角田京子さんの『福島からの道』
角田さんの原発反対署名活動
角田京子さんは,2011年7月9日,日立駅で「さようなら原発1000万人の署名」を開始した。今週,角田さんの署名活動8年が終了し,来週から9年目に入る。2019年1月,これまでの7年半にわたる署名活動を記録し原発問題を多方面から論じた本『福島からの道 ーさようなら原発1000万署名を呼びかけてー』を上梓された。今日の星空講義では,角田さんのこれまでの署名活動を労い,その活動とご本を紹介する。
角田京子『福島からの道 ーさようなら原発1000万署名を呼びかけてー』
角田さんの署名活動は,「『さようなら原発』 一千万署名市民の会」に賛同して始められた。内橋克人,大江健三郎,落合恵子,鎌田慧,坂本龍一,澤地久枝,瀬戸内寂聴,辻井喬,鶴見俊輔の9人が呼びかけ人となって起こされた全国的な署名活動である。
角田さんは,3.11から4ヶ月後の2011年7月9日土曜日,たった一人で日立駅頭に立ち活動を開始した。以来毎週土曜日,駅頭に立っている。2年後の2013年8月31日(80回目),活動の仲間が1人現れ,88回目には,「私にはできません」と言っていた人が,2人目の活動仲間になった。角田さんの立ち続ける姿は,通行する人に共感を与えて仲間は3,4人と増え8人になった。
角田さんの署名活動で凄いのは次の2点である。一つは,一人で始め,活動の仲間を増やしながら8年間つづけてこられたこと,そして16,800筆集められたということである。1人,8年間,16,800筆,というこれらの数字は圧倒的である。
二つ目は,その活動場所の特異性である。日立市は原発メーカー・日立製作所の企業城下町で,市の南には東海村が隣接している。東海村は言わずと知れた原発,再処理施設など原子力施設が集まる「原子力センター」。つまり,日立と東海一帯は産官学複合(産=日立製作所が絶大)の原子力地帯なのである。当然,その中心駅,日立駅を利用する人の相当割合は,原発と何かしらつながりがある。一方で,日立は福島にも近く,被曝から逃れるために県境を越えて福島から避難されている方々もいる。とはいっても,原発関係者の方が桁違いに多い。
角田さんはたぶん,日本で一番,原発反対署名のむずかしい駅で,署名活動を成功させつつある人である。
感動を呼ぶ対話
『福島からの道』には,署名用紙を挟んで,市民と角田さんの間で交わされた対話が記録されている。市民の中には不躾な言葉や傲慢な言葉を角田さんに投げつける人もいるが,角田さんはそれらの言葉も拾い上げて,その言葉の背景にある問題を考察する。まずは,感動した対話をいくつかあげたい。
今風に腰ばきズホンの三人連れの高校生,フライドポテトをポリポリ食べながら,「そうだねえ,オバサン!」といって,3人とも署名し,「これ,どうぞ。全部いいよ。ごくろうさんのごぼうびだい!」とフライドポテトを渡してくれた。
「おれ,コーリア。だからスイシンだよ。でも,たしかにダメだよね。地震多いんだもんね。おれ思うんだけど,日本には川がいっぱいあって,水力発電できるよね。クリーンエネルギーだよね。ところで,あんた,頭はクリーンか?」「ウー,クリーンじゃない。よどんでます」「そうか,おれもクリーンじゃない。ボケだ」この人はその後冷たいベンチに座り,人待ちをしばらくしていたのでしたが,再び私のところにきて,署名するよ,と言ってくれた。
小学生の女の子達3人に,「さようなら原発の署名活動してるんだけど,福島第一原発事故のこと知ってる?」3人は疑い深そうな,どうしよう,といった態度だった。「お母さんがいけないって言うから」とモジモジしていたが,「あなた方はお母さん達よりのちの世を生きていきますね。放射能による被曝は,お母さん達よりあなた達のような若い人々の方が受けやすいのです。お母さん達が一生守ってくれるわけでもないのだから,遅かれ早かれ自分の頭で考えなくてはならないのですよ」と言うと,「ちょっと待ってください」と言ってちょっと離れた所に行って相談した後こちらに着て「書きます」。そしてなんと「私も署名活動したい」と言い出した。「いや,そこまでは。でも,ありがとう」。角田さんは,署名活動は会話活動,リアルタイムのドラマのようだという。
原発反対署名に背を向ける人たちにも言葉をつなぐ
署名に反対する人や無関心な人たちの角田さんに向けられる言葉は容赦がない。聞く耳を持たない人も多いから,話をつなげていくのは容易ではない。それでも,角田さんはつなげていく。
「うちのお母さんが,街とかで署名なんかしちゃダメ,と言います」「学校の先生が,署名しちゃダメ,と言ってます」。信じられないことだが,決して署名しない制服グループがあると言う。憲法が定める権利を正しく教えられない,歪んだ学校教育がある。角田さんは,高校生,中学生,小学生にも,発達段階を考慮して,思想及び良心の自由,表現の自由が,人として保障されている権利であることを学び取らせることが大切であると言う。家庭でも同じだ。大人の人権意識が問われている。
一方で,70代かと思しき女性。「私はなんでも知っている!呼びかけ人…ほらみんな文系の人ばかり。大江健三郎とか,何も知らないのに,さようなら原発だって,とんでもない。代替エネルギーのことなんか知らないくせにさ。私は全部知っている。知りもしないでこんなことして。日本の経済成長,どうやってなったかも知らないくせに。私は原発をつくっている会社で父が働いていたから,そのおかげで大学にも入れてもらった,今こうして豊かに暮らしている。安定している。こんなのやってんのは間違いだよう!」。
角田さんは,「ご自分が原発のおかげで大学出たよ。豊かな生活ができてるよ,と言ったって,その原発の犠牲になっている人がいるんですよ。ごぞんじですか」と返し,自分しか見えなくなっている大人には堂々と,振り返るべき視点を提示する。
原発反対署名活動とともに次へ
角田さんは,集めた署名から男女比の動きも分析している。2014年11月の集計では女性70%,男性30%。原発反対は女性が圧倒的に多かった。それが女性56%,男性44%へと,男性の署名が増えた(8月,調査年は不明)。角田さんは,「原発の料金は安いから原発賛成」「原発を使わないと電気が足りない」という人はほとんどいなくなったという。男性の間にも,正しい理解,勇気ある反対署名が広がっている。
角田さんはさらに,安い原発キャンペーン,原子力規制委員会がいう科学的根拠への疑問,福島の小児甲状腺がんの多発など,原発の社会問題を取り上げて,論を展開する。原発事故の被災地,福島,チェルノブイリにも出かけて視察報告をしている。
老朽被災の東海第二原発が大事故を起こせば,原電前に集まって抗議をしている私たちも故郷喪失,流浪の民になる。角田さんは言う。経済優先で自然・人間を犠牲にすることはわかっていながら推進してきた原発,原発やめる道しか未来はありません。人間関係に生じているきしみ対立等から解放されていく道を1日も辿りたいものだ,と。
(原電茨城事務所前抗議行動「星空講義」9,2019年7月5日)
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