊原発避難計画と同様,94万人の避難所も宿泊施設が検討されるべきである。

筆者は,避難先6県と東京都の宿泊施設の収容可能数を推計してみた(表1)。 


表1 避難先6県と東京都の宿泊施設数(部屋数)と,収容人数の推計

(茨城県の数値には,避難元の,水戸市をはじめとする14市村の宿泊施設の数字も含まれている)


旅館・ホテルの部屋数については,一部屋の収容数を2人と3人,簡易宿所施設数には,一施設の収容数を10人と20人,下宿には6人を当てはめて計算した。6県の想定の小さい方の赤い数字を合計すると48.1万人。青い数字を合計すると72.8万人になる。

これに,東京都の宿泊施設を加えると,87.3万人,ないし132.2万人となって,計算上は94万人がほぼ全員,宿泊施設に避難できる。

熱海土石流災害(2021年7月)では,地元のホテルが避難者を受け入れた。新潟県は,2006年の新潟県中越地震の教訓から県旅館組合と「震災時における避難者の受け入れに対する協定」を結び,2010年,福島県は県旅館ホテル生活衛生同業組合と「災害時等における宿泊施設の提供などに関する協定書」を結んだ。

茨城県も,2020年9月,県ホテル旅館生活衛生同業組合と大規模災害の発生時に宿泊施設などを提供する協定を締結した *。同様の協定は,大子町,土浦市,つくば市が,同組合支部と協定を結んでいる。この協定にもとづいて,まずは災害弱者の宿泊施設への避難が検討されるべきである。


最後に,この学習会を次の7項目でまとめた。

まとめ1 

①市民の避難は市町村が行い,県,国がそれを支援することになっている。しかし,市町村は,財政逼迫と極端な人員削減で,94万人避難の対応は到底無理である。

②そもそも94万人の計画的避難の経験はどこにもなく,ノウハウもない。ならば,94万人の避難所計画にはせめて,これまでの災害避難の経験と知見を反映させなければならないが,茨城県の計画目標は,体育館などに極限サイズ2㎡の雑魚寝空間を94万人分用意することだけである。

③これは,災害対策基本法の規定にもスフィア基準にも反している。県の避難所計画は,命と人権に対する無感覚さで貫かれている。このような人道にもとる計画は厳しく批判されなければならない。

④命と人権を大切にする避難計画の実現のためには,首都圏の宿泊施設利用と,公営住宅と民営賃貸住宅(みなし仮設)の確保がともに検討されるべきである。

まとめ2

⑤計画をつくるということは,分析,課題抽出,目標設定というプロセスを踏む科学的営為である。

⑥現在,茨城県と14市町村がすすめている94万人の避難計画は,94万人の避難という目標にあらゆる問題を押し込めようとするもので,計画科学とは無縁のものである。科学にもとづかない避難計画が「実効性ある計画」になることは,絶対にない。

⑦市民は,原発避難計画はまったく科学的ではないこと,「実効性ある計画」は不可能であることを見抜いている。市民の信頼を完全に失っている避難計画に策定の正当性はもはや存在せず,避難計画の策定は諦めるほかない。


*  茨城新聞,「避難の態勢強化 大規模災害時に宿泊施設提供 茨城県、ホテル旅館組合と協定」,2020年9月4日


(おわり)

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