品田村長(刈羽村)と山田村長(東海村)の対談記事(『ENERGY for the FUTURE』)を読む1

 2019年10月1日,原子力業界誌『ENERGY for the FUTURE』(ナショナルピーアール株式会社)に,沸騰水型原子炉が立地する自治体の首長,品田氏(新潟県刈羽村村長)と山田氏(茨城県東海村村長)の対談を掲載した号が発行された(図)。「BWRの再稼働 困難あり,便法あり,希望あり」と題した対談記事は本号のトップ記事で,10ページを割いている。

図 『ENERGY for the FUTURE』2019, No.4(10月1日発行)の表紙


この東電と原電の原発立地自治体の首長の対談内容には問題が多く,批判が多数出されている。本稿は,まずは,この原子力業界誌が,二つの原発立地自治体の首長に何を期待して対談を企画したのか,2人の首長は何を語ったのかを報告する。

川崎篤子さん(東海村元村議)が,11月5日,この記事の存在をtwitterで発信した。「それにしても東海村の山田村長さん.. こんなところ(雑誌「Energy for the Future」2019 No.4)に登場し,こんなことを主張」と書き込み,雑誌記事のコピーを貼りつけた。

つづいて9日,東京新聞が「原発否定なら『自宅から出るな』 東海第二の再稼働 村長が容認発言か」と題して,次のように報道した。

「対談で山田氏は,原発に否定的な人に対し『全ての外部電源を遮断して自家発電だけで生活してもらわなくてはいけない。自宅から一歩も出てはいけない』とも指摘。このほかに,福島第一の事故を受けて厳しい新規制基準ができたとして『論理的に考えれば、同じような事故はまず起こらないと思うはずだ』と述べ,周辺住民に『何かあった時には福島の二の舞いになるという心理』があり再稼働への理解が広がらないとの認識を示した」。 朝日新聞,しんぶん赤旗が続いて報道した。以上が,この対談記事がクローズアップされるにいたった経緯である。

この対談の趣旨は,聞き手「E」が次のように示している。

「最近,国際情勢の変化,国内における景気動向,地球環境問題等から原子力を見直そう,という動きが若干出てきたように思いますが,PWR(加圧水型原子炉)は9基が再稼働したものの,BWR(沸騰水型原子炉)は未だゼロです。これは一体どういうことなのか。このままでは2030年の原子力比率20〜22%という目標値の達成は相当厳しいのではないか。そこでBWRを抱える地元から,刈羽村の品田村長と東海村の山田村長にお越しいただきました」。

つまり,対談趣旨は,再稼働がすすまないBWRを対象にし,その立地自治体の首長に再稼働に向けたアピールをしてもらうというものである。

二人の対談は,次の8つの小見出しのもとで展開している。①東海第二原発の現状,②「出ないお化け」に怯えないで,③自分の頭で考えよう,④段階的避難の原則を理解していますか,⑤安全対策と避難計画はセット,⑥欧米人に出来て日本人に出来ないことはない,⑦メディアはニュースを報じず,空気をつくる,⑧廃炉時代に求められる日本人の知性。

それぞれの見出しのもとで語られた発言要旨は,以下のとおりである。

① 東海第二原発の現状: (山田氏)原電は安全対策工事をすすめている。原電と事前了解の協定を結んでいる6市村では,市民の意見を聞こうと懇談会を立ち上げるなどしている。安定的な電力供給は欠かせないからBWRはしっかりと再稼働していく必要がある。東電と東北電力が原電を支援するのも,東海第二原発の再稼働に期待しているところ大だからだ。

② 「出ないお化け」に怯えないで: (品田氏)再稼働の事前同意というプロセスは存在しない。規制委員会が合格証を出したら,柏崎刈羽原発の再稼働に不満はない。科学立国日本の国民が「出ないお化け」に怯えている様は悲しい。

③ 自分の頭で考えよう: (山田氏)新規制基準で安全対策が向上したから,論理的に考えれば,同じような事故はまず起こらないと思うはずだ。規制庁が絶対安全ではないと言うから,住民説明会が台無しになる。冷静に考えられない人たちが多い。(品田氏)「原子力の透明性を確保する地域の会」をつくった。ここでは,安全か危険かではなく,必要か不要かを議論してほしいと言っている。

④ 段階的避難の原則を理解していますか: (山田氏)段階的避難とは,PAZの東海村民3.8万人は即時避難,UPZの水戸市27万人はまずは屋内退避という方法だ。段階的避難を理解し行動すれば,安全だ。

⑤ 安全対策と避難計画はセット: (山田氏)原発の安全性が向上したから,放射性物質の放散も抑制される。時間の余裕がでるから,適切な予測と対応で済む。原発が必要ないという人は,自家発電で生活し,原発由来の社会インフラを使ってはならず自宅から一歩も出てはいけない。(品田氏つづけて)原発要らないという人は,病気になっても救急車を呼ぶな。救急車は呼べば来ることは当然としながら,原発を要らないという主張はありえない。地球人口を支えるエネルギーは原子力しかない。

⑥ 欧米人に出来て日本人に出来ないことはない: (山田氏)再処理施設や最終処分場の問題が解決するまで,原発を再稼働してはいけないというのは極論だ。(品田氏つづけて)地球規模で原発は増える。国民は日本の技術を再認識し,原発は必要な技術だから安全に使っていかないといけない。

⑦ メディアはニュースを報じず,空気をつくる: (品田氏と山田氏が交互に)再稼働の重要性や必要性を訴えるべき相手は政策当局である。政策当局が気合を入れなければ誰も気合いが入らない(再稼働がすすまない)。メディアはニュースを報じず,個人の意見は拡散するだけで,世論は形成されない。個人の単なる批判とこれに同調する空気を質すべきは,政権与党,総理大臣だ。

⑧ 廃炉時代に求められる日本人の知性: (山田氏)国は,再稼働,安全管理,処分問題のいずれについても立地自治体,事業者に解決策を示し支援するなりしないといけない。(品田氏)教育が間違っている。自立した人間が育たない。原子力から社会の暗部が見える。


そもそも福島第一原発事故の原因は未だ明らかになっていない。原発周辺は汚染されて人々が帰れない土地となり,人々は家族,生活,住まい,生業と,これらにかかわる諸々のものを失った。にもかかわらず,東電は被災者への誠意ある賠償を拒否し,福島県は県民を避難先の住まいから追い出そうとしている。高浜原発マネーの関電への還流問題が追及されている最中でもある。

このような状況の下にありながら,再稼働促進を狙う業界誌の企画に乗った2人が,事態の重大さに立ち帰ることなく,原発反対の市民を愚弄し,さらには市民的権利剥奪まで口にするという卑劣な議論を展開している。首長たる立場にある人として,信じがたい暴論の数々である。厳しく非難されるのは当然である。論理矛盾や明らかな間違いもある。

まともな雑誌とはとても言えないが,放談したのが,注目される二つの原発立地自治体の首長である。議論しないわけにはいかない。次回以降,この対談が示している問題を取り上げて論じてみたい。ただし,筆者の能力と時間の許す範囲内です。


22日の金曜行動は雨のため途中で中止になりました。29日にします。

(原電茨城事務所前抗議行動,「星空講義」21,2019年11月29日)

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