東海村自分ごと化会議に期待した山田村長の狙い

東海村の自分ごと化会議の参加者は,住民の応募で決められるが,応募できる住民は,住民基本台帳より無作為に抽出した1,000人に絞りこむという方法が取られた。住民3.7万人に応募を呼びかける方法なら,労力はいらないしコストもかからない。ところが,あえて労力,時間,コストのかかる方法がとられたのである。これで絞りこまれた1,000人のうち,応募したのは26人で,12月19日の第1回会議に18人が参加した。

本論は,山田村長が自分ごと化会議に寄せた狙いを解析するとともに,この方法にはどんな意味があるのかを考える。


昨年9月19日,山田村長は,自分ごと化会議のプレイベントとして開催された講演会の挨拶で,会議の参加者の募り方について「無作為抽出法は『声の大きい人』が集まることを避けられる」と述べて,この方法の長所を強調した。

しかし,村長のこの発言には問題がある。2つ指摘する。

一つは,この住民会議は,「声の大きい人」という,村民のうちの特定の住民が集まらないようにする会議だということである。「声の大きい住民」とは誰か。東海第二原発の再稼働を推進する立場にある村長からすれば,おそらく再稼働反対を主張する住民である。

3.7万人の村民全員に会議への参加を求めれば,反対の村民が多数応募してくるので,参加者構成が偏ってしまう。この会議は意見が偏らないようにするのだと言えば,なるほどと納得してしまいそうである。

しかし,これは村長の主観的な思い込みである。無作為で参加者を募っても,反対の村民が多数の住民会議になる。以下に,それを語るデータを示そう。

渋谷淳司さん(茨城大学教授)が実施した東海第二原発に関するアンケート調査(2018年12月〜2019年1月実施)がある *。東海第二原発の再稼働に関する質問で,「再稼働は凍結し地域で白紙から議論すべき」(7.3%),「運転を停止したまま廃炉に向けて準備」(37.1%)となっている。さらに,「老朽原子炉に代わる新型炉を建設する」(6.9%)は,東海第二原発の再稼働反対の趣旨とすれば,合計51.3%が再稼働反対である。他方,再稼働賛成は,「なるべく早く再開」(14.2%),「耐震防潮対策を徹底するまで運転再開すべきでない」(32.3%)で,合計46.5%である。再稼働反対と賛成の差は小さいものの,反対が過半数を占める。

最近の県知事選,水戸市長選のいずれもNHKの出口調査では,再稼働反対が圧倒的多数だった。東海村だけの出口調査はないようだが,よく似た傾向になっただろう。

反対論者が多数にならないようにという意図でつくられる自分ごと化会議は,「住民の意向把握に向けた」住民会議としては,住民の意向を正しく反映できない可能性があり,むしろ問題だというべきである。

二つ目は,参加者決定の方法である。村長は,「無作為抽出法」は,「声の大きい人」が集まるのを避けられると述べた。

果たして無作為抽出でそんなことが可能なのか。そもそも無作為抽出法とは,母集団の代表性を反映する小集団を作るために,無作為に調査対象を抽出する方法である。再稼働反対意見が多数の母集団から住民を正しく無作為抽出したら,その代表集団も反対多数になる。反対の住民を多数にしない住民会議をつくりたいというなら,これはもう作為してつくるしかない。村長の発言は,無作為で抽出するというのか,あるいは反対が多数にならないように参加者構成を操作するのか,どちらで行くというのか,疑問が湧く発言である。

私は,村長は,「無作為抽出」の趣旨,目的を理解していなかったため,自分の願望をつい口にしてしまったのだろう,と善意の解釈をしたいと思っているが。

いずれにせよ,こうしてみれば,一つ目の問題は村長の主観的思い込み,二つ目の問題は村長の願望に発していることがわかる。東海村の自分ごと化会議とは,村長の主観的思い込みと願望で始められた会議である。

今回,日本原子力研究開発機構(JAEA)の職員が,会議が決めた手続きによらず参加を認められたということが,会議の席上,本人の発言によって明らかになった。この事件は東京新聞が最初に報道した (1月14日)**。件の職員の参加が認められた理由は,「男性が会議に強い関心を示したことから」「家庭内であれば、代理出席はいいのではないか」という考えからだったという。これは,まさに村長が排除したかった「声の大きい人」ではないか。ルールに依らない,このような恣意的な決定がなされれば,本当に参加者は公正に決められたのだろうかと疑いの目で見られても仕方ない。

