原発開発の昭和30年間と平成30年間


日本の原発開発は,1955年の原子力基本法制定,翌1956年の日本原子力研究所(原研)の東海村設置から始まった。以来,60年余りになる。この60年を昭和の30年間と平成の30年間に分けて,日本の原発開発60年史を振り返る。

昭和と平成それぞれ30年間とは出来過ぎの感がある区分だが,この二つの時代の境には,偶然だが,原発の歴史上きわめて重要なチェルノブイリ原発事故(1986年)がある。この偶然によって,昭和と平成それぞれ30年間という分け方に意味が出てくる。

1953年,アメリカ・アイゼンハワー大統領が,国連総会で「原子力の平和利用」を訴えて原子力の商業利用を促した。時代は冷戦時代,自由主義陣営と社会主義陣営が,核兵器開発を競争する一方で,原発開発の競争もすすめた。日本は,アメリカの陣営に入って濃縮ウランの提供を受け,原発設置に向かって直進していった。

原発開発の年表を作成した(表1)*。まずは,表中の,日本と世界の運転原子炉数のグラフを確認する。世界で原発が急増したのは,チェルノブイリ原発事故が起きるまでのおよそ30年間だった。その間,1973年に起こった石油危機が,石油に頼らない電力供給源として原発急増を後押しした。


表1 原発開発の60年史


しかし,チェルノブイリ原発事故後は,原発は減りはしないがもはや増えないという停滞状態に入った。閉鎖炉が急増する一方で,新設原子炉も急減したのである。ドイツ,スウェーデン,イタリア,ベルギーなど事故の直接的影響を受けたヨーロッパ各国では,原発建設計画の放棄,建設工事の中止,運転中の原発閉鎖などを実施する例が続出し,原発の段階的な縮小がすすんだ。

原発推進を大きく変節させたチェルノブイリ原発事故は,ちょうど日本の昭和と平成を区切る時期に起きた。

その日本では,チェルノブイリ原発事故の直接的な影響を受けることがなかったため,平成に入っても原発新設は推し進められた。新設にブレーキがかかったのは,チェルノブイリ原発事故から25年後に起こった福島第一原発事故だった。平成後半期のことである。以後,原発新設はゼロになり廃炉が急増している。

1950年代後半から始まったイケイケの原発開発を支えたものの最大は,原発の安全神話だった。原発は五重の安全対策をしているから,原発の過酷事故は絶対起きないと言われてきた。多くの市民はそれを信じた。チェルノブイリ原発事故が起きたときも,あれはソ連型の原発だから起きたのであって日本であのような事故は絶対起きないと喧伝された。市民はそれを信じた。しかし,福島第一原発事故は起きた。

2015年,筆者は,ドイツ・ルブミン村(旧東ドイツ地域)を訪問し,そのソ連型原発・グライフスヴァルト原発の廃炉会社,EWN社前会長ユルゲン・ラムスーン氏にインタビューしたとき,同氏から,福島第一原発は信じられないほどお粗末だというようなことを言われてびっくりした。

お粗末だと信じていたソ連型原発の会社の前会長に,福島第一原発はあまりにお粗末だと言われたその時初めて,安全神話を素直に信じていた愚かな自分に気づいた。

平成の30年間は,原発開発の停滞期だったが,地球温暖化対策が喫緊の課題となった時代でもあった。

温暖化への取り組みは,1992年国連気候変動枠組条約にはじまり,1997年京都議定書,2015年のパリ協定締結へと進展した。世界の平均気温上昇を産業革命から2度未満に押さえ,今世紀後半に温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを取り決めたパリ協定が,平成が終わり次の新しい時代に入った2020年の今年,実施段階に入った。

原発は,地球温暖化対策に対して重要な位置を占めるエネルギー政策でどのような位置づけを与えられているだろうか。国のエネルギー基本計画を見た。

2030年度の電源構成は,再生可能エネルギー22〜24%に対し,原子力20〜22%とされる。これはかなり大盛りの数値である。原発による電気は安全対策のために今後高コストになり,既存原発の延命策をとるほどコストは吊り上がる。現在わずか2%程度の原発比率を20%へ向けて上げるその前に,コストが下がっている再生可能エネルギーが急激に比率を伸ばしていくだろう。20〜22%という数値は,原子力業界からの要望で積み増した数値なのだろう。

原発比率20~22%は達成できるとは到底思えないし,またすべきではない。エネルギー構成の中で原発比率を上げるとは,既存原発の再稼働をすすめることを意味するが,地震の多い日本で,原発を再稼働させることのリスクの巨大さを原発震災という視点から確認しておきたい。

原発震災とは,原発が地震で大事故を起こし、通常の震災と放射能災害とが複合・増幅しあう破局的災害のことで,石橋克彦が提唱した概念である。塩崎賢明がこれをわかりやすく指標化した。表2に示している **。

表では,1900年以降に起こった,死者1,000人超の地震回数の多い国の順に並べ,原発震災リスク=(単位面積あたり地震回数 ✖️ 単位面積あたり原発)の大きさを示している。


表2 原発震災リスク


地震回数では,日本は,中国,イランについで3位である。原発炉数では,アメリカ,フランスについで3位である。

ところが,国土面積10万k㎡当たりの地震回数に換算すると,日本は突出の1位になる。国土面積10万k㎡あたりの原子炉数では韓国に次ぐ2位となる。この2つの指標を掛け合わせた減配震災リスクは,アメリカを始めとする国はいずれも,ゼロまたはほぼゼロだが,日本はダントツの38.09,1位なのである。

原発震災リスクがこれほどに突出している国で,原発を再稼働させることは間違っている。


* グラフ数値の出典:IAEA, Nuclear Power Reactors in the World, 2017
** 塩崎賢明『復興<災害> ー阪神・淡路大震災と東日本大震災』岩波新書,2014


(原電茨城事務所前抗議行動「星空講義」29,  2020年2月14日)

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