茨城新聞社説「新型コロナと自然災害 避難所の感染防止策急げ」を批判する

茨城新聞の社説「新型コロナと自然災害 避難所の感染防止策急げ」(2020年5月18日)を読んだ。新型コロナの感染拡大の最中,もし自然災害が起こったら,現行の避難所では集団感染が発生する恐れがある。その改善を提言する社説である。要約を以下に書いた。


新型コロナウイルスの感染拡大が続いている中でも、自然災害は容赦なく襲ってくる。この状況で、洪水や土砂崩れ、地震、噴火などが起きれば、避難所で集団感染が発生する恐れが強い。災害と感染症のダブルパンチを避けるための準備を急ぎたい。
東日本大震災や熊本地震などが発生した後、避難所ではインフルエンザの流行やノロウイルスの感染、集団食中毒などを招いている。現状のままでは感染症に弱いことは明らかだ。
さらにトイレが少なくて汚い、キッチンがなく温かい食事がとれない、ベッドがないなどの課題も指摘されている。トイレのドアノブを消毒したり定期的に換気したりするほか、避難者が集まらないようにするなど避難所の運営者が気配りすべき点も多い。
感染を防止するためには一人一人に十分なスペースをまず確保する。発熱やせきの症状がある人向けのスペース、できれば個室も用意し、専用のトイレも確保したい。
もし感染が疑われる人が出てきた場合にどう対応するかについても、運営者や保健師らの間で手順を定めておくべきだろう。段ボールベッドの活用も一部で始まった。集団感染による「災害関連死」を出さないためにも、避難所での生活の質を向上させなければならない。


避難者の個別空間の確保,トイレなど衛生設備の改善,食事内容の充実,避難所の管理・運営など,多様な提案が示されている。これらはいずれも重要な指摘である。そこで,おやっと思ったのが,原発事故による避難に関連することが何も書かれていないことである。

タイトルを再度読み返した。「新型コロナと自然災害 避難所の感染防止策急げ」である。確かに,ここには原発事故は含まれていない。原発事故は自然災害ではないからである。新型コロナと自然災害だけの避難所問題である。要するに,新型コロナ危機下での原発事故による避難は,ここでは考えないということらしい。

少し,言葉の定義から論を始めたい。新型コロナとはどんな災害だろうか。今回の新型コロナによるパンデミックは,人間の開発行為に起因するもので,自然災害に対する,都市災害に分類できる。原発事故も都市災害に含まれる。

パンデミックに原発事故が重なれば,2つの都市災害による複合災害ということになるが,この複合災害は,次の3つの点で,自然災害との複合災害では考えられないほどの壮絶な避難になる。これを考えないわけにはいかない。以下に,3つの壮絶な避難とはどんなものなのか,東海第二原発事故を念頭において書く。

一つは,これまでのどんな自然災害でも経験しなかった巨大な避難者規模になることである。原発の30km圏に住む住民を全員避難させることとされており,東海第二原発事故では,茨城県民の1/3に相当する,94万人の住民に避難を強いる。乳幼児も高齢者も,病人も障害をもつ人もすべてに過酷な避難生活を強いる。9年前,福島県浪江町で経験したように,もし何らかの形で行方不明者が出ても捜索をおいて,避難を強いられるだろう。

二つ目に,県民の1/3,94万人という巨大な規模の住民が避難するから,避難先で十分な個人のスペースがとれるはずもなく,ほぼ確実に,避難バスや検査所,避難所などで感染爆発が起こる。要するに,避難過程と避難所で,避難の民となった住民は,コロナときわめて劣悪な環境で生命の危機にさらされるだろう。

そして三つ目に,運よく感染を免れることができても,二度と元の住まいに帰れないかもしれないかもしれない悲惨な人生の出発になるということである。福島第一原発事故から9年たった福島の被災地では,避難指示が解除されても,帰還する住民は少なく,帰還するのは高齢者ばかりであるという現実がある。子育て世代は,元の住まいに戻ることを諦め,生活の拠点を移している。

社説の提言で実現できるようなことがどれだけあるのだろうか。それで,感染爆発は防げるだろうか。避難者に安全で健康的な環境が保証されるのだろうか。

コロナ危機の最中にあっても,住民団体が中止を申し出ているにもかかわらず,東海第二原発の再稼働対策工事は中止することなく続けられている。この事態が,300万人の茨城県民と首都圏の市民に大きな不安をもたらしている。私は,コロナ危機の下でもし起こったら,もっとも過酷な災害になる,原発事故による避難と避難所の問題についてより深い洞察が求められていると思う。

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