JCO臨界事故23周年集会に寄せられた自治体首長のメッセージ


23年前の1999 年9月30日,東海村の核燃料加工会社JCOで臨界事故が起きた。この事故で,3人の社員が大量の放射線を浴び,うち2人が亡くなった。667人を越す人々が被ばくさせられ,核分裂が継続する臨界事故は約20時間続き,10km圏内に暮らす約31万人が屋内退避を強いられた。

今年10月1日,水戸市内で,「JCO臨界事故23周年集会 JCO臨界事故を忘れない! とめよう,東海第二原発の再稼働!」が開催された。原水爆禁止日本国民会議,原子力資料情報室をはじめとする6団体が主催し,100人を超える市民が参加した。

集会には,東海村長,水戸市長など,茨城県内44自治体のうち36の首長がメッセージを寄せた *。メッセージは通常,会場で読み上げられるだけのことが多いが,この集会では,36市町村長すべてのメッセージがプリントされ,参加者に配布された。

36人の市町村長は,メッセージの冒頭で,この集会開催に尽力した関係者に敬意を表した。これは重要な点である。市民団体が,JCO臨界事故を風化させず,事故の教訓を語りつぎ学ぶために毎年,大きな集会を開いてきた,その努力に対し敬意が表されたのである。

今年の集会では,参加者は,JCO臨界事故で亡くなった2人に黙祷し,被ばくさせられた住民の苦悩を聞き,放射線被ばくの問題について学んだ。そして,東海第二原発再稼働を止めようという決意を確認した。

この集会へは8人の市町村長のほかに,一番受け取りたい大井川県知事のメッセージがなかった。なぜ,知事はメッセージを寄せなかったのか。本来なら茨城県こそ,事故を風化させず,県民,市民とともに事故の教訓を学び確認するため,こうした取り組みをしてしかるべきだが,そのような取り組みはいっさいしてこなかった。

ただ,東海村では,毎年9月30日の朝,村長が役場職員に向けた訓辞をしている。今年,山田村長は,「人の思いがなければ安全は成立しない」と訓辞した。これが,山田村長が示した事故の教訓である。市民集会のそれと比べると,教訓の中身のなさがよくわかるだろう。

さて,集会に寄せられたメッセージを読んでみよう。心に響く言葉で始められたメッセージがいくつも見出される。

「JCO臨界事故を風化させまいと,23年間にわたり取り組んで来られました活動に対し,衷心より敬意を表する次第であります」(境町長・橋本正裕氏)

「永年にわたり,JCO臨界事故を風化させまいと,日々活動に取り組まれ,平和で安心安全な社会の実現に向けた皆様の日々の努力に対しまして深く敬意を表します。(利根町長・佐々木 喜章氏)

中には,集会関係者への敬意とともに「感謝」の言葉も添えたメッセージもあった(河内町長・野澤 良治氏)。大井川知事は,これらの事実をよく理解すべきである。

ただ,メッセージには,定型的な文章だけの実に気のないメッセージもある。とても残念だったメッセージは,36市町村長のうち唯一の女性首長である土浦市長・安藤真理子氏のメッセージである。環境保全,地域生活と家族,エネルギー転換など,臨界事故と原発再稼働にかかわる地域課題はたくさんある。男性による従来型の政治ではない女性独自の立ち位置に立って力強いメッセージを送ってほしかったが,寄せられたのはいかにも気のないメッセージだった。

この度の「JCO臨界事故23周年記念集会」ご開催にあたり,関係各位のご尽力に深く敬意を表します。本集会が,このような事故を風化させないと共に,安全な社会のために有意義なものとなりますよう,心より祈念申し上げます。

文中の「このような事故」は上の何をも受けておらず,意味不明の文章になっている。首長は,自分の言葉を広く伝えることができる立場にある。安藤市長は,こんなつぎはぎでつくった意味不明のメッセージではなく,もう少し気をつかったメッセージを送ってほしかった。

もちろん,気合いの入ったメッセージもある。東海村長・山田修氏,水戸市長・高橋 靖氏,大洗町長・國井 豊氏,美浦村長・中島 栄氏,八千代町長・野村 勇氏などのメッセージである。

その一つ,東海村長・山田氏のメッセージを読んでみよう。冒頭と最後の定型型な文章の間に,なんと4段落,4項目の内容が挟み込まれている。それぞれ,臨界事故の教訓を伝える村の義務,原発事業者への安全対策要請,国の原子力政策への住民理解の促進,東海第二原発避難計画の策定,の4項目である。この4項目は,村長の原子力の重要政策を簡潔に述べたものであろう。

