東海村とルブミン村に学ぶ原発依存からの脱却(学習会要旨)
水戸市内で開かれた学習会でお話をしました。『原発都市 歪められた都市開発の未来』を出してから1年。『原発都市』その後の新しい発見と調査分析を盛り込みました。
茨城県勝田市に描かれたもう一つの「原子力センター」計画図
日本原子力産業会議(原産)は,1957年春,東海村の将来図「東海村の立体的図板」を東京と大阪で発表した。つづいて,1961年,東海村の南に隣接する勝田市(現・ひたちなか市)臨海部にある米軍の水戸射爆場サイトに,100万キロワットの原発を含む「原子力センター」の計画図を作成した *。
原産は,東海村と地続きの勝田市の水戸射爆場の返還を実現させ,ここに巨大な原子力センターを作ろうと考えたのである。
どれだけ巨大かというと,水戸射爆場の面積は1,148ha。アメリカの核貯蔵施設を除くと,世界最大の原子力施設複合サイトはイギリス・セラフィールドの600haだから,勝田の「原子力センター」は世界のどこの追随も許さない,超絶巨大な原子力施設複合サイトになるかもしれなかった。
筆者は,勝田の「原子力センター」に予定された原発を「勝田原発」と名付けた。東京電力(東電)が作ろうと狙ったようだ。現在,水戸射爆場跡地は,国営ひたち海浜公園ほか,工場地区,商業地区などに利用されていて,原子力施設はまったくない。
「原子力センター」が実現しなかったのは返還に時間がかかったからで(1973年),東電はおそらく早々に勝田を諦めて,福島県大熊町と双葉町に原発の立地点を求めていった。
もし,「勝田原発」ができていたら,福島第一,第二原発は作られなかった可能性がある。そうなれば,70年後,福島にこれほど悲惨な災害がもたらされることはなかった。しかし,一方で,「勝田原発」に大きな被害がもたらされた可能性がある。その時,日本はどうなっていたのだろう。
原発は地域の発展に貢献しない
原発を誘致すれば,人口減少と地域経済の衰退を止めることができる,といった将来がよく語られた。しかし,実際はそうはならなかったことは多くの事例が示している。ここでは,2つの原発立地地域の例を上げる。
一つは福井県敦賀市。敦賀市には原子力機構と原電の原発がある。人口が同規模程度の越前市と比べると,その差は歴然としている(図)。事業所数では越前市は敦賀市の3.8倍,製造品出荷額等では5.2倍である。原発のある敦賀市は,工業化と工業生産額で,圧倒的に越前市に水をあけられている。
図 敦賀市と越前市の比較
もう一つの例は双葉町である。双葉町は,3.11で町役場ごと避難をせざるを得なくなった原発立地自治体である。役場と全町民の避難の陣頭指揮をとった井戸川克隆前町長によれば,原発によって市に交付された税金と,原発災害で失った年月と金額は比較にならない。以下は,井戸川氏の発言部分の東京新聞の記事である **。
双葉町が2008年度までの35年間に国から受け取った原発関係の交付金は33億円にすぎず ***、福島第一事故で「200年と20兆円を失った」と後悔の念も吐露。「東海村が失うものはもっと大きい。(将来にわたる損失額は)国家予算の二倍との試算もある。経済優先で再稼働するなら、全部失うことを恐れるべきだ」と語った。
ただ,交付金が2008年までの35年間で33億円というのは少なすぎる。福島県の資料によれば,1974〜2000年(27年間)の電源三法交付金は50.43億円である ***。東電からの税収は交付金のほか,法人町民税や固定資産税もある。これら電源三法交付金,法人町民税,固定資産税を合計すると(1974〜2000年),424.25億円になる。33億円というのは過小に言い過ぎである。もちろん,このように言い直したところで,原発事故が起これば失うものの方がはるかに大きいことに変わりはないが。
原発の村ドイツ・ルブミン村が取り組んだ自立の道
ルブミンは,旧東ドイツ地域にある2,000人の原発の村である。ドイツ統一で,ドイツ政府によって図らずも全8炉の廃炉が決定された。
ルブミンは,自立した村を目指して,廃炉会社EWN社とともに地区詳細計画をつくり,原発サイトに,原発に代わる新エネルギー育成を目指す工場団地を整備,企業誘致に成功した。工場団地の成功は「ルブミンの奇跡」と称された。
「ルブミンの奇跡」とは,2007年,フランクフルター=アルゲマイネ紙が称したものだが,本当の奇跡はこの後に起こった。ロシアの天然ガスを海底輸送するノルド・ストリーム社を誘致し,2011年の操業開始以後,急激に税収が増加した。財政的にとても豊かな村になった。
ルブミン村は,住環境の整備と自然環境の保全を実施し,これによって,新たな住民を呼び寄せるとともに,観光振興にも成功した *****。
日本の原発立地地域は,国から交付された交付金で巨大な施設をつくり人を呼ぼうとする策をとることが多いが,地域の持続可能性からすれば実りのない策である。
東海村とルブミン村から学べること
1)東海村は原産によって作られた村であることを理解する: 原産は,東海村と勝田市に「原子力センター」を描き,東海村は原産が描いた図の通りになった *****。今日の東海第二原発が住宅地に取り囲まれる状況のもとには,原産が主導した住民の安全軽視の原子力開発がある。
2)原発は地域の発展に貢献しない:
原発立地で工業発展しない。原発に依存しつづければ,地域の持続可能な発展を描けなくなる。
3)ルブミンの取り組みで学べること : ルブミン村の成功は, 原発サイトに,バルト海に面するという立地特性を生かした工場団地計画を自治体と廃炉会社が協力してつくったこと,その工場団地の成功で税収が大幅に増加したこと,豊かになった財政で住環境整備,自然保護,観光振興をし,これによって人口を伸ばし,観光客を増加させたことにある。
4)持続可能な原発のまちはない。地域資源や立地を生かした地域づくりを考えよう
* 森一久編『原子力は,いま 上 日本の平和利用30年』p.103,丸の内出版
** 「東海第二原発 東海村で原子力防災シンポ 『事故があれば、避難先で惨めな思い』」東京新聞,2019年12月15日
*** 福島県,「第19回『エネルギー政策検討会』『地域振興について』〜財政面から見た電源立地地域」,2002年7月22日
***** 乾 康代,中田 潤「ドイツ・ルブミンの地域再生の実態と教訓」『都市計画論文集』54-3,日本都市計画学会,2019年10月
******「『原子力センター』建設を担った東海原子力都市開発」星空講義,2019年6月7日 「日本原子力産業会議が描いた東海村の『原子力センター』」,星空講義,2019年6月28日「東海モデルを形づくった日本原子力産業会議」,星空講義,2019年8月2日 ,「東海村の原子力開発史で見つけた3事実」,星空講義,2019年8月5日
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