『あらお しゅんすけ詩集 安達太良のあおい空 3.11福島の記録』を読む


去年の秋,福島浜通りから二本松市に避難されているH氏夫妻の誘いを受けて,夫妻と奥会津を旅した。

福島は自然が奥深い。茨城県央から北に住む県民がちょっとした旅行に選ぶ先はたいてい福島ではないか。私の職場旅行は福島だったし,家族旅行も福島だ。平地がほとんどで景観の変化に乏しい茨城に住む人々には,福島の山並み,山間地の景観と集落の文化,温泉など魅力に溢れている。

そういえば,初めて足を踏み入れた東北の地も福島だった。まだ奈良にいた頃のことで,アメリカ人の友人が,福島の五色沼が素晴らしいと教えてくれた。それで,一人,旅行した。忘れられないところだ。去年の秋,40年ぶりに五色沼を訪れた。

そのH氏が,荒尾駿介『あらお しゅんすけ詩集 安達太良のあおい空 3.11 福島の記録』(山猫軒書房,2013)を送ってくださった。


著者の荒尾駿介氏は,これまで勤務獣医技術者として,乳業メーカー,福島の農業団体で酪農にかかわってこられた方だ。二本松市に住んでおられる。二本松市は福島第一原発からわずか60km,2011年,ここで原発事故にあわれた。それまでの安気な生活にかわり,大きな不安のもとで,知らなくてもよかった原発や,社会の裏事情や,放射能のこと,人生や人間の事についても学び直す事になったという。

100万人近い人々と共に,低放射線量下で長期にわたって生活する事を余儀なくされたわけで,そこがどんな環境で,どんな思いで,生きているのかを書き留めて伝えていくべきだと詩にされた。

1章 いのち  / 2章 ふるさとを返してください フクシマ歴 元年の記録 / 3章 希望の春を フクシマ歴二年の記録 / 4章 22世紀のあなたへ,の4章で構成されている。

109の詩には,日常生活,福島の自然,福島県民の精神,スリーマイル・チェルノブイリ被災者への想いなどが綴られている。原子力国策,事故対応へのシニカルな批判,厳しい批判もある。通底しているのは,抵抗の精神と未来への希望だ。いくつかあげよう。

福島県民としての誇り「起ち上がれ」(p.125),チェルノブイリ原発事故で過酷な運命を背負った人々への想い「チェルノブイリに学べ」(p.128),スリーマイル・チェルノブイリからの学びが足りなかったことへの自戒「大事なこと」(p.148),低線量下で生活すること「フクシマ歴2年・ぼくの日常」(p.162),日常生活をつづけることは無言の抵抗「フクシマ歴2年・概観」(p.179),福島県民100万人は耐えて放射線測定器になっている「戦場」(p.180)。

低線量下で生活していかなければならないということ,深呼吸さえ思う存分できない重たさ,不安を抱えながら自然の恵みを食べることの葛藤を知った。多くの人にこの詩集を読んでもらいたいと思う。

「2011年 フクシマの秋」を紹介する。この詩を読みながら,去年の奥会津で見た紅葉の色を思い起こしている。


2011年 フクシマの秋


うつくしま・福島に 秋が来ました

核が飛散してから 初めて迎えた秋です

いつもと変わらない福島の みごとな「錦秋」の秋です


いっせいに 華やかな色彩に燃える 秋

そこはかとない 寂しさ 哀しさが漂う 秋

華やぎと 哀しさが いっそう身に染みる

今年の秋です


うつくしまの野山が 満身にセシウムを浴びて

身を焦がしているからでしょうか

命あるもののDNAが

ひたひたと傷つけられているからでしょうか


命のはかなさ 愛おしさを 深くふかく思う 今年の 秋です

ふるさとの すべての命あるものにとって 試練の 秋です

いつか来る 再生の春を 希求しながら

その秋の ただ中に 我われは生きています



送られてきた詩集に,あらおさんの最近の詩が1編,挟まれていた。荒尾さんの許可を得たので,紹介したい。


裸の王様

聞こえぬのか 王様よ

爆音の下でふるえて泣く子達の声が

避難先で夫の無事を祈る女達の声が

断固 祖国と子供たちを守るという男達の声が

反戦を叫ぶ ロシア市民の声が

終戦と平和を願う世界の声が

王様よ王様よ 二十一世紀のヒットラーよ

聴こえぬのか ロシアの裸の王様よ

      (ペンネーム)あらおしゅんすけ



皆さんにぜひこの詩集を手に取って読んでいただきたい。

荒尾さんの詩集には,<特別寄稿>柴野徹夫「原発のない明日へ」と,別冊特集『福島からの手紙』がついています。製作+復興支援2,000円。こちらへご連絡ください。

荒尾駿介氏,964-0807 福島県二本松市金色久保164-6,電話0243-22-1261



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