2021年東海村長選を闘って その2 ジェンダー平等

「わたしのおやくそく」で,ジェンダー平等を政策の第一にあげた。山田氏の公約にジェンダー平等の視点がまったくなかったからであり,山田村政8年間(2013〜2021年)は女性の村政参加の排除が顕著だったからである。

山田村政にジェンダーの視点がないことは,その前の村上村政(1997〜2013年)と見比べるとよくわかるし,じっくり見ていると,これは原発再稼働推進への布石だということが見えてくる。原子力防災政策はもっとも重要な政策だが,山田村政では優先順位が低いということも見えてくる。


村上元村長が設置した原子力安全対策懇談会

その顕著な第一の例が,原子力安全対策懇談会である。この会議は,1999年のJCO臨界事故の翌年,村上達也元村長が設置した。氏は以下のように説明している *。

この原子力安全対策懇談会は,原子力業界の内輪では気がつかない問題点を指摘したり,原子力関連の事業所がきちんとやっているかをチェックするような意見を出していく組織です。なにも原子力の大御所の専門家でなくても,他の分野の知識や経験を持っていれば,原子力の事業所に行って,気がつくところがあるはずだと。
ごくごく一般の住民,たとえば家庭の主婦も入っています。あとは地域ごとの代表者もいる。
たとえば,1997年の火災爆発事故以来,止まっていた動燃のアスファルト固化施設について,それを再稼働させるかどうか,あるいは問題点は何かということを,懇談会に諮問し,それで,実際に懇談会で指摘された部門への対策をとってもらった。

今回も(3.11),東海第二原発の安全対策は十分なのかということ,それから3.11後の安全対策,ーーそれについて意見を集めていました。


山田村長のもとで女性委員を排除した原子力安全対策懇談会

ところが,山田村長は,原子力安全対策懇談会の設置趣旨を大きく変質させた。現在の懇談会の委員名簿を見れば,そのことがよくわかる(下の表)


山田村政のもとでの原子力安全対策懇談会は,次の3点で特徴づけられる。

第一の特徴が,原子力関係と日立製作所(原発メーカー)関係者が委員の多数を占めているということである。委員構成は,学識経験者3人,実務経験者4人,住民代表6人,合計13人だが,原子力および日立製作所の関係者は,学識経験者に1人,実務経験者に4人,住民代表に3人,合計8人にのぼる(61.5%)。もともと原子力以外の住民が懇談する会であったものが,原子力関係と日立製作所の関係者が多数を占める懇談会に変質した。

第二の特徴が,地元選出の女性委員がいないということである。学識経験者に女性が1人いるのみである(女性比率7.7%)。村上村長時代に委員に加わっていた家庭の主婦が懇談会から排除された理由は,委員名簿の「住民代表」を見ると明らかである。

つまり,ここにいる「住民代表」は,元 日立製作所や大学教員,地域で何らかの役職を持つ人たち,さらには原子力関係者によって占められている。山田村政のもとでは,「住民代表」枠でも,実務経験者などと同様に,専門性や役職などを持つ住民が選出されるのである。これによって,地元女性や家庭の主婦は排除されていった **。

第三の特徴が,住民代表に地域ごとの代表選出枠がなくなったということである。

村上元村長が,懇談会に地域ごとの代表を委員に加えたことには意味がある。JR東海駅周辺の市街地は若い世代が多く,村の原子力施設からは一番離れている。他方,田園地域は市街地に比べると高齢者比率が高くなる。そして原発に近くなる。

ただし,同じ田園地域でも,畑地帯と田んぼ地帯では事情は大きく異なる。畑地帯は市街化が進んでいるため地元住民と新住民の混在地域となっている。これに対して,田んぼ地帯は,農家の比率が圧倒的で,また人口の流出も大きく,これにともなって高齢者比率がもっとも高い地域である。ここは,原発や再処理施設に隣接していて,農家の兼業先は原子力関係が多いという状況もある。

狭い村だが,地域によって原子力施設との遠近関係,住民構成,人口移動などで違いがある。地域によって課題が違い要求が異なるから,地域ごとの代表を出すことに大きな意味がある。村上元村長はそのことをよく知っていたのである。

