奈良高 仮設校舎を日照から読み解いた これは最悪レベルである
意外なようだが,住宅の日照時間は近年,長くなるどころか短くなっている。敷地は分割されて小さくなり,そこに住宅が建っていく。要するに,建て詰まりが進行するからである。
筆者は水戸に住んでいるが,水戸のような地方都市でしかも郊外でも,冬至の日の日照時間がわずか30分とか,1時間もないという劣悪なアパートがいくつもある *。劣悪なアパートが建つ理由は,日当たりが悪くても家賃の安い住宅を選ぶ単身者や学生などに需要があるからだ。地主もこのような需要を見込んで,条件の悪い敷地でもアパートを建てる。
しかし,日照は,人の健康と衛生にかかわる重要な環境要素である。住宅を購入するとなれば,日照ゼロの住宅は,普通,買わないだろう。長く住んでいたら病気になってしまうからだ。
住宅を探している人は,自ら選択,了解して経営者と契約するからそれでいいが,奈高生は,県教育委員会の大失策が原因で,県教委が準備した日照ゼロの仮設校舎を与えられた。この校舎は,日照ゼロというだけでなく,断熱性も低く,騒音もひどいらしい。ここで,あと数年過ごせという。現1年生は卒業するまで仮設ですごすことになるらしい。これはとても異常なことだ。
それなのに,吉田教育長は,「仮設だから仕方がない」などとうそぶいている。吉田教育長には,自身が起こした大失態のために,奈高生が余儀なくされた最悪レベルの学習環境への問題認識がゼロなのである。これもまた異常なことだ。
前回は教室内の環境について考えた(9月29日)。今回は外回りから説明するので,吉田教育長,県教委の皆さん,しっかり読んでほしい。
図1は,西側運動場に設置されたうち東列仮設校舎である。正午前だが,崖の下にあって木々の枝が大きく張っていて薄暗い。この列の教室の日照時間はまさしくゼロである。この地面は,前日の雨でまだ乾ききっていなかった。風通しが悪く,湿度の高い崖下空間に面したこの列の教室は,建物の断熱性が低いこともあって,冬,教室内は厳しい寒さと結露に悩まされるだろう。
毎日新聞朝刊記事「日照不足 冬は結露 卒業の専門家 仮設に指摘」(9月29日,本文下に記事をつけた)で,掲載された写真は,筆者が,晴れた日中なのに湿った地面を指差しながらこの問題を指摘しているところだ。
図1 東側の崖に面した仮設校舎(2019年9月21日午前11時撮影,晴れ)
図2は,校舎と校舎の間の空間である。その間隔は最低限度の3m。もっと広げるべきだった。狭い運動場だからできなかったということだろうが,教室の窓と窓が向き合って,顔が見える近さ。どちらの1階教室も直射光はほぼ入らない。
この空間に向いた出入り口はないから,日常的に通路として使われることは少ないだろうが,何かの時には避難路になる。避難路としては狭く,危険かもしれない。
図2 南北方向に並ぶ仮設校舎と校舎間の空間
ひどい設置の方法である。被災地の応急仮設住宅でも,日照を確保するために,南向きに配置し隣棟間隔をとる。コミュニティ空間や施設もつくられる。この仮設校舎は,とにかく必要な教室数を確保するためだけに狭い空地に作ったから,日照も避難路も,本館やその他施設との動線も,すべて配慮の外にある。
4棟のうち1棟だけ構成のちがう校舎がある(図3)。3棟は,廊下を挟んで両側に教室が並ぶ中廊下型だが,この棟だけは片廊下型なので廊下が明るい。学校校舎は片廊下型が基本である。奈良高の本館,北館も片廊下型である。教室の南側の窓から直射光,北側の窓から天空光が入るようにするためだ。
南北方向配置で,中廊下型,しかも隣棟間隔を詰めるという奈良高の仮設校舎の設置の仕方は,日照条件としては考えられる最悪の方法なのである。
図3 片廊下型の校舎
* 村上 彬,乾 康代「民間アパートにおける日照阻害の実態 ー低層住宅地の民間アパートを対象にしてー」,茨城大学教育学部紀要(人文・社会科学・芸術)66, 2017.
【#奈良県高校再編 1266】
— 川田ひろし (@kawata_hiroshi) September 29, 2019
奈良高校OGの元教授の先生が、学校保健安全の視点から貴重なご意見。これから厳しい冬の時期を迎え、生徒たちの環境は学習にも大きく影響する。
県教委は耐震放置のツケを生徒たちに押し付けているだけであり、教育長は何の責任すらとっていない現実を県民は受け入れない! pic.twitter.com/U6NSqPvC8P
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