東海村第1回「自分ごと化会議」を傍聴して その2
東海村山田村長は,12月19日に開かれた「自分ごと化会議」冒頭の挨拶で,「会議の成果はきっちり展開することを約束する」と明言した。
村長は,この会議に先立ち東京新聞の取材を受けて,提案書が作成された場合の扱いはどうするのかと聞かれたとき,「まだ決めていないが、出てきた成果物に対しては、村としても責任がある」と答えた *。しかし,村長は,それがどんな「責任」かは明確にしなかった。そして,この記事から9日後の19日,会議挨拶で,村長は,「会議の成果はきっちり展開することを約束する」と答えた。
この間に,村長は,考えを大きく前へすすめたのである。会議の報告書の扱いについて「責任がある」から「きっちり展開することを約束する」へとなり,それを明快かつ自信ありげに語った。村長は,この会議の行く末にどんな見通しをもったのだろうか。
そもそも「会議の成果を展開する」とは,何を意味するのだろう。会議の成果は報告書だという。会議から村長に報告書が提出される。村長は,その報告書を「展開する」というのである。
これはどういう意味だろうか。はっきりしないが,この会議が「調査研究の一環」だということと関係があるように思われる。村民が作成した報告書の足らない部分は,村がさらに調査研究して「展開する」ということだろうか。しかし,そうだとしても村は,調査研究の素人だし本務ではない。実際は,構想日本あるいは,どこかの大学研究室に委託しているのかもしれない。とにかく,報告書は,村長の机の引き出しにしまわれたままになるのではなく,村の責任で「展開」される。
19日の会議の参加者は18人。そのうち原子力関係は少なくとも8人(44.4%)だった。本人がJAEAや原子力関係勤務だという参加者は4人(22.2%)である。この2割は,おそらく原発や原子力関係の知識を豊富に持ち,原発再稼働問題に対する明快な考えを持っている人たちである。
他方,原発や原子力に関係がない参加者は,原子力関係に勤務している参加者に比べると,関連知識は少ないだろう。原発に関する発言は,「怖い」「恐怖」「あるのが普通だった。特に考えたことがなかった」「テーマが大きく,国民にできることはない。悲観的」など,素朴で,感性に頼るものが多かった。「怖い」「恐怖」という,漠然としているが強い訴えの思いを,科学の言葉を加えて説明し,多くの人に理解してもらえるよう普遍化しなければならない。原発問題の知識の不十分な参加者には,これは大きなハードルになるだろう。
要するに,参加者の間には,原発に関する知識量,再稼働問題への理解度について明確な格差がある。松江での自分ごと化会議では,参加者の知識量格差の問題にどう対応したのだろう。
松江市と東海村を比較したとき,明らかに違うのは,地域における原発と原子力のウエイトである。松江は中国電力の原発だけだが,東海村は,原電の原発のほか,原発を取り囲む関連企業,原子力の研究開発機関JAEAなど,民間と国の原子力事業所が13コもあり,数千人の人が従事している。地元の人も多数従事している。この違いはとても大きい。
私は,東海村におけるこの特徴に関し,ある論文で「東海村の原子力ムラ」と命名した。原子力開発黎明期,原子力産業会議が,村に進出する原電をはじめとする原子力企業群のための共用施設を整備運営したという状況から名付けたものである(いまも,村に,原子力のムラ社会があるのかどうかはわからないが)。
話を元にもどす。東海村の会議の参加者の少なくとも4割が,この原子力関連事業所にかかわりをもっている。そのうちの半分は,原発と原子力企業に勤務している。残る6割は,原発再稼働問題に関心はあるが,知識量と理解度が少ない参加者である。
今後,4回の会議で,どこまで参加者の知識格差を埋めることができるだろうか。学校の授業のように知識の構造的積み上げや,テストやレポートのような振り返りやトレーニングがあるわけでもない。報告書の執筆にもっていくまで,会議をどうもっていくか,そして,一つ一つの会議で,村長が期待する,公平で安心できる意見交換の場をどう実現させていくか,これは,東海村における会議運営上のきわめて重要な課題である。
さて,村長の発言,「会議の成果の展開を約束する」。会議の報告書がどんな出来栄えであれ,村がこの後,しっかり展開するから,大いにやってくれ。会議の成果のその先の最終成果は村がつくる。こういうことではないか。
ここで,この会議の位置づけを改めて確認したい。会議は,「『住民の意向把握』に向けた調査・研究の一環」である **。山田村長のシナリオは,村がつくった会議の最終成果で住民意向を把握したとし,これを根拠にして東海第二原発の再稼働判断をするということではないだろうか。
* <原発つかむ民意 東海村版「自分ごと化会議」を前に>(下)村長の狙い 行政主導に警戒感も,東京新聞,2020年12月10日
** 東海村「自分ごと化会議」(名称未定)の開催について,東海村,2020年12月3日
0コメント