東海第二原発再稼働問題に関する住民意識調査を読む(2つの調査から)
「自分ごと化会議」の反省
去年の東海村民参加の「自分ごと化会議」は,東海第二原発再稼働問題は議論せずに原発問題を議論するという,分かりにくい枠組みですすめられた。参加者が議論で衝突することを恐れたためだが,参加者の率直な意見意明は制約され,再稼働問題や避難計画問題の議論さえ始まらなかった。
東海第二原発の再稼働がそこまで迫っている。ところが,村は,避難計画策定の見込みがまったくつかないという特別に困難な問題をかかえている。この行き詰まり状態をブレークスルーさせようと,原子力ムラや村商工会は,再稼働促進への取り組みを今まで以上に活発化させている。
このような困難な時だからこそ,村は恐れることなく,参加者が政治的な意見も自由に表明できる会議にして,議論を盛り上げる工夫をすべきだった。
1つ目の原発再稼働住民意識調査(2018年調査)
東海第二原発の再稼働には,6市村長の事前了解が求められる。山田村長はこれにつき,再稼働を了解するか否かを判断する根拠は住民意向だと明言している。では,村民は再稼働問題をどう考えているのだろうか,既往調査を2つ取り上げて考えていきたい。
一つ目は,2018年に実施された渋谷敦司氏のアンケート調査(茨城大学)である(2018年調査)。東海第二原発を今後どうすればいいかについて6つの選択肢を設けている(図1)*。東海村では,「運転を停止したまま,廃炉に向けて準備」(37.1%)ともっとも多い。つづくのが「耐震防潮対策を徹底するまで運転再開すべきではない」(32.3%)。
図1 4市村の住民の東海第二原発に対する考え(2018年調査)
この調査から,村民は再稼働賛成と反対のどちらを選ぶか推定してみる。まず,6つの選択肢を以下のように3分類した。
再稼働賛成=「なるべく早く再開した方がよい」「耐震防潮対策を徹底するまで運転再開すべきではない」
再稼働反対=「再稼働は凍結し地域で白紙から議論すべき」「老朽原子炉に代わり新型炉を建設する」「運転を停止したまま廃炉に向けて準備」
その他
なお,「老朽原子炉に代わり新型炉を建設する」は,再稼働反対に分類したが,この意見の中でも多様な考え方が考えられ,再稼働反対ばかりではない可能性がある。
とりあえず,上の分類をもとに集計したのが表1である。これでいくと,再稼働賛成は,東海村では5割近くになり,日立市,那珂市,ひたちなか市の3市では3割強になる。再稼働賛成と反対意見との関係では,東海村の住民は再稼働賛成と反対は五分五分だが,3市の住民は明らかに再稼働に反対している。
表1 3市村の住民の再稼働賛否の推定(2018年調査)
東海村と周辺3市の違いは,東海村には原子力と利害関係をもつ住民が多数にのぼり,国と原子力事業者からの収入が財政を潤沢にしているということが大きく影響している。
2つ目の再稼働住民意識調査(2019年調査)
二つ目の調査は,2019年に日本共産党東海村委員会が実施したアンケート調査(2019年調査)である(回答数516)**。東海村に力を入れてほしいことでは,「原子力事故対策」がトップだった(31.4%,n=516,複数回答)(図2)。原発事故対策は,高齢者支援や自然災害対策よりも重要視されている。
図2 東海村で力を入れてほしいこと(2019年調査)
今後のエネルギーについてどう考えるかという質問では,「原発を廃炉にし,再生可能エネルギーに変えていく」(60.6%),「原発と再生可能エネルギーとを併用する」(28.7%),「原発を再稼働させる」(6.9%),「その他」(3.9%)だった(n=464)(図3)。
図3 今後のエネルギーについてどう考えるか(2019年調査)
3つの選択肢を分類した(「その他」は省略)。
再稼働賛成=「原発と再生可能エネルギーとを併用する」「原発を再稼働させる」
再稼働反対=「原発を廃炉にし,再生可能エネルギーに変えていく」
この分類で集計すると,再稼働賛成36.6%,反対60.6%となり,再稼働反対が圧倒的となる。2018年調査では賛成と反対は五分五分だったから,選択肢のつくり方によって結果はずいぶん変わることがわかる。
2つの調査の比較検討
2019年調査は,原発と再生可能エネルギーのどちらを選択するか,というエネルギー選択の問題として捉えている。2018年調査は,どのような条件や手続きのもとで再稼働,廃炉を選択するか,に関心を払っている。
2019年調査の問い方は単純明快だが,2018年調査の選択肢は問題が多い。
「耐震防潮対策を徹底するまで運転再開すべきではない」とか,「老朽原子炉に代わり新型炉を建設する」など,前提を詳細化,具体化しすぎる。そのために,あげられた選択肢に該当しないとか,選択肢をどう理解するかで選択に困る場合も出てこよう。
前提をここまで具体的に設定するなら,原発自体の安全性や避難計画の策定に関しても選択肢に入れないのは不十分である。不十分だから,いずれの選択肢にも該当しないとして無回答が多数出てしまうような選択肢のつくり方である。
再稼働反対を表明しよう
東海村では原子力と利害関係をもつ人は圧倒的である。だからといって,単純に再稼働賛成が圧倒的というわけではないことは,2つの調査結果が示す通りである。
原子力と利害関係があるなしにかかわらず,様々な立場や考えがあるのは当然だろう。2019年調査が示したとおり,原発の安全問題は,原子力との利害関係とは関係なく,考えられなければならない問題だからである。原子力事業所で働いていても再稼働は危険だという声なき声はたくさんある。再稼働に対して「絶対賛成」「絶対反対」もあれば,その間にいくつもの多様な賛成と反対があるだろう。
しかし多様であっても,再稼働の事前了解権をもつ6市村の住民は再稼働に対する賛成,反対のどちらかを決することが求められる(一部の市では意向調査がすでに済んでいる)。
これに関し,茨城県大井川知事や東海村山田村長などが,住民意向調査はまだその時期ではないなどと言って,住民の総意を明確にさせることを伸ばし伸ばしにしているのは理解しがたい。県議会も同調して,住民が再稼働への意向を表明する県民投票を求めてもこれを拒否している。6市村では,再稼働の前提になる避難計画は8年かけてもつくれていない。いつできるかという見通しさえもっていない(策定済みという市もあるが,まったく使えない計画である)。
まともな避難計画などつくれないことはもはや明らかなのに,「実効性ある避難計画をつくる」などと虚言を繰り返して,再稼働が迫るなか住民を苛立たせている。避難計画はできないということを認めるべきである。そして,県,市町村は,住民意向調査をいまから準備すべきである。
村の「自分ごと化会議」では,参加者が立場を表明することさえ抑制したが,もはやそんなことをやっている場合ではない。再稼働に対する立場表明は,私たちの生活を守る道の選択そのものである。
関係の市町村は,どのようにして住民意向を集約するのか早急に議論をはじめ,住民の生活を守るための正確に判定できる調査を実施し態度を表明してほしい。
* 渋谷敦司「『地域社会と原子力に関するアンケート2018』調査結果概要」,2019年
** 村内全戸14,000~15,000に郵送で調査票を配布,郵送による回収で実施した。
(1月9日加筆)
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