ドイツ・ルブミン村の教訓
ドイツのルブミン村は,原発8基をもつ,旧東ドイツ地域にある原発の村だった。1990年のドイツ統一で,その原発が全て閉鎖あるいは建設中止になり,村は,突然にして村存続の危機に陥れられた。
それから四半世紀,ルブミンは,フォアポンメルン=グライフスヴァルト郡でトップレベルの財政力を持ち,住民一人あたりの税金投入額でみても有数の自治体になった *。現在のルブミンは,蘇ったとでもいったらいいような再生ぶりである。
2007年,フランクフルター=アルゲマイネ紙は,ルブミンのこの立ち直り方を「ルブミンの奇跡」と称した。これは,原発サイトの一部に整備した工業団地の成功を指して言ったものである。しかし,ルブミンには,この後に起こった,もう一つのさらに大きな「奇跡」がある。 10月,日本都市計画学会で発表した内容の一部をここで紹介する**。
旧東ドイツ地域の人口はドイツ統一から今日までの間に14.9%減少しているが,ルブミンは53.8%増加した。2018年1〜2月,村役場に手伝ってもらって,住民アンケート調査を実施し,ルブミンはなぜ大幅に人口を増やすことができたのか,その理由は何なのかを明らかにしようとした。
調査票をつくっていた時は,村には廃炉会社と工業団地があるので,人口増加は,これらの企業に勤務する人たちとその家族の転入によるものだろうと予想していた。 ところが,その予想はまったく外れ,あまりにも意外な理由だった。
簡単にいえば,当時の原発労働者の多くは村から去り,現在の住民の多くは,廃炉決定後に村にやってきた人たちで,その圧倒的多数は,廃炉会社とも団地入居企業とも関係のない人たちだった。
この事情を説明するには,工業団地の成功から話を始めなければならない。工業団地の成功で,ルブミンの企業からの営業税収は,今世紀に入ってわずか10数年のうちに100倍へと急増した。豊かになった財政力を生かして,ルブミンは住環境整備に投資し,人々は環境のよいルブミンに惹きつけられたのである。 そういえば,村長のフォクト氏,私たち日本の調査グループの対応をしてくださった村役場の方もルブミン出身ではなく,近隣の都市や村から来た方だった。
次の写真がそのあたりの事情をわかりやすく教えてくれる(写真1,2)。周辺の村と比べるとはるかに高い整備レベルである。
写真1 村の家並み
写真2 村のメインストリート
また,村は自然環境保護にも投資している。 ルブミンは海辺の観光地だが, 日本の観光地によく見られるような,海岸域を自然環境や景観を大きく破壊する開発はない。Fプランで規定されていてそのような開発はできない。外部資本による中層の集合賃貸別荘建物が数棟あるが,海岸樹林で隠されている。観光客は,宿泊件数で2006年から8年の間に3.7万件から5.6万件へと51%増加した。ルブミンは,望ましい居住地,滞在したい観光地になったのである。
ルブミンのこの成功はきわめてまれな成功ではあるが,ここから教訓として汲み取れるものは次の二つがあるだろう。
一つは,原発誘致から貯蔵施設誘致,廃炉事業にいたるまで電源三法交付金にしばられて容易には原発依存から抜け出しにくい仕組みをもつ日本に対して,ドイツにはそのような制度はない。ルブミンは,よってたつ国家が消滅した上,閉鎖が決まったが廃炉事業資金がないという絶体絶命のピンチに見舞われたが,連邦政府の大きな経済支援を受けて,立地自治体の共同性と創造性を発揮して,地域再生のビジョンを描き,道を自ら切り拓いたことである。このあたりの詳細は,筆者の別の論文で述べておいた ***。
二つ目は,先に述べたように,豊かになった財政で,住環境整備に投資し,観光業を振興したことである。交付金で大きな公共施設をいくつもつくる日本の立地自治体とは,地域のビジョンの描き方が異なる。持続可能な町のあり方を展望するとはこういうことなのだろうかと思う。
しかし,原発立地地域には負の遺産も残される。ルブミンには中間貯蔵施設(ZLN)がある。ZLNは,全国から運ばれてきた放射性廃棄物も貯蔵する施設なので,施設は巨大である。加えて,最終処分場は未だ決まっていない。処分場が稼働するのは来世紀になると報道されたばかりで,法定40年の貯蔵期間をこえる蓋然性は相当はっきりしてきた(稼働開始は1999年)。これに関して,住民の4割はZLNの安全性に不安を抱き,8割以上が40年を超える貯蔵は認めないと考えている。
立地地域には,廃炉を見守りつつ,廃炉期間を超える可能性も否定できない超長期の放射性廃棄物貯蔵とも付き合わなければならないという課題も残されるのである。
* Ostsee - Zeitung, 2014年2月25日
** 乾 康代,中田 潤「ドイツ・ルブミンの地域再生の実態と教訓」,日本都市計画学会都市計画論文集 54-3,2019
*** 乾 康代,齊藤充弘,中田 潤「原子力発電所の廃炉後の跡地利用と地元の町の再生 ードイツ,九グライフスヴァルト原発の事例研究 ー」日本都市計画学会都市計画論文集 51-3,2018
(原電茨城事務所前抗議行動「星空講義」20,2019年11月15日)
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