東海村第1回「自分ごと化会議」を傍聴して

12月19日,東海村で1回目の自分ごと化会議が開かれた。住民基本台帳から無作為抽出した村民1,000人のうち26人(19〜73歳)が会議への参加を表明し,この日,18人が出席した。

会議に先立ち,会議運営を担う政策シンクタンク構想日本が,東海第二原発に関する事前アンケートを実施し,266人の回答を得た(回収率26.6%)。自分が原発第二原発または関連企業で働いている(9.5%)。家族が東海第二原発または関連企業で働いている(11.7%),東海第二原発との関わりはない(59.0%)。原発関連は合計21.2%だった。

この質問は,原電との雇用関係の有無を,本人と家族について聞いている。質問は,原電からの収入で生計を立てているかという意図だろうか。そうであれば「原発関係の仕事を請け負っている」「原発関係者を顧客にもつ事業をしている」など,直接,間接の原発関連収入のある人も確認する必要がある。さらに,原電からの直接間接の収入はないが,原電への親近性など心理的要素を含めれば,親族における原発勤務世帯の有無も聞いておく必要があるだろう。これらを含めると,原発に何らかつながりのある住民は相当多いはずである。

参加者18人の自己紹介で原子力関係が確認できたのは,原子力研究開発機構(JAEA)勤務3人,原子力関係勤務1人,家族がJAEA勤務1人,家族が原子力関係勤務2人,原発関連の仕事を請け負う建設業1人,合計8人(44.4%)が,原発ないしは原子力関係事業とかかわりがあった。

さて,山田村長は,挨拶で,会議の趣旨について「村民と村長との対話というのはあったが,住民同士の意見の交換が重要ではないか」と述べた。会議における意見交換の重要性を強調した。また,会議の成果をどう反映させるかについても言及し,「会議の成果は,きっちり展開することを約束する」と断言した。

このあと,会議は,構想日本の伊藤 伸氏の進行で,参加者は,自己紹介と原発に関する意見をそれぞれ1回ずつ発言した。参加者からの提案を受けて,伊藤氏が次回のテーマを決め,招請する講師を決定することとして3時間半の会議は散会した。

会議を傍聴して,疑問に思ったことを3点提示する。

一つは,上で参加者の原電と原子力関係の有無を確認した。本人または家族が「原子力関係」と自己紹介した参加者が3人いたが,原電と直接の雇用関係にある人はいないだろうか。

もしその人が,原電の代弁者として住民会議に出てきているとすれば,それはまったく問題である。この会議の前提,すなわち,再稼働の賛否を問うことが目的ではない,公平で安心して意見を言える会議(山田村長)だという,会議の大前提が崩れることになるからである。この次に述べるアッシュ実験の実験場になるリスクが高まる。

二つ目に,会議は,村長が重要であると位置づけ,期待もした住民同士の意見交換の場になっていたか,という疑問である。私はなっていないと感じた。

まずは,参加者18人のテーブル配置である。会場は広いホールで,フロア半分を使って,テーブルは,直径10数メートルもある大きな円を描いて配置された(図)。遠くて語りかける相手を見つけられない。遠くて対話の相手の表情が見えない。コロナ感染防止対応が必要だとしても,私は,こんな「対話の場」を見たことがない。このテーブル配置は,参加者の対話のしやすさへの配慮をまったく欠いたものだった。ひょっとして,あえて対話を回避する仕掛けということなのだろうか。


図 東海第2 原発に恐怖心強い / 茨城 東海村民ら意見交換,赤旗12月22日


また,伊藤氏の会議進行も対話を促すものではなかった。初めての会議で,今後に期待しているのかもしれないが,会議は,端の席に座る参加者から順に発言を促し,それを2回回しただけである。

参加者から質問が出た。「規制委員会は,ちゃんと審査したのだろうか。知っている人いれば…」。その時,伊藤氏は、参加者の方を向いて知っている誰かを探そうとせず,即座に,基調講演講師の谷口氏に顔をむけ,「谷口さん,どうですか」と振ったのである。対話の糸口になるはずだったが,伊藤氏は,専門家にその答えをもらおうとしたのである。

私は,この会議の狙いは自分ごと化会議ではない。心理学のアッシュ実験だとツイートした。集団における同調圧力を観測するアッシュ実験である。 正解を知っているさくらが,間違った答えで口を揃えたら,被験者もその答えに同調してしまう人間の心理を示している。

18人の4割は,原発や原子力に関係のある住民である。この4割を一括りにすることは妥当ではないが,原発や原子力に関係のない参加者は発言にも,4割の参加者に対してそれなりに気を使うだろう。また原電の代弁者として参加しているかもしれない参加者がどう振る舞うかも重要な視点になる。原子力に関係のない人の気遣いが,原電代弁者と関係ある参加者の同調圧力にくじけるとも限らない。

第三に,山田村長は,「会議の成果は,きっちり展開することを約束する」と断言した。次回会議は伊藤氏がテーマを決め,講師を決めてくるようだ。これを全部で5回実施し,会議の成果は報告書になるという。村長が会議の成果である報告書を「展開する」とは,報告書で示された課題や提案をどうすることなのだろうか。

そもそも,自分ごと化会議は,「東海第二原発再稼働問題に関して,住民の意向把握を課題としている。住民が自分の問題として関心を高めていくための調査研究の一環」(東海村広報)とされる。今求められているのは,村民の意向把握である。どうやってそれを把握するかが求められているのに,自分ごと化会議をそのための調査研究だといい,成果を展開するという。目的と方法がずれてきていないだろうか。

先の論考にも書いたのだが,この自分ごと化会議が,住民意向把握の調査研究の一環だというのなら,自治体がやる調査研究って何なのか(本当に自治体が調査研究するのか,それは自治体の仕事か)。その調査計画を示してほしい。本来の目的である住民意向把握はどこでどのようにするのか。

NHK水戸が,東海村の自分ごと化会議を注目される会議として報道した。その意味は,東海第二原発の立地自治体,東海村で,再稼働問題に住民を動員してどう取り組むのかは,茨城県と周囲5市の関心ごとでもあるということだろう。私は村民ではないが,私もこの会議に注目している。それは,このとても重要な時期に,いったい何をしようとしているのか,その迷走ぶりに目が離せないという意味においてである。


0コメント

  • 1000 / 1000