『原子力 負の遺産 核のごみから放射能汚染まで』(北海道新聞社編)を読む
使用済み核燃料を再処理して取り出したプルトニウムとウランを高速増殖炉で燃やす「核燃料サイクル」計画。エネルギー資源の乏しい日本におけるエネルギー自立政策として,政府と電力事業者によって推進されてきた。
その核燃料を「サイクル」させる施設には,ウランの精錬,転換,濃縮,加工工場,原発,使用済み燃料中間貯蔵施設,再処理工場,MOX燃料加工工場,高レベル放射性廃棄物貯蔵施設,処分施設,低レベル放射性廃棄物埋蔵施設などがある(図1)。
図1 核燃料サイクル概念図 (出典:日本原子力文化財団「原子力・エネルギー図面集,2016年)
本書は,北海道新聞記者による連載記事を中心にまとめられたもので,北海道での最終処分場誘致の動き,幌延町に設置された幌延深地層研究センターをめぐる処分場準備の疑惑,道が処分場設置を封じるために制定した核のごみ受け入れ拒否条例の実効性の議論を記述し,さらに青森県核燃半島,もんじゅ,福島第一原発の廃炉現場へ取材をすすめて,核燃料サイクル計画の破綻実態に迫った。これによって,メディア・アンビシャス活字部門大賞とJCJ(日本ジャーナリスト会議)賞を受賞した。
北海道で図1に示す核燃サイクル施設は北海道電力泊原発だけである。しかし,本書で知ったが,道内で処分場誘致の動きがあり,幌延町にも深地層研究センター設置に先立って処分場誘致があった。1969年の新全総に盛り込まれた苫小牧東部地域(苫東)の工業団地開発が完全空振りに終わった後,ここでも処分場誘致がささやかれたという。結局,市街地に近いことなどから誘致は立ち消えた。
他方,南隣の青森県では,六ヶ所村のむつ小川原開発が,苫東と同様,1969年の新全総に盛り込まれたものの,同じく見事に空振りし,80年代に入って核燃料サイクル施設を受け入れた。六ヶ所村のほか,下北半島にはむつ市に使用済み核燃料貯蔵施設,東通村に東通原発,大間町にはフルMOX燃料を燃やす大間原発の建設へと核燃サイクル施設が集中する地域へと変容していった。
人口25.5万人の函館市は,津軽海峡を隔てて下北半島北端の大間原発からわずか20km先にある。函館市は,大間原発の30km圏に入るにもかかわらず,市の同意なしに原発建設の再開が決定され,その一方で避難計画の策定義務を背負わされた。函館市は,市民の生命や財産を守り、函館市を将来の世代に引き継いでいくためにとして,原燃と国に建設差し止めなどを求める訴訟を起こしている。
北海道新聞編集委員から取材を受けた時に聞いたことだが,泊原発の再稼働審査が止まったままなのは,国が日本の食糧基地である北海道で原発は動かせないと考えているからだということも興味深い話だった。
東海再処理施設は廃止され,六ヶ所村の再処理工場は未だ完成しない。核燃サイクル計画の中核原子炉もんじゅは廃炉になった。核燃サイクル計画はすでに破綻しているにもかかわらず,再処理は継続される。
サイクルは破綻しても再処理は続けられるという理解しにくい事情の裏について,秋元健治(日本女子大学教授)は明快に解析している。「国や電力会社は,使用済み核燃料を廃棄物ではなく,あたかもリサイクルできる資源のように偽装してきました。電力会社にとって最大の課題は,全国の原発にたまり続ける使用済み核燃料を搬出して,原発の運転をつづけることです」。
核燃サイクル施設を受け入れた青森県は,1998年,日本原燃と「再処理が中止されれば,使用済み核燃料を電力会社に返還できる」との覚書を結んだ。だから再処理は止められない。もし再処理を止めて使用済み核燃料を返還すれば,玄海原発は即停止,泊原発は13年後停止になる(2012年4月の試算)。青森県も再処理施設を稼働してこそ雇用と税収が保証される。要するに,地元と国・電力側は互いに依存する運命共同体となって,原子力行政をがんじがらめにしていると,本書は指摘する。
日本学術会議が,2015年,「提言 高レベル放射性廃棄物の処分に関する政策提言-国民的合意形成に向けた暫定保管」を発表した。
今田高俊(日本学術会議検討委員長)は,提言の価値を次のように説明している。「原発を動かすことを優先し,動かした後で,実は厄介なごみが出る,でもみんな電気を使っているからみんなの責任だというのは『後出しジャンケン』です。その反省が国にも電力会社にもない。提言は,核のごみの量に上限を設ける『総量管理』の考え方も打ち出しました。今後発生するごみの量を抑制することで,脱原発は加速するはずです」。
私も提言を読んだ。素晴らしい提言だった。ところが,政府は,自ら日本学術会議に提言を求めたにもかかわらず提出された提言を受け入れず,地層処分を前提に議論をすすめるという。核燃サイクル計画の破綻を認めないばかりか,核のゴミ排出のコントロールと最終処分法のあり方についての自由な議論を受け入れないという政府の態度は間違っている。科学の専門家と市民の柔軟性ある考えにもっと耳を傾けるべきだと思う。
舩橋晴俊,長谷川公一,飯島伸子『核燃料サイクル施設の社会学 青森県六ケ所村』有斐閣選書,2012
(原電茨城事務所前抗議行動「星空講義」28,2020年2月7日)
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