しかし,山田村長は,地域代表枠の目的を理解せず,「学識経験者」や「実務経験者」と同じ選出基準で,役職や元職を持つ人を「住民代表」にしている。その結果,「住民代表」の枠に「元 日立製作所」と「元 原子力科学研究所」の2人が加わった。この2人は,実務経験者に加えてしかるべき人だから,実務経験者は6人に読み替えられ,地住民代表は4人になる。そして,住民の懇談会であることを示すためか,「住民代表」枠の「元 日立製作所」が会議の会長に選出されている。

以上から,山田村政の原子力安全対策懇談会は,つぎのようにまとめられる。

①原子力と日立製作所の関係者(現職および元職)に比重の大きい委員構成

②委員は,専門性や役職(元職も含む)をもつことが重視される

③その結果,地元女性と地域ごとの住民代表が排除された

こうして,懇談会における原子力事業所のチェック機能はなくなった。女性と地域ごとの住民を排除し,代わって原子力と日立製作所の関係者を加えるということは,意図されたことだったのだろう。


女性委員がいない地方防災会議

顕著な例の2つ目は地方防災会議である。地方防災会議は,防災計画を策定するために設置される会議で,全国的に男性が委員を占めてきた。国は,2020年の女性委員の割合を30%にすることを目標にしていたのだが,山田村長はこれを無視しつづけ,いまだ女性委員はゼロである。

地方防災会議で女性委員の比率を大きくすることが重要なのは,着替えや授乳の場所がないなどの配慮のない避難所に女性の視点を反映させることが必要だからという目的もあろう。しかし,これは表層的な目的である。より本質的なことは,女性たちが人権と尊厳を損なうことなく被災後の生活を送ることができ,復興の主体となりうる社会をつくるための計画づくりへ参画するということである。

山田村長には,災害における女性の視点,東海村ではもっとも重大である原子力災害から女性と子どもを守る,災害と復興において女性を支援する,災害復興における女性の主体をつくる,という視点がまったくない。私は会議への女性委員の参加を訴えた。村長は今年,防災会議に女性委員を大幅に加えることができるだろうか。


女性や母親の意見を無視した村立幼稚園の「再編計画」

顕著な例の3つ目は,村立幼稚園4園を村松幼稚園1園に統廃合するという「再編計画」である。村松幼稚園は,東海第二原発からわずか2.6km,よりによって原発にもっとも近い幼稚園である。原子力防災の視点からすれば,次に述べるように,この計画はきわめて危険な計画なのである。山田村長は,この計画を村民,特に子どもをもつ母親や女性たちの声を聞かないまま,一方的に決定した。

村では園児の送り迎えは保護者の責任になっているが,村松幼稚園の施設敷地に接道する道路は狭い。原発事故が起きて,300人を超える園児の保護者たちが一斉に車で園児を迎えにくれば,道路はたちまち渋滞し,迅速な避難は困難になることははっきりしている。そのような立地条件にある施設なのである。

山田村長は,村民3.8万人の実効性ある原発避難計画をつくっているとしながら,その一方で,災害発生時に迅速な避難が不可能な立地条件にある幼稚園に統廃合し,そこに放射能にもっとも感受性の強い幼児たちを集めるという,まったく合理性のない「再編計画」を決定したのである。


東海第二原発のある東海村では,原子力防災は最重要課題である。しかし,山田村長は,これにかかわる政策過程から女性を排除し,女性と母親にとって重大な計画過程に女性,母親を参画させなかった。

残念なことだが,山田村政8年間で,村民の原子力防災意識は大きく緩んでしまった。村民は,そしてとくに村の女性は,その自覚を持って,地域の安全を確保するためにジェンダー平等の政治参加をすすめてほしい。そして,原子力防災意識を改めて高めてもらいたいと切に願う。



*  村上達也,神保哲生『東海村・村長の「脱原発」論』,p.95,集英社新書,2013年

** 地元女性の委員がいないのは女性の応募がなかったからだ,という反論があるかもしれない。そうであるなら,懇談会の設立趣旨を維持するために,村が指名して女性委員を加えるべきである。あるいは,女性はあまり意見を言わないからとか,女性は特に意見を持っていないから,女性を委員から外したという言い訳がされるのかもしれない。しかし,それは,女性の声を政治の場から遠ざけようとする意図的な行為である。いずれの場合も女性を懇談会から外す理由にならない。




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