スペインの廃炉と立地地域支援
スペインには,国内の放射性廃棄物管理と廃止措置を統括しておこなう国営会社がある。1984年,設置法により設立された放射性廃棄物管理公社(Empresa Nacional de Residuos Radiactivos,S.A,ENRESA)がそれである。
ENRESAは,国内で発生する全ての放射性廃棄物を管理し,人々や環境を保護することをミッションとして,科学・革新・大学省所管のエネルギー・環境・技術研究センターと,財務省所管の国家産業出資公社がそれぞれ20%,80%出資してつくられた(図)。
図 ENRESAと国家機関の関係 (ENRESA HP,一部加筆)
2018年,ENRESAが作成した第7次放射性廃棄物総合計画案では,低・極低・中・高レベル放射性廃棄物の管理,使用済み核燃料の管理,原子力発電所の廃止措置の事業戦略について記述している。ENRESAは,国内の放射性廃棄物の管理だけでなく,原発の廃止事業も一括して担う事業者なのである。ENRESA設立の背景には,スペインの原発事業者には長期にわたる廃炉をおこなう資金的余裕がなく,さらに知見や技術の蓄積も不足していたという事情があったようである。
政府とENRESAがどんな立地地域支援をしているのかをみていこう。
まず,廃炉事業では,契約主体となるプラントメーカー等には、下請業務等で地元企業を積極的に採用するよう推奨し,地元雇用の配慮もなされている。ホセ・カブレラ原発は,2006年に廃止がきまったスペイン初の廃止措置例だが,作業員の66%は地元グアダラハラ県の住民である。
1990年,国は,立地地域の福祉向上を目的とする基金を設置,230万ユーロ(約3億円)を拠出している。これは,立地地域の文化・教育,スポーツ・科学,環境保全などの活動に対する財政支援だという。
廃止措置にともなう経済損失に対する補償として政府による資金支援もされている。福井県廃炉・新電源対策室の聞取りによれば,この資金支援は制度化されているわけではなく,政府と自治体との協議によって決められるという。 ホセ・カブレラ原発では,立地自治体ゾリタに6万ユーロ(約800万円)が交付された。
以上,アメリカ,イギリス,ドイツ,フランス,スペインの5カ国の廃炉と地域支援の事情をみてきた。原発の廃炉事業を統括する国の機関があるのは,イギリスのNDA,スペインのENRESAである。ENRESAについては十分な資料が集められておらず,不明な点が多いが,とりあえず2つの機関に共通する点と違う点について概括的に整理しておく。
共通点は,ともに法律にもとづいて統一的な廃炉体制を構築,計画を策定し,原発の廃炉事業を実施,廃炉の知見と技術を集中的に蓄積していることである。国は,財政措置,計画認定などをとおして積極的に関与している。立地地域への雇用支援,経済支援なども行なっているという点である。
相違点では,跡地利用の検討がある。NDAは地元関係者による協議を求めてその結果を公表しており,NDAの戦略でも検討される。たとえば,ハーウェル地元の協議では,原子力規制局の認可を2020年までにといてサイトを全面解放することを推奨し,国立公園の中にあるトロースフィニッドではツーリズムやレジャー,商業用途への整備を求めている。これら地元からの意見はNDAで検討されるが,サイト解放の最終状態や最終土地利用が確定されているところはまだない。他方,ENRESAは,廃炉完了後の跡地利用には関与しない。以後は電気事業者の事業になるという点である。
5つの国を比較して,イギリスやスペインのような,国が,廃炉の事業を統括的に実施する機関をつくり,地域支援へもまたこの機関が関与していく制度と,こうした機関をつくらず個別に対応していく方式があることがわかった。私たちは,立地地域の今後のあり方について,どのような方向に向かい,どのような選択をしていくべきなのだろうか。
ENRESA HP
福井県安全環境部 廃炉・新電源対策室「廃炉・新電源対策に関する内外の現状と課題について -第1次報告書-」,2014年
(原電茨城事務所前抗議行動「星空講義」17,2019年10月4日)
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