茨城県議員の県民投票反対の理屈
6月23日,東海第二原発再稼働の是非を問う県民投票条例に87,703人の県民が署名したが,条例案は県議会で否決された。県議会を傍聴してわかった,県民投票に反対した多数派議員の理屈の構造を説いてみようと思う。
県議会と反対派議員の態度は次のようになる。
県議会 = 県民投票反対 (反対53,賛成5,反対91.4%)
県民投票反対議員 = 再稼働賛成
県民投票に反対する議員は,再稼働の賛否を明らかにしていないが,議会の過半数を占めるいばらき自民は反対,原発メーカー日立の社員議員などで構成される県民フォーラム(国民民主党)も反対である。反対議員のほとんどは再稼働賛成の立場だろうと推察する。
他方,県民の側は,県民投票が実現されれば,
県民 = 再稼働反対 (直近の主要選挙で再稼働反対が圧倒的多数。たとえば,2018年県知事選NHK出口調査76%,2019年水戸市長選NHK出口調査73%)
県民投票が実施されれば,県民意思は再稼働反対となることは明白である。この結果が全国にむかって明らかにされれば,各地の原発立地地域で原発の再稼働に不安を抱いている住民や反対を主張している住民を勇気づけることになるはずである。
他方で,国は,エネルギー基本計画(2018年)で,2030年の原発比率20〜22%を目標にしており,この目標実現のためには原発を30基も再稼働させなければならない。このうちには,法定運転年限40年を越す老朽原発が21基含まれている。つまり,国としては,各地の原発の再稼働が阻止されてはならないのである。
地元茨城県では,当然のことながら,知事と,原電に対して事前了解権をもつ6市村長は,民意を無視した判断を下すことはしづらくなる。それだけに,県議会の自民党,国民民主党,公明党の議員らは,国と党本部,そして原子力ムラに対して県民投票を阻止しなければならなかった。
要するに,茨城県が,国と原子力ムラに対して,いわば率先して反旗を翻すようなことをしてはけない。これが県議会多数派議員の反対の根底にある理屈である。
筆者は,議会を傍聴して,このように考えたのだが,改めてわかったことがある。
反対議員らと県執行部が異口同音に述べたのが,県民が再稼働の是非を正しく判断するための情報がまだない,というものだった。現在,県では避難計画を作成中だが,実効性ある計画の策定の見込みはまったくない。また,東海第二原発の使用前検査もこれから着手予定で,要するに,安全性の検証もまだである,という二つの状況下にあって,県民に判断材料となる情報が提供できる段階にないというのが,その理屈である。
しかし,行政から「適切な情報」をもらわないと,県民は再稼働に対する「正しい判断」ができないという考えは,大変なおごりである。住民は,自身の信念に沿って,ほしい情報を自ら求め,自ら判断することができる。
行政が意図して「適切な情報」として住民に与える情報は,時に操作的な情報であるということが往々にしてある。反対議員や県執行部の発言を振り返ろう。安全性の検証も避難計画の策定もまだの段階では,情報を提供できないと説明している。これらが完了すれば,安全性検証済み=再稼働は安全である,避難計画策定済み=計画通りに避難できる,という情報を提供する予定なのだろう。行政がどんな情報を提供するかは,よく注意しておかなければならない。
今回,県民投票が実現できなくなったのは,本当に残念だった。形式が整わず無効となった署名を合わせると9万筆を超えたという。また,選挙権のない中高生の署名を集めて,議員全員に県民投票案賛成をお願いするという,勇気ある中高生も出てきた。今回の県民の取り組みは,原発再稼働問題においてどんな意味を持つのか,何をもたらしたのかを,さらに考えたいと思う。
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