東海第二原発再稼働に関する住民投票条例案 県議会委員会審議を振り返る

2020年6月18日,東海第二原発の再稼働の是非を問う住民投票条例案について,茨城県議会連合審査会で審議された。参考人5組が意見を述べ議員が質疑した。これらのやり取りでいくつか気づいたことを書く。

参考人は,学識経験者として茨城大学教授古屋氏,資源エネルギー庁覚道氏,原子力規制庁田口氏,地元自治体から東海村長山田氏,いばらき原発県民投票の会 共同代表鵜沢氏と姜氏である。


参考人:茨城大学古屋教授(比較法,憲法,行政法)「住民投票と議会の役割について」

意見というより大学の授業を受講している感じだった。氏は,最後に「茨城県は原子力先進県。本県だからこそ住民による議論が重要」という意味不明のまとめを提示したが,東海第二原発の再稼働に関する住民投票についての意見は明確にしなかった。

そこで,玉造議員(立憲民主党)が,「原発再稼働問題は,住民投票の課題として馴染むか否か」と質問,氏は,選挙で問うのは難しいので住民投票がいいと答えた。

ところで,氏が提示した「茨城県は原子力先進県」は,利用され尽くした感のある原発プロパガンダ用語である。それが住民投票の議論とは何の関係もなく出てきた。正直なところびっくりした。筆者には,氏はそれを意識しながら用いたように思われる。

筆者がこの数年追究してきた日本の原子力開発草創期における東海村の開発史(原発都市研究と言っている)では,原子力による村の開発は原子力産業会議(当時)が開発計画をつくり主導したこと,都市計画さえも無視して推進したこと,茨城県と東海村は完全な受け身体制で原産の開発を受け入れたことを明らかにしている。

その結果が,日本でも例を見ない,原子力と住民の生活環境が混在する現状である。東海村の農村と住民の生活環境が著しく侵害されてきたという歴史を振り返れば,茨城県,東海村の「原子力先進性」と喜んでいいものではないのである。


参考人:東海村山田村長「東海村における住民の意見を聴く取り組み」

住民投票について意見を求められたのに,山田氏が述べた「意見」は, 村でこんな住民意見を聴く取り組みをしているという報告だった。具体的には東海村原子力安全対策懇談会,住民とのコミュニケーション,「原発問題:を自分ごと化する取り組み,の3つである。

これを主題とするなら,これらの取り組みを意見収集法としてどう位置づけ,これで何を期待するのか考えを述べるべきだった。しかし,ただ3つを羅列するだけの空疎な「意見」だった。


条例案に反対する議員の質疑,意見

住民投票条例案に反対の議員の質疑,意見は,総じて本質的な議論に到達していなかった。以下に,議員の発言を示す(議員の発言は,筆者の筆記録をもとに文章化したもので,発言を正しく拾っているわけではない)。

星田議員(いばらき自民)は,つくば市で行われた,市総合運動公園基本計画の賛否を問う住民投票をあげ,「正確な情報提供が重要になる。大変慎重にしないといけない」。石井議員(いばらき自民)も「安全性の検証や避難計画の策定が進んでいない中,県民の意見を聞く段階ではない。情報の提供がまずは重要」。

田村議員(公明党)「再稼働については様々な意見があることから,賛成か反対かという二択で民意を吸い上げられるのか。むしろアンケートがいい」。住民意見を集める方法として,二択の住民投票という方法を疑問視した。

加藤議員(いばらき自民)「二択でできるか。住民が先に再稼働の賛否を決めるのは(議会として)無責任」

戸井田議員(いばらき自民)「瑕疵ある条例案を可決するのは難しい」。

条例案反対の議員の論点は,実施順番,時期,方法,条例案の内容などである。しかし,いずれも議論を重ねれば解決できる性質のもので,根本的に解決できない問題ではない。これらをもって住民投票を反対する理由にはならない。

なお,田村議員の,二択は難しいからアンケート調査がいい,という趣旨の意見に対して,これまで数え切れない数のアンケート調査をしてきた立場から,的を外した意見であることを指摘しておきたい。

アンケート調査は,目的を設定し質問を構成するが,政治判断のための資料を得るために実施する場合,ときに誘導的な質問を並べて望ましい結果を導こうとすることがある。そこは,専門家がそうならないようにすればいいが,そもそも再稼働是非のための判断資料としては,アンケート調査はほとんど無用の方法でしかない。アンケート調査が威力を発揮するのは,住民意識を詳細分析したい場合である。


条例案に賛成する議員の質疑,意見

江尻議員(日本共産党)「住民投票を実施するとなれば,県民は,原発の安全性,さらにそもそも再稼働は必要かどうか,放射性廃棄物はどうなるのか,を考える機会を得ることになるが,どう認識するか」。回答を求められた原子力規制庁は「規制庁は,他の要素を排除して安全性だけを評価する機関である。(だから,県民が,再稼働の必要性や放射性廃棄物問題を考える機会となったところで,本庁は関係がない,と言いたいようだ)」。

江尻議員「法定年限40年を越えて延長運転させようとするとき,住民投票すれば,ここで得た県民意見を反映することができる。これについての原子力規制庁の認識はどうか」。回答は「そのような判断はありません」。

さらに,江尻議員「投票の機会が与えられれば,エネルギー問題を考える機会になると思うが」。これに対する資源エネルギー庁の回答は「住民投票がいいかどうかはわからないが,一般論として非常に重要と考える」。意義ある回答を引き出した。


条例案賛成議員の質疑,意見の質は高かった。反対議員の意見,質疑内容と比較すれば,その差は歴然だった。しかし,審議を深めることをしないまま,この日の審議で採決が取られた。結果は賛成2人,反対7人で,住民投票案は否決された。

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