東海第二原発再稼働問題を語ろう


2023年12月,東海村は避難計画を策定した。東海第二原発が重大事故を起こしても,無用な被ばくを受けず安全に避難ができて,健康的で衛生的で快適な避難所生活が送れ,そしてほどなく家族全員で自宅に戻れることが保証されなければならないが,策定された避難計画はこれらをいっさい保証しない。そんな避難計画でも村が策定したのは,原電がいう今年秋の再稼働を念頭に置いているからである。

東海村の再稼働強硬論者たちは,原発がある限りは事故対応としてとにかくも避難計画を早くつくることが必要だと訴えてきたが,その前提には,避難が必要になるような事故は絶対起こらないという強い思い込みがある。

山田修村長は,原発再稼働については中立を標榜しているが,あきらかに推進論者である。村長は,雑誌で「新規制基準で安全対策が向上したから,論理的に考えれば,同じような事故はまず起こらない」(2019年10月)と,実に論理的でない発言をして原子力規制委員会に対する絶対的信頼を寄せた。

川崎敏秀氏(村民,原電の産廃処理請負業)は,「東海第二は20mの防潮堤を造っていて,安全対策はできている」(2023年8月30日,東京新聞)と語り,原電への絶対的信頼を寄せた。原発による経済的恩恵をこの先も受けることを期待した発言だった。しかし,哀れなことにその発言の1.5ヶ月後,現場作業者の告発によって,原電による防潮堤基礎の重大な工事不良が発覚した。彼の発言は,再稼働させたいだけの軽々しく空疎な発言として嘲笑されるべきものになった。

村長は,冒頭に書いたように避難計画策定を実現させた。しかし,どうしてもしたくないのが再稼働に対する村民意向調査である。普通に考えれば,村民の意識調査だから,再稼働に賛成か否か,余計な条件を挟まない端的な質問を設定して,村民に問う質問紙法がもっとも正確でまっとうな把握法である。ついでなら,回答者の基本属性と賛成・反対の理由は何か,という質問を付加すれば,今後の村政の参考になる。

しかし,こうした明快で科学的な方法を取れば,再稼働反対が過半数になってしまう可能性がある。村長はそう心配しているのだろう。村長は,替わりに,「住民の意向把握に向けた調査・研究の一環」だと言いつつ,調査研究とはおよそ無縁の「自分ごと化会議」を実施した。2020年12月,開始され,2022年3月,その成果が公表された。

自分ごと化会議とはどんなものだったか。

会議に参加した村民は,「住民の意向把握の調査研究」として意見を集めるにはあまりに少ない26人(村人口3.7万人)。会議進行の舵を握ったのは政府の仕事もしている東京のコンサルタント。会議は,参加者が丸く座って自由に発話できるような体勢をとり,市民も傍聴した。しかし,26人の参加者の後ろには,山田村長を真ん中にして関係部署の管理職が横一列に並んで会議参加者の発言を見守り,時に彼らは発言もした。

コロナによる中断を挟みつつ,2年をかけた会議では,会議の成果として提案書が作成されたが,作成したのは東京のコンサルタントだった。2022年3月,いかにも村民26人がまとめた提案書だという体裁で,参加者代表が山田村長に提案書を手交するというイベントが華々しく行われた。

会議は,すべて村とコンサルタントのお手盛りで,26人から原発問題に対する反対意見が出されないよう,注意深く運営された。したがって,提案書は,わずか26人についてさえ,原発再稼働に関する意向把握という所期の目的を果たすことはなかった。

東海第二原発再稼働に関する村民意向調査には,2018年に茨城大学・渋谷敦司氏が実施したアンケート調査(渋谷調査)がある。渋谷調査は,質問の仕方に問題があったが,便宜的に再集計したところ,「原発利用」が過半数という結果だった *。

渋谷調査のほかに同様の調査としては,2019年の日本共産党東海村委員会によるアンケート調査(共産党調査)がある。

この調査は,渋谷調査より1年新しいが,東海第二原発の再稼働が見えてきた2024年の現在からすると,4年前の調査で古すぎる。村内世帯をほぼ網羅した調査だったが(配布数約15,000),回収はわずか516,回収率3.4%だった。ここまで極端に回収率が低いと,結果の信頼性に対する不安は大きい。

本来は,村がこうした調査を実施すべきだが,村は行わず,さりとて他に同様の調査がない。共産党調査は,古すぎるし結果の信頼性には不安が残る,という問題があることを踏まえた上で,同調査の結果を見ていきたい **。

東海村に力を入れてほしいことは,「原子力事故対策」がトップだった(31.4%)(図1)



図1 東海村で力を入れてほしいこと(複数回答)


今後のエネルギーについては,「原発を廃炉にし,再生可能エネルギーに変えていく」(60.6%),「原発と再生可能エネルギーとを併用する」(28.7%),「原発を再稼働させる」(6.9%)だった(回答数464)(図2)

図2 今後のエネルギーについてどう考えるか


図2の3つの選択肢を次のように2分類した(「その他」は省略)。原発再稼働賛成=「原発と再生可能エネルギーとを併用する」+「原発を再稼働させる」 ②原発廃炉=「原発を廃炉にし,再生可能エネルギーに変えていく」

この分類で集計し直すと,①再稼働賛成36.6%,②廃炉60.6%となり,廃炉が多数となった。渋谷調査とはまったく逆の結果である。

これは,どちらが正しいかということではなく,実施時期,質問の狙いや仕方によって結果は変わるということである。渋谷調査は単純に「東海第二原発に対する考え」を問うたが,共産党調査は「今後のエネルギーについてどう考えるか」という質問の仕方をとった。再稼働問題をエネルギー問題として捉えて回答してもらうことを狙ったのである。回答者の過半数が,選択肢「原発は廃炉,再生可能エネルギーに転換」を選んだのは,この調査回答者群の良識を示している。

しかし,村の自分ごと化会議がお手盛り会議になったように,東海第二原発は,地元では腫れ物扱いである。問題は語られず,議論は避けられ,深まらない。一方,村周辺の自治体では,腫れ物どころか住民の関心そのものが薄い。東海村から離れれば離れるほど,関心は著しく薄れていく。

原発再稼働問題は地域の問題である。地域の安全の問題である。推進論者がその論拠として主張する,原発が地域にもたらす経済的恩恵は,人間に推定できる限り原発事故は絶対に起こらないという前提のもとでのみ享受できるものである。しかし,この前提は,福島で崩れた。そして今年,珠洲原発計画が立てられた能登半島地震によってもはっきりした。望まれるのは,議論を避けないことであり,そして学ぶことである。私は,東海村民の村民たるプライドを知っている。そのプライドにかけて地域をどうするのか,大いに議論をしてほしいと思っている。



*  乾 康代, 再稼働問題の視点を再考する(村民の原発再稼働問題に対する意識1),2023年8月17日

** 日本共産党東海村委員会「明るい東海」,2020年1月号外


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