わが家のエネルギー消費2021と今年の目標

環境省と国立環境研究所が,2020年度の温室効果ガス排出量(速報値)を発表した(図1)*。2013年以降,排出量は一貫して減少しており,2013年度に対して18.4%の減少だった。


図1 温室効果ガス総排出量


部門別で見ると,「廃棄物(焼却等)」部門を除き,そのほかの部門はすべて減少した(2013年度比)(図2)*。「廃棄物(焼却等)」部門は3.5%増加した。


図2 CO2 の部門別排出量(電気・熱配分後)の推移


減少率がもっとも大きかったのは「産業部門(工場等)」23.7%減,減少率がもっとも小さかったのは「工業プロセス及び製品の使用」部門12.4%減,「家庭」部門はその中間の19.3%減だった。

その家庭部門だが,政府はCOP26を前に,2030年度までに66%削減(13年度比)という目標値を設定した。COP21での削減目標は39%だったから,27ポイントも引き上げられた。こんな極端な引き上げに確かな根拠があるのだろうか。どうやって66%を達成するのか,その政策は明らかにされていない。

国土交通省資料によれば,家庭部門における省エネは,①新築住宅における省エネ性能の向上,②高効率給湯器の導入,③高効率照明の導入,④HEMS等を利用した徹底的なエネルギー管理,⑤特定エネルギー消費機器の省エネ性能向上,⑥既存住宅の断熱改修など,によってすすめられるとしている **。

もっとも期待の大きいのは,①新築住宅における省エネ性能の向上で,断熱性能の向上がそのメインである。

住宅の断熱性能の向上策は,新築住宅に対しては省エネ基準に適合させることと,既存住宅に対しては断熱リフォームを進めることの2つだが,実態を見れば,新築住宅の省エネ基準適合率は驚くことに6割しかなく(平成29年度)**,既存住宅の断熱リフォームの実施率はごく小さい。

住宅では,暖房が,給湯と並んでエネルギー消費の大きな部分を占めている。省エネ暖房のためには住宅の断熱性能の向上が絶対に重要だが,断熱性は上記のように,これまでのところ十分にすすんでいない。

家庭部門の温室効果ガス排出量は,2020年度で19.3%削減したが(2013年度比,図1),これを2030年には66%削減にまで持っていくには,大胆な政策と確かな実行策が必要である。そのような策があるのだろうか。


筆者はわが家のエネルギー消費分析をしている。今年で3回目のレポートである。自身のエネルギー消費生活の仕方を見つめながら,世帯レベルで省エネはどこまで可能かを検証するという狙いがある(受講学生に課しているレポートを自らも作成,学生に参考にしてもらうという目的もある)。

3年目の結論は,省エネ努力も削減率2割強までで,それ以上の達成は,エネルギーをできるだけ使わないライフスタイルへ転換しないと実現不可能ということである。以下にわが家のエネルギー消費分析を示す。

筆者の住まいは二階建て戸建て住宅で,1998年築,延床面積132㎡,外壁,屋根,床に50mmの外断熱,窓は樹脂サッシ,複層ガラスである。電気で動力・暖房・照明・換気を,都市ガスで調理を,灯油で暖房と給湯を賄っている。世帯員は大人2人である。

2021年のエネルギー消費の削減率は6.9%だった(2017年比)(図3)

図3 わが家のエネルギー消費量(年別推移)(1次エネルギー換算,MJ)


電気は,16.8%の減少(2013年比)だった(図4)。2015年から大きく減った。

図4 わが家の電気の消費量(年別推移)(kWh)


電気消費量の推移を月別で見ると,2015年から大きく減ったのは,冬の消費量が大きく削減できたおかげだとわかる(図5)。電気ストーブの使用をやめたからである。

図5 わが家の電気の消費量 (月別推移)(kWh)


風呂と給湯に使っている灯油は,23.7%の削減(2017年比)だった(図6)

図6 わが家の灯油の消費量(ℓ)


調理に使っている都市ガスは,18.2%増加した(2013年比)(図7)。東日本大震災に遭遇した2011年から5年間,とても少なかったのはどうしてなのだろうと思う。震災による住宅被害調査や海外での調査旅行が重なったり,忙しすぎて料理をめんどくさがったからなのかもしれない。省エネ努力の成果ではないので,その後は元にもどった。調理用の都市ガス消費削減はなかなか難しい。

図7 わが家の都市ガスの消費量(㎥)


初めて,このレポートを書いた2年前,調理法の工夫とか風呂利用の効率化などをあげて消費量削減目標値(前年比9%削減)を設定した。しかし,その直後,予期もしなかった緊急事態宣言で巣篭もり生活に入り,エネルギー消費量は削減どころかかえって増えた。

家庭内の生活はひとつ一つの活動の連続で成り立っている。活動は毎日同じようでいて,しかし,まったく同じではない。室内外温度や自身の意気込みなど,その時によってエネルギー消費のあり方が違う。コロナ自粛などもきて予想通りにはいかない。小さな節電行為の二つや三つを目標にしても,エネルギー消費削減幅が年ごとに大きくなっていく訳でもないことを知った。

しかし,エネルギー問題の学習で理解が深まり,日常から省エネ意識を持つようになったおかげで,確かにエネルギー消費量を削減できることもわかった。その削減量は,電気で16.8%(2013年比),灯油で23.7%(2017年比)。ガスは残念ながら18.2%増加(2013年比)した。

それでも,家庭部門における温暖効果ガス排出量削減の目標値66%は,生活の中の小さな積み重ねによっては到底,手が届かない数字だということもよくわかった。

削減66%の実現は結局,先にあげた,①新築住宅における省エネ性能の向上,②高効率給湯器の導入,③高効率照明の導入,④HEMS等を利用した徹底的なエネルギー管理,⑤特定エネルギー消費機器の省エネ性能向上,⑥既存住宅の断熱改修,の推進いかんということだ。

ちなみに,筆者の住宅では,①適合,②未対応,③対応,④未対応,⑤未対応,⑥関係なし,である。

①については,2025年度から戸建て住宅にも省エネ基準適合が義務化される。②以下の各種機器の導入と断熱リフォーム推進も今後,目指されるのだろう。全国の住宅のエネルギー消費が大きい古い機器を廃棄して,省エネ対応の新しい機器に入れ替え,全国の既存住宅で外断熱工事をすすめる。イメージとしては,全国の既存住宅の66%,と言わないまでも相当割合の世帯でこれらを実施するという感じだろうか。

大手企業には有難い政策だが,圧倒的な市民に大きな負担を強いることで初めて実現できる政策である。しかも,2030年という目標(時限)があり,ここへ向けて大量生産・大量廃棄が合理化される。矛盾に満ちた対策である。国は66%削減の根拠をきちんと示してほしい。

最後に,これまでの自身のレポートを読み返し,わが家の今年の省エネ生活目標をたてた(今年は数値はやめた)。太陽光エネルギーは,日向ぼっこや洗濯物干しだけでなく,もっと積極的な利用を考えることにしよう,そしてできたら実践する,である。



* 国立環境研究所「2020 年度(令和 2 年度)の温室効果ガス排出量(速報値)について」,2021年12月10日

** 国土交通省「建築物省エネ法の改正概要と今後のスケジュール等について」

*** 「わが家のエネルギー消費」レポート

わが家のエネルギー消費量削減 2020年の目標,2020年1月10日

コロナパンデミックとエネルギー消費,2020年11月30日

わが家のエネルギー消費2020,2021年1月11日






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