「福島のいま」と全国の原発立地地域の課題

『建築とまちづくり』誌4月号(新建築家技術者集団)の読書会で,拙稿「福島でいま起こっていること」に対する読後感想と意見をいただいた。改めて,「福島のいま」を考えることの意味と,今後の全国の原発立地地域の課題を考えた。



原発事故から9年たったが,廃炉作業,放射性廃棄物処分,被災地復興における「帰還政策」(単線型シナリオ)はいずれも深刻な問題をかかえている。避難者への公的支援も冷酷である。新型コロナのために東京五輪は延期になったが,現状を無視した被災地復興の演出が,人々に新たな被曝をもたらしている。

「福島のいま」を知ることの意味,目的は,一つに,鈴木浩先生が指摘されるように,地域コミュニティや地域生活・地域空間に深い見識をもつ建築家技術者の運動論としてどう位置付けていくかを考えることである。

もう一つは,未来のない原発に代わるエネルギーのあり方を考えることである。政府は原発を再稼働させようとしている。その数は合計30基,老朽原発が21基含まれる。これは,生活と文化の発展,環境保全を目指す建築家技術者にとって重大な問題である。

私の拙論には,鈴木先生が,現地で原発災害とその後の過程に取り組んでこられた立場から,新たな視点や課題を示してくださった。

すなわち,①原発災害の長期性・広域性・苛酷性に向き合いながら,その復興を進めていく場合に市町村に委ねていていいのか。②ADRという手続きによる東電の損害賠償が導入されたが,東電の一方的な拒否で機能しなくなっており,政府も全く方向付けをしようとしていない。また,地域社会がもたらされた損害に対する賠償が含まれていない。

③市町村間の復興への連携を探ろうと,双葉8町村による双葉地方地方町村会が2017年8月,「双葉グランドデザイン検討委員会」を立ち上げ,2019年9月には「ふたばグランドデザイン」最終報告書をまとめた。これによって,安全安心な環境整備,医療・福祉・介護,教育,生業再生,再生エネルギを活用した産業創出,地域コミュニティの再生,などの課題を共有することになった。

④今年10月の国勢調査が目前に迫っているが,この調査結果は被災自治体をさらに窮地に追い込むことが確実である。通常は国勢調査結果が地方交付税や選挙人名簿の確定根拠になるからである,などである。

いただいた読後感想とご意見に沿って考えた。

9年後の福島の現実は,事故が起きれば被曝,避難,環境など極めて困難な問題が長期にわたる。東京のYさんが書かれた言葉,「原発事故が起きたら,人の一生という時間軸では取り返しがつかない」ことを,私も改めて思った。 片方信也先生は,避難指示区域を走らせるJR東日本の無謀,汚染海洋放出の無謀な計画を指摘された。10年目にして新たな被害が拡大されることを私も訴えたい。

宮城のAさんは女川原発に寄せて意見を書いてくださった。茨城の東海第二原発では連日,徹夜で再稼動に向けた工事が進められている。第二の原発過酷事故の不安を抱える私にAさんの言葉は響いた。 住民の立場からは原発の再稼働はあり得ない選択だが,原子力ムラとムラを支持する勢力が地域に深く根を張っている。これにどう対峙するか,建築の専門家としての思索と言葉が求められている。

群馬のAさんは,災害復興支援会議事務局長として被災地各地での活動を踏まえ原発政策や巨大ダム計画の無謀さを指摘された。ダムについて言えば,7月,熊本県球磨川流域を襲った豪雨に対し,ダムは災害を最小限にすることさえできなかった。 ダム政策は考え直さないといけない。

Aさんが聞き取った証言の中で,私が関心をもった話がある。いわき市での話である。仕事と宿舎を往復する単調な生活を送る廃炉作業員によって,地元住民が被害者となる犯罪が度々起こされているという話だった。

いま,東海村では,原発の再稼働対策工事の関係で,村内各地で開発が進行しており,大規模な飯場団地も出現しつつある(写真)。見たところだが,狭小部屋の劣悪な居住施設である。土木作業員の生活環境と労働環境の質を確保しないと,同様の事件の再現が危惧される。

東海村舟石川に建設された土木作業員の飯場 

(撮影=2020年7月,コロナの影響と思われるが,3棟完成させた後,工事はストップ。住棟はさらに増えて大規模飯場団地になると見ている)


鈴木先生は,原発災害被災地の復興に,自治体連合が必要になっていることを指摘された。この考えは,原発災害の事前対策でも検討されるべきである。その事例が一つ,茨城県で実現した。自治体首長による再稼働の事前了承権である。茨城県を除いた立地地域では,事前了承権を持つのは当該立地自治体だけである。しかし,事故の影響は立地自治体内で収まらない。茨城県では,原発の再稼動に対する事前了解権を,東海村だけでなく周辺5市も獲得した。「茨城方式」と呼ばれているが,全国の立地地域でも獲得していきたい。

また,原発立地地域の自治体が求められている避難計画の策定についても検討したい。茨城県では,県民94万人の避難計画が求められている。この数値を見ただけでも,策定は不可能なことが明らかだが,さらに,5km圏内の東海村民が先で,30km圏の住民はその後と,避難順序まで決まっている。事故が起きたら,そんな秩序だった避難ができるはずがないことは誰でも想像できる。それでも,自治体は,原電の再稼働を実現させるために,「実効性ある避難計画を策定する」と言うのなら,自治体の境界を取り払った枠組みで,より柔軟な方策を検討しないとどこまで行っても策定は不可能である。

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