NUMOによる研究支援事業「地層処分の社会的側面に関する研究」報告
半世紀前,国は放射性廃棄物の処分方法も処分場所も決めないまま,原発の運転を許可した。2000年,処分方法を地層処分と決め,処分先を探すために設置された原子力発電環境整備機構(NUMO)は,2017年7月,地層処分に関する科学的特性を示した全国地図,「科学的特性マップ」を提示した(図)。このマップを携え,NUMOは,全国各都市で対話型全国説明会を実施している。
図 科学的特性マップ
これまでの各地の説明会では,市民から廃棄物を増やす再稼働の反対表明,廃棄物の総量規制がないこと,処分問題の後回し政策といった,これまでの原子力政策に対する疑問が多数だされてきた。しかし,NUMOは,これらの疑問には管轄外として答えることはない。
対話にならない「対話型説明会」は,果たして最終処分施設の設置場所を決める方法としてどれほどの有効性をもつのだろうか。疑問をもっていた。
そうしたところ,NUMOは,今回,「地層処分に関する技術的・地球科学的な側面に加え,社会的な側面に関する質問が多く寄せられたことを受けて」として,「社会的側面に関する研究支援事業」を起こし,その研究発表7題が9月6日,東京であった。市民の上記の疑問に答えるものではないが,新しい意欲的試みである。聞きにいった。
研究アプローチは,哲学,教育学,社会学,政治学など多方面にわたる。これらに共通することがある。一つは,NUMOが実施する事業だから当然だが,地層処分という処分方法の是非は問わない。安全性そのものも検討課題にはしない。地層処分は研究の大前提となっている。また,現在実施中の対話型説明会を評価し具体的改善策を提案するといった研究もない(科学的特性マップの効果について言及した研究はあった)。
7題のタイトルと,それぞれの研究概要をまとめてみた。
1. 萱野貴広(静岡大学)「Argumentによる合意形成プロセスモデルの授業デザインと実践」
=中学生から大学生対象の地層処分場決定をテーマとした授業をデザインし実践する。
2. 高嶋隆太(東京理科大学)「高レベル放射性廃棄物地層処分の経済的価値と社会的受容性の関係」 =地層処分に対する社会的な受容や効用,各ステークホルダーの意識を明らかにする。
3. 戸谷洋志(大阪大学)「地層処分をめぐる住民との対話を促進させる手法の研究」
=地層処分をめぐる意思決定における哲学対話の意義,効果の確認,論点の抽出,哲学対話を促進させる手法を類型化する。
4. 秋吉美都(専修大学)「信頼の形成に向けて ―日本版 Citizen Advisory Boardの可能性の研究」 =
意思決定の2つの方法,コンセンサス型ルール(CR)と多数決型ルール(MR)のうち,MRの導入が,日本で信頼性の向上や事業の進捗につながるかどうかを検討した。
5. 野波 寛(関西学院大学)ほか3名「地層処分をめぐる多様な人々の合意を目指す段階的・協調的アプローチの提唱:社会心理学の知見にもとづく多角的検証」 =
地層処分施設の立地場所選定に向け,不特定多数者の関心を喚起させ,議論への参加を促す手法の提起など。
6. 松岡俊二(早稲田大学)「高レベル放射性廃棄物(HLW)の地層処分をめぐる社会的受容性と可逆性」
=地層処分政策における社会的合意をつくるための社会的討議の方法を探る。
7. 森川 想(東京大学)「事業プロセスに応じたリスクコミュニケーション施策の検討と実証的影響分析」
=地層処分を実現するために,国の政策課題の設定と,自治体レベルでのコミュニケーション施策の検討。
処分方法は地層処分でいいのかも含めて,最終処分に関わる問題解決への道はとても険しい。どのようにして議論を進めるのがいいのか,どうすれば議論が尽くされて解決にこぎつけることができるのだろうか。これらの研究はいずれ論文にして発表されるだろう。機会をみてこれらの報告をしながら考えたい。
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