山田東海村長の憲法違反の暴言を再び考える


計画の策定時期が見込めず,再稼働もまだ見えない。原子力ムラの苛立ちがつのっている。そうしたなかの2019年,東海村長山田修氏は,村長として「原発が不要という人は,全ての外部電源を遮断して,自家発電だけで生活してもらい自宅から一歩も出てはいけない」と発言した * 。

これまで原発についてその立場をはっきりさせてこなかった山田氏だが,この発言で,原発再稼働推進の立場に立つ首長であることを自ら明らかにした。

「居住,移転の自由」は,憲法22条が定める市民の権利である。原発反対の市民には移動の自由はないとした彼の発言は,市民のSNS発信で広がり,新聞もこれを報じた。しかし,その追及は生ぬるく,山田氏は「行き過ぎた表現」として陳謝しただけだった。こんな憲法違反の暴言は,村民・市民はもっと厳しく糾弾し撤回させるべきだった。

さて,山田氏のこの暴言は何を示しているのか。拙著を読み返しながら考えたい **, ***。

原産は,法的背景など何もないのに「東洋の原子力センターを建設する」と大きく喧伝して茨城県民と東海村民の自尊心をくすぐり,各種核施設を村内に集中立地させることを受け入れさせた。つづいて,本命の原発設置計画を密かに進行させ ****,計画の実行段階に入ると,原子力国策の権威を借りて県都市計画行政に介入して,村の構造を決定的に歪めた。その結果が,村の居住地が,原発をはじめ各種核施設に取り囲まれているという今日の状況である。

この過程と結果は,原子力ムラのゴマスリ,秘密主義,制度無視,住民の安全無視をよく表している。しかし,原産,原子力ムラは,住民に向けて直接,暴言を吐くことはなかった。

対して,山田氏は,健全な批判活動をしている市民に憲法違反の暴言を吐き,撤回もしなかった。2022年夏,政府が突然,エネルギー基本計画の「原子力発電への依存度のできる限りの低減」方針を無視して,東海第二原発の再稼働方針を発表した時,山田氏は,政府に抗議することなく,方針の意図を確認しようともしなかった。

市民には攻撃の言葉を吐き,上位の権力者には抗議しない。原発立地自治体のトップが,権力の僕と成り下がっている。



*「対談:BWRの再稼働 / 困難あり / 便法あり / 希望あり」『ENERGY for the FUTURE』43(4),2019

** 乾 康代『原発都市:歪められた都市開発の未来』,幻冬舎ルネッサンス新書,2018

***  乾 康代「原子力開発黎明期の原子力政策と都市計画:東海村における原子力センターの建設過程分析」『日本建築学会計画系論文集』 86(78),2021

**** 山田氏は,村が実施した自分ごと化会議で,東海原発を誘致したと語ったが,明らかな間違いである。

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