東海村山田村長の対談記事を読む3  村長の資格を問う

茨城県がどんなところか知らなくても,東海村とはどんなところかは,日本のかなりの人は知っているのではないだろうか。日本で最初に原子力開発が始まった村,原発をはじめとする各種原子力施設が集中している村,JCO臨界事故を起こし,国内で初めて被曝による死者が出た村として。

私は,水戸に来る前は大阪にいたが,その頃,東海村と聞いて連想したのは1999年のJCO臨界事故であり,東海村のイメージは被曝事故で死者を出したとても危険な住宅地というものだった。2001年,水戸へ転居し,2003年ごろ,初めて村を訪れた。そこで,原発に住宅地が取り囲んでいる状況を見てびっくりし,こんな危険な住宅地は絶対おかしいと思った。

東海村は,原子力開発先駆の地だが,同時に,日本初の臨界事故と被曝による死者を出したという重い事実を背負っている地でもある。この重い事実を忘れず,原子力ムラから独立し,住民の安全が第一の施策をすすめることが,原子力開発先駆の東海村の立つべき位置である。同時に,東海村は,東海第二原発周辺の自治体,国内の原発立地自治体の中できちんとした役割を果たすべき位置にある。

ところが,2019年10月,その東海村の山田村長が,福島第一原発事故の原因究明も収束もまだ手づかずの状態なのに,臨界事故の教訓も忘れたかのように,原発再稼働促進を率先して表明した *。

山田村長の主な問題発言を下にあげた。

社会インフラとしての安定的な電力の供給は絶対に欠かせない。BWR(沸騰水型原子炉)もしっかりと再稼働していく必要がある

(福島第一原発)事故があったから新規制基準ができた。論理的に考えれば、同じような事故はまず起こらないと思うはずだが,(住民は)『(事故のリスクが)ゼロではない』という言葉から『何かあった時には福島の二の舞いになる』という心理が強まり、論理的思考を超えてしまう

原子力規制庁が規制基準の高さと厳格な運用実態を説明して、事業者がしっかりとそれに応えているので十分に安全性は高まっている,と言うべきです

原発は必要ないと言う人は,全ての外部電源を遮断して自家発電だけで生活してもらわなくてはいけない。社会に出て電車に乗ろうとしたら,それは社会インフラの電気を使うことになるので,自宅から一歩も出てはいけない。そんな生活をするのは無理だ

東海第二原発の再稼働に対しては,東海村を含む6市村は,原電に対して事前了解権をもっている。事前了解協議の前だから,山田村長は,当然,再稼働に関する発言は慎重でなければならないが,再稼働が必要だと公言したのである。しかも,発言は,再稼働に反対する村民や市民がいない誌上でだった。村民も市民も批判できない場だから,山田村長は何の躊躇もなく本音を吐き出した。

山田村長は,村民や市民から数々の批判を浴びて発言を詫び,今後は(再稼働に)中立という立場を守ると述べた。ところが,代わって述べたのは「村長として,議論を先導することはやっていきたい」だった(11月25日,定例会見)。自分が村民を「先導」する,すなわち,村長が村民の先に立ち議論を導くと主張したのである。

ここで改めて山田村長の発言を洗い直し,その意図と問題を整理してみた。

1. 東海村村長としての資格が疑われる: 東海村は,周辺5市とともに,原電に対する事前了解権をもつ。6市村との協議前に,ひとり東海村首長が率先して再稼働容認を発言した。BWR一般について述べただけだと弁明したが,対談冒頭で東海第二の安全工事の進捗を説明した上でのこの発言である。詭弁でしかない。東海村村長としてした再稼働容認発言は,首長としての資格を問われる発言である。

2. 東海村村長として出過ぎた不遜: そもそも,山田氏は,村長として再稼働促進の対談企画に乗ってはならなかった。しかし,なぜ乗ったのか。この疑問に対して次のような解釈がある。村長として「東海第二は百点満点、避難も可能」と踏み込んで発言することで,周辺にもたらされる影響を期待したと。

確かに,この解釈を裏付けるような氏の発言を見出せる。事前了解の協定を結んだ周辺5市には「それなりの知見も蓄えていただき,きちんと向き合えるように努めている」。避難先3市に対しては「これまで(東海村には)3回の避難訓練をやったという経験値があるが,避難先の市にはそのノウハウがない」。

さらには,上にあげた「村長として,議論を先導することはやっていきたい」である。

東海村は,原発立地村として周辺自治体に対して優越的な立場にあるわけではない。東海村村長は,村民に対して尊大であってはいけない。

村上前村長が,原電との間で6市村の事前了解の協定締結に努力したように,東海村村長は,村と周辺自治体の住民のための連携行動のリーダーまたはコーディネーターの役割を果たすとともに,村民に対しては意見が異なっても敬意をもってその言葉に耳を傾けなければならないのである。

3. 原発再稼働に反対する住民を見下す: 「(原発反対の住民は)何かあったら福島の二の舞になるという心理になり,論理的思考を超える。それはきちんと向き合おうとしないから」「一般の住民というより,自分たちの理屈を押し通したい人たち」「原発は必要ないという人は自宅から一歩も出てはいけない」。
伴英幸氏(原子力資料情報室 共同代表)は,これらの発言について,「(山田村長は)自分は原発をよく知っている,理解できない住民はばかだという感覚」,村上前村長も,原発反対の住民を「ばかにする表現」と厳しく批判した。

山田村長は,反対意見をもつ住民を受け入れたくないのだろう。だから,論理的な思考ができない人たちと言って見下し,一般住民ではないとして村民の中で区別するのである。

4. 自ら起こした議論で攻撃するが議論を耕さない: 「新規制基準によって従来よりも安全性は高まったから,避難の時間的余裕がどの程度できたか、説明する必要がある」と述べた。自ら起こした議論だから,村長がきちんと解説するべきである。その上で答えてください。

私は,東海第二原発から18km先に住んでいます。私の避難の時間的余裕は何分ですか。



* 品田宏夫,山田 修「BWRの再稼働 困難あり,便法あり,希望あり」『ENERGY for the FUTURE』,2019年10月

** 東京新聞,2019年11月5日,11月16日,11月22日,11月26日,11月29日,11月30日

*** 朝日新聞,11月16日,11月22日


(原電茨城事務所前抗議行動,「星空講義」22,2019年12月6日)

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