「自分ごと化会議」の住民の意見を考える
「子どもたちの将来を考えると危険なエネルギーは使わないようにしたい」
12月19日,東海村で開催された第一回自分ごと化会議で,子育て中の参加女性はキリッとこう発言した。山田村長をはじめ村の役人,約80人の傍聴人,マスコミ各社が参加者を取り囲んで注視する中での発言である。東京新聞の「あのひとこと2020」に取り上げられた *。
「危険なエネルギー」とは,東海第二原発の再稼働で作られる電気をいうのだろう。この原発の再稼働は危険で,事故のリスクが高い。もし事故が起こって健康リスクの高い子どもたちが被ばくすると,将来にわたって健康に影響が出るかもしれない。子どもたちの将来を考えると,そのような危険な原発でつくる電気は使いたくない,こういう意味だろう。再稼働反対を婉曲的に述べたものと思われる。
村長は,2019年秋,東海第二原発の再稼働に反対する住民の考えを著しく歪めて解説してみせたことがある。再稼働反対の意見を述べたと思われるこの発言を,村長はどう受け取るだろう。この発言をめぐって考えた。
村長の解説とは次のようなものである **。
新規制基準が出来て,ものすごい安全対策が二重,三重に出来ているのですから,論理的に考えれば,時間的なものも含めて,同じような事故はまず起こらないと思うはずです。
しかし,「ゼロではない」という言葉から,「何かあった時には福島の二の舞になる」という心理が強まり,論理的思考を超えてしまうのです。そこの切り替えが出来ない住民がまだまだ多いのですが,あえて厳しいことを言えば,それはキチンと向き合おうとしないから,自分で知ろうともしないからだと思います。
村長の理屈はこうである。
東海第二原発は,新規制基準をもとにした審査で認可されたから,十分に安全になった。再稼働問題は,この前提に立って考えるべきである。これが論理的思考というものだ。ところが,再稼働に反対している住民は,「絶対に安全とは言えない」と言われると,福島の原発事故の惨状に囚われて,原発は安全という前提に立った「論理的思考」ができなくなる。「論理的思考」ができない住民は,自分から学ぼうともしない。
要するに,村長の論は,原発は安全だという信念(=安全神話)を前提にした再稼働推進論である。使い古された理屈で,3.11を経験してもなお,東海村の村長がこんな理屈を信奉しつづけているのか,とつくづく呆れる。しかし,村長は,これが「論理的思考」だと言う。この理屈に立てば,再稼働反対論者は,原発は安全だという信念をもたないから,感情でしか判断できない人間なのである。
東海第二原発の是非判断をするという重責にある東海村の村長としては,あまりにも恥ずかしい。「子どもの将来を考えると危険なエネルギーは使わないようにしたい」という発言は,誠に感情論ですかと,突っ込んでみたいところだが,そこは置いておこう。
私は,冒頭の発言を読んで,思い出すことがあった。2006年ごろ,村の役人,村民,茨城大学の学生たちと一緒に,東海村須和間区で住宅調査をしていた時,村の役人Tさんが,東海村は若い子育て世帯に人気だが,子育てが終わると村を出ていく,と悔しそうに語ったことがある。住まいと居住に強い関心を持つ私にとっては,それ以来,この言葉が頭から離れなくなった。東海村とはどういうところか,東海村に住まうとはどういうことなのか。東海村調査のベースになった。
いまや,東海村の住民の圧倒的多数は,よそからやってきた人々である。Tさんの発言から,私は,東海村を選んでやってくる子育て中の若い家族は,財政力豊かな村の教育や福祉サービスを享受する。しかし,子育てが終わったら,東海村に住み続けることに執着はない,ということだろうか,と考えた。
一方,原研の研究者は東海村に持ち家を建てない人が多いと言われている。建てるのは隣接する那珂市やひたちなか市である。以前,原電の給与住宅団地,滝坂住宅で調査をした時も,家を建てるのはひたちなか市などという回答だった。
もう少し足を伸ばせば水戸市もある。水戸市に住む私の両隣3軒は,原研や原電など原子力関係の人である。JCO臨界事故の直後,JR水戸駅前のJR売却地にできたばかりの超高層マンションには,東海村から逃げてきた世帯が購入,入居したという話をマンション設計者から聞いたこともある。
この手の話は探せば,いくらでも掘り出せる。東海村よりは逃げ易いという考えかもしれない。そういえば,私が勤務していた茨城大学の教員仲間も,持ち家を建てる時,原発事故の際,逃げやすいようにと常磐線の特急が停まる東京寄りの駅近辺にしたと語った。
持ち家を建てる余裕のある層は,東海村から離れたところに生活の拠点をおき,持ち家建設の余裕のない若い層は,まずは財政力のある東海村の行政サービスを選択,享受する。しかし,彼らも余裕が出てくると,持ち家建設は村の外を選択するということになるのだろうか。
話を自分ごと化会議の発言に戻そう。東海第二原発の再稼働は間違いなく,事故を起こすリスクが高い。冒頭発言の女性は,子どもを育てながら東海村に住むことのリスクについて真剣に考えている。彼女は,村に,そして,隣接の町や村に住む私たちに,原発の再稼働が,私たちの生活,家族,子育てに何をもたらすかを問いかけている。それは,東海村の持続可能なあり方は何か,という問いかけでもある。
村長はなんと答えるべきか。隣接地域に住む私たちも,女性の問いかけに真摯に向き合わなければならない。
* あのひとこと2020茨城,東京新聞,2020年12月31日
** 品田宏夫・山田 修 対談:BWRの再稼働 困難あり,便法あり,希望あり,ENERGY for the FUTURE No.4,2019年10月
0コメント