再度,この会議の参加者決定法を確認しておきたい。自分ごと化会議を委託運営する政策シンクタンク構想日本が,「住民基本台帳で無作為に選んだ住民(国民)に案内を送り、それに応募した人が参加する方法」と明快に定めている *** 。

ところが,東京新聞は,無作為抽出された人が(ストレートに)参加者に「選ばれる」,と間違った書き方をしている。記事のタイトルは,それを端的に表現している。

 「無作為抽出なのに…選ばれていない原子力機構職員、代理出席 原発問題話す東海村の村民会議で」(下線筆者)

記事の説明で行けば,抽出された1,000人が全員,会議の参加者になる。そうではなくて,無作為抽出で会議への案内を受け取った住民が応募して参加者になるのである。案内を受け取っても応募しなければ参加者にならない。そしてほとんどの住民は応募しなかった。記事は,住基台帳から抽出された人を(参加者に)「選ばれた」人,抽出された人に送る案内を「参加通知」,さらには「無作為抽出された住民が地域の問題を話し合う」と,タイトル,本文のいたるところで間違って書いている 。なんとかならないか。私としては訂正記事を出すべきと思うが。

話をさらにすすめよう。それにしても,時間,労力,お金がすごくかかるこの方式に,実際のところどんな価値があるのだろうか。第一回会議に出席した18人の自己紹介を筆者がメモしたものから,アバウトだが,参加者のプロフィールを並べてみた。


1. 男性,会社勤務,結婚で東京から東海村に転居した

2. 男性,建設業,原発関係の仕事も請け負っている

3. 男性,村松居住,JAEA勤務

4. 男性,会社員

5. 男性,40代,会社員,生まれも育ちも東海村,産業が欲しい

6. 女性,村松居住,3歳の子どもがいる

7. 男性,村松居住,自分の意見を述べ,人の意見も聞きにきた

8. 男性,須和間居住,JAEA勤務,技術者,貢献しようと思い参加

9. 男性,村松居住,15年前に来住,原発関係ではない

10.男性,JAEA勤務,当たって喜び熟議をしたい

11. 女性,20歳,東京の大学生

12. 女性,白方居住

13. 女性,船石川居住,夫が原子力にかかわっている

14. 男性,船石川居住,昭和40年,東京から来住

15. 女性,歯科技工士,夫はJAEA勤務

16. 女性,村松居住

17. 男性,50代,原子力関係,他の人の意見を聞くことがないので参加

18. 女性,村松緑ヶ丘居住,夫は原発関係


わかった範囲で見ると,性別では男性11,女性7。居住区では村松6,舟石川2,白方1,須和間1。原子力関係ではJAEA4,原発関係1,原子力関係2,原発関係請負1である。これより,原子力関係8(44.4%),JAEAと原電サイトに隣接する村松と白方の居住者7(38.9%)だった。

参加者の自己紹介一覧を眺めて気づくのは,抽出で応募案内をもらうのでなければ応募しないだろう人,たとえば,大学生や子育て中の女性が参加していることである。2人は,参加の動機を次のように語っている。大学生は,原発の知識はないが勉強になるかと思い参加した。子育て中の女性は,子どもの将来を考えると危険でない再生可能エネルギーの発展が必要,村に家を建てたから,である。生まれも育ちも東海村という参加者,たとえば11や18の女性は,原発があるのが普通で,特に考えたことはなかった,話したこともないなどと語った。

応募権者を無作為抽出する方法は,東海第二原発の再稼働問題は村民の共通課題について,これまで考えたこともない住民や,このような方法を取らなければ議論に参加することがないだろう人が参加したという点で確かに意味のある方法である。構想会議は,「従来の公募や行政が指名する方法では参加しなかった、政治・行政と縁の少なかった人、参加を躊躇していた人などの幅広い参加が期待できます」と書いている。東海村で「幅広い参加」があったかはまだよくわからないが,大体そういうことだと思う。

本論はさらに,東海村における住民の代表性をどのように考えるのか,参加者がどの程度に村民の代表性を背負っているのかについて考えたかった。しかし,残念だが,わずかな資料では深めることができなかった。今後,会議が開催されたら,さらに色々なことがわかってくるだろう。



* 「地域社会と原子力に関するアンケート2018」調査結果概要,「茨城大学人文社会科学部市民共創教育研究センター,2019年

** 無作為抽出なのに...選ばれていない原子力機構職員,代理出席 原発問題話す東海村の村民会議で,東京新聞,2021年1月14日

*** 自分ごと化会議,構想日本(2021年1月21日閲覧)


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