奈良高校仮設校舎の断熱性を被災地仮設住宅と比較した
夏休み明けの9月,急遽設置された仮設校舎に入った奈良高生の感想は,教室は暑いということだった。断熱性は相当低そうだ。
被災地の応急仮設住宅は,住環境が劣悪なため,入居者の要望に答えて,住宅供給後に,エアコンを設置したりサッシを二重にしたり外断熱を加えるなどの対応をするところがでた。奈良高校の仮設校舎は,既存の応急仮設住宅と比べて温熱環境にかかわる性能はどうなのだろうか。最近の応急仮設住宅と仕様を比較してみた。
比較するのは,次の3つの災害の被災県,合計6県の応急仮設住宅である。
東日本大震災(2011年)=岩手県,宮城県,福島県
台風12号(2011年)=和歌山県
九州北部豪雨(2012年)=福岡県,熊本県
比較する項目は,①断熱性能として断熱材(施工箇所と厚み)と窓の仕様,②シックハウス対策,である。なお,ここで挙げた仮設住宅の構造は,熊本県のみ木造軸組,その他はいずれもプレハブ(軽量鉄骨ブレース構造)である(表)。用いた資料は,六つの県は政府資料 *,奈良高校は仮設校舎図面である。ただし,奈良高校の図面は天井と壁パネル内の断熱材の厚さ数値が見当たらず,毎日新聞の県教委への取材で得られた数値を用いている。
表 被災地の応急仮設住宅と奈良高校仮設校舎の比較
断熱材は通常,天井裏(または,及び屋根裏),壁の中,床下に施工される。6つの県では,いずれにも施工している。ところが,奈良高校仮設校舎だけは,床の断熱材がない。室内の熱は上から逃げるということでケチったようだ。
確かに,床の熱損失は窓や外壁に比べると小さい。しかし,ゼロではない。冬の暖房時における床からの熱損失は10%程度ある。
次に,断熱材の厚みを比較する。天井から逃げる熱量が大きいので,通常,天井に特に厚く断熱材が施工される。仮設住宅ではいずれも天井に100mm施工されているが,奈良高校は94mm(天井パネル内40mm + 天井裏50mm +屋根裏4mm)で,6mm薄い。壁についても同様で,いずれの仮設住宅と比べても最大で60mm薄い。
表にあげた仮設の中で,断熱がもっともマシなのは,2011年の岩手県と2012年の熊本県の仮設住宅である。岩手県と熊本県では,天井,壁,床に一定程度の厚さの断熱材を入れるとともに,窓には二重サッシまたは複層ガラスを取り入れている。熱損失は夏,冬とも,窓がもっとも大きいから,断熱材を入れるとともに窓の断熱性を上げることが重要なのである。
ところで,東日本大震災での福島県の取り組みをはじめとして,地元産木材を用い,地元工務店によって木造仮設住宅が供給される例が増えてきている。九州北部豪雨の被災地,熊本県でも取り組まれた。木材は鋼板パネルより熱伝導率は小さく熱損失が少ない上に,吸湿性があるので,断熱性の向上と冬の結露とカビ発生の抑制に大きな期待ができる工法だ。
これら仮設住宅に比べると,奈良高校仮設校舎は,従来型の,熱伝導率の高い鋼板パネルで天井,壁をつくり,断熱材も薄い上に,床と窓の断熱対策がない(窓はアルミサッシ1重,4mmガラス単層)。数年前の被災地の仮設住宅より断熱性を上げるどころか,明らかに劣っている。
さらに,壁断熱についていえば,断熱材は外壁だけにしか入っていない。学校の廊下は昇降口とつながっていて外気温と対して変わらない寒い空間である。教室の暖房効果を高めるためには,この寒い廊下と教室の間仕切壁の断熱も必要だが,断熱材は入っていない。教室の断熱性に関してはこの点も重要である。
なお,シックハウス対策には,内装材,屋根裏建材にF⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎(一部屋根裏でF⭐︎⭐︎⭐︎)が用いられており,こちらは問題はなかった。
以上,奈良高校の仮設校舎を,被災地6県の応急仮設住宅と比べて分かったことは次の通りである。
①天井,壁とも断熱材が薄く,仮設住宅のいずれにも施工されている床断熱がない。
②窓の断熱は,仮設住宅でもまだ一部にしか対応していないが,奈良高校でも窓の断熱はされていない。
③住宅と異なって校舎の廊下は外気と通じている。その寒い廊下と教室の間仕切壁に断熱材が装填されていない。
教室にはエアコンが2台設置されているが,これから数ヶ月,かなり寒い室内環境で過ごなければならないだろう。
* 内閣府資料「過去の災害における応急建設住宅の発注仕様」,http://www.bousai.go.jp/taisaku/pdf/sumai/sumai_5.pdf
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