原発避難計画の何が問題か 計画論から考える その2

茨城県の原発避難計画の問題について,先の論考で次の2点を導いた。①上位(茨城県)避難計画がまともな計画目的を持たないと,下位の避難計画もまともな目的のない計画になる,②いつできるかわからない避難計画は,もっとも実効性確保の困難な計画である。これにつづき,3つ目の問題を考える。

問題3:仮想集団的行動,仮想段階避難

茨城県避難計画は,事故発生の後,住民はいつ,どのように避難するかについて説明している。図1は,放射能放出前の段階で住民はどんな行動をするかを描く模式図である。

図1 緊急事態区分に応じた防護措置のフロー(「原子力災害に備えた茨城県広域避難計画」,2015年3月)


事故の進展を3段階に,住民をPAZ,UPZの2区域(5km圏,30km圏,それぞれに6万人,88万人が住む)に分け,住民94万人はさらに要避難者,要配慮者,住民等に3分類し,時系列予測に基づいて駒のように動かす,あるいは動かさない。

図1の通りに,住民に行動してもらうためには,まずは,原発事業者が,事故の発生と,過小評価せず事故様態を的確に報告すること,国から県,市町村へ的確迅速に情報が伝達され,行動の指示がなされること,市町村が94万人の住民に的確に情報と指示を伝達できることが前提である。

しかし,住民避難をさせられたJCO臨界事故,福島第一原発事故を振り返れば,この計画が要求していることとは,まったく反対のことが起きていた。すなわち,地元自治体への情報提供はこず,JCO臨界事故では国,県の災害対策本部の立ち上げは地元より遅かった。結局,地元自治体の独自判断が求められた。地元自治体の首長らは辛い決断を幾度したことだろう。これらのことを思い起こせば,計画は前提からして困難だとしか言いようがない。

計画は,住民の個別の判断と行動を拒否する。住民が自主的,自発的な避難をしてはいけない *,住民は,避難についての判断を自治体に委ねなければならない,県は,そのための住民避難のフレームを市町村に与え,住民避難をフレーム内で実施するように指示するのである。この計画は,住民の側から言えば,住民は自治体を信頼して行動することを求められる計画である。

住民は,家族と自分を被ばくから守るために避難する。一方で,市町村は,市民に自主判断と行動を拒否し,計画避難を求める。この避難計画は,本質的に実現困難性をかかえている。では,どのようにして計画の目的を実現させようとするのだろう。

今年2月,水戸市役所へ避難計画について情報開示請求をしに行って確認できたことだが,避難先の避難所には小学校区単位でまとまって入るという。避難所はそれでまとめるとしても,住民が抜け駆けせずに,計画的な避難行動をするには,小学校区よりより小さな住民の単位と,避難計画を遵守しようとする地域リーダーがいれば,計画の実効性が高まるかもしれないが,避難計画は,住民の集団的避難行動は期待していない。

住宅地の集団的まとまりには,学校,居住施設のほか,町内会がある。学校と福祉施設はともかくも避難計画を作ることが求められているが,町内会はそのようなことは求められていない。そもそも住民の加入率は低下している。町内会が,避難行動の単位として機能するには,避難計画をつくり,防災訓練を実施し,防災体制を整備していることが求められるが,そのようなことをしている町内会はごくまれだろう。市町村は,住民が行政の指示にもとづいて行動することに期待するしかない。

では,住民に期待するだけで計画は実現できるだろうか。図1をもとに,この計画がいかに意味のない計画であるかについてさらに追究していこう。

図は,5km圏と30km圏を点線で,事故の進展は3段階は色で分け,さらに住民を「要避難者」「要配慮者」「住民等」に3分類している。それぞれ要素の間に線を引けば,全部で12のマスができる。

12マスのうち,行動が書き込まれているのは8マスである。8つの住民行動は,そのマスの位置でなされなければならない。住民が勝手に行動を早めたり,あるいは行動が遅れたりしたら困る。

では,何も書かれていない残りの4マスは,どういう意味のマスか。たとえば,UPZの警戒事態である。30km圏の住民は,次の図2で見るように,放射能が放出されてから初めて避難せよと指示される圏域に住む人々である。ここには88万人が住む。88万人は事故が起こっても何もしないということを示している。

88万人の住民がどっと避難行動に走らないように,国が,30km圏の自治体に原発事故の情報を意図して遅らせるということが起こるかもしれない。情報が遅らせられても,ニュースやSNSで伝播し,30km圏に住む住民,とくに子どもや要配慮者を家族にもつ住民は,自治体からの指示を待てという指示を受け入れるだろうか。不安をかかえたまま,屋内退避ができるだろうか。

このように考えれば,それぞれのマスの中にあたかも住民の集団があるかの如く,避難すること,しないことを指図する図1は,ただの空想の図でしかない。

図2は,放射能が放出した後の住民の避難行動を示す図である。上図と下図は,空気線量の違いだけで,避難の流れは同じである。

図2 放射性物質放出後の避難のフロー(「原子力災害に備えた茨城県広域避難計画」,2015年3月)

 

県避難計画は,図1(放射能放出前)から図2(放射能放出後)へと段階的に避難を実行していくということを想定している。

しかし,JCO臨界事故の時は,事故発生と同時に放射能がばら撒かれた。福島第一原発事故では,全電源喪失から水素爆発までわずか1日だった。このような事故では,いきなり図2で実施することになる。東海第二原発がほぼ即時に放射能を放出する重大事故を想定すれば,30km圏の住民が避難を始めると,5km圏の東海村民や那珂市,日立市市民はいわば閉じ込められるような事態になって,最後まで避難できないということが起こりうる。避難の大混乱によって巨大な数の住民が被ばくさせられる。

こうなれば,市町村の避難計画が目的にしている「住民への放射線の影響を最小限に抑えるために」など,絵に描いた餅である。段階的避難とは,原発事故はこうすすむはずだ,事故はこうあってほしいという計画者の夢想でしかない。

図2が示す避難計画の問題はもっと深刻である。なぜなら,88万人が,場合によっては94万人が一斉に避難する事態が起こる。計画は不能である。水戸地裁判決が再稼働禁止の理由として説明し,これまでに多くの論者が問題を指摘している。指摘はそちらに譲りたい。要するに,図1と図2が示す計画は,仮想の段階避難であり,仮想の集団行動であり,実現できない避難計画だということである。


* 「品田村長(刈羽村)と山田村長(東海村)の対談記事(『ENERGY for the FUTURE』)を読む1」 須和間の夕日,2019年11月22日。東海村山田村長は,「段階的避難とは,PAZの東海村民3.8万人は即時避難,UPZの水戸市27万人はまずは屋内退避という方法だ。段階的避難を理解し行動すれば,安全だ」と発言した。

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