しかし,1項目目はともかく,2項目目は原発事業者の代弁そのものであり,3項目目と4項目目は原発再稼働を念頭においた内容である。

まずは,2つ目の項目,原発事業者への安全対策要請について。メッセージはこのように書いている。

「福島第一原発事故の後も,事故・トラブル等が続いている状況にあります。『安全が何よりも優先する』という原点を踏まえ,安全文化の醸成,現場力の強化等を求めてまいりたいと考えております」

ここにある「安全最優先」「安全文化」「現場力」はいずれも,原発事業者がよく使っている標語のような言葉である。

高木仁三郎は,「安全最優先」「安全文化」は,原発事業者側がつくりだし,事故が起こるたびに声高く謳う言葉であると指摘して,次のように批判している **。

そもそも安全第一というようなことも軽々には言えません。原子力は産業ですから,利潤の追求が第一です。しかし,他の産業とはまったく違った側面を持っています。それは核を扱うという点です。ほんの1ミリグラムの核反応でも臨界に達すれば, JCOの惨劇を生むような潜在的な危険性を持っているわけですから,他の産業とは違った側面を持ちます。(中略)商業行為として行うならば,経済性の最優先は最高の原則になるわけです。その経済性の中に安全がどう組みこめるかをきちんと議論してもらいたい。
原子力安全文化の見直しや再構築ということも,ここ(チェルノブイリ原発事故)に端を発しています。(中略)INSAG(International Nuclear Safety Advisory Group)が原子力安全文化の原則というものを提唱して「安全文化とは,組織の安全の問題が,何ものにもすぐる優先度をもち,その重要度を組織および個人がしっかりと認識し,それを起点とした思考,行動を組織と個人が恒常的にしかも自然に取ることのできる行動様式の体系である」と言われたわけです。(中略)
本当にそんなものが成り立つかどうかということを十分に検討しないまま,安全文化というような何かが新しい標語ができたように皆が思いこみ,言葉だけが一人歩きするのは決してよいことではないと,私はずっと思っておりました。

原発立地自治体首長が,事業者が事故が起きるたびに反省の辞として使う言葉を用いて,その事業者に安全策を要請するということが,どれほど奇妙なことか,山田村長は理解しないのだろうか。そんな要請に何の価値も意味もない。山田氏は自身の言葉で事業者に要請するという自覚をもってほしい。

3項目目の「国の原子力政策に対する国民の理解促進が課題であり,『エネルギーの安定供給』と『安全安心の確保』について丁寧に説明責任を果たしたい」という主張は,政府の政策の代弁であり,再稼働を前提とした主張である。

4項目目は,東海第二原発の「避難計画の策定については,避難訓練等を実施しながら必要な検証を行いつつ,住民の理解が得られるよう丁寧に取り組みたい」。避難計画の策定を住民理解を得られるようすすめるというが,東海村民が安全で確実に避難することほど困難なことはない。

村民の避難を安全で確実なものにするためには,東海村の外側に住む住民数十万人が,先に逃げず,東海村民に避難の道を譲るということが確実になされなければならない。しかし,避難訓練とその検証をどんなに積み上げても,村民の安全,確実な避難は保障できない。東海村の避難はこのような特別な困難を背負っている。

先の「安全最優先」「安全文化」と同様,「住民理解を得る」「丁寧に取り組む」という言葉は安易に過ぎ,市民にはその軽さは見透かされている。村長には,もっと深い議論が起こされるようなメッセージをしてほしかった。



* 集会にメッセージを寄せた36自治体首長

山田 修(東海村),小川春樹(日立市長),宮田達夫(常陸太田市長),大谷 明(ひたちなか市),先崎 光(那珂市長),高橋 靖(水戸市長),國井 豊(大洗町長),鈴木定幸(常陸大宮市),高梨哲彦(大子町長),上遠野 修(城里町長),小林宣夫(茨城町長),島田幸三(小美玉市長),谷島洋司(石岡市長),鈴木周也(行方市長),石田 進(神栖市長),原 浩道(潮来市長),宮嶋 謙(かすみがうら市長),安藤真理子(土浦市長),千葉 繁(阿見町長),筧 信太郎(稲敷市長),野澤良治(河内町長),中島 栄(美浦村長),佐々木喜章(利根町長),萩原 勇(竜ヶ崎市長),根本洋治(牛久市長),神達岳志(常総市長),松丸修久(守谷市長),五十嵐 立青(つくば市長),菊池 博(下妻市長),須藤 茂(筑西市長),大塚秀喜(桜川市長),木村敏文(板東市長),野村 勇(八千代町長),橋本正裕(境町長),染谷森雄(五霞町長),小田川 浩(つくばみらい市長)

(メッセージが寄せられなかった8市町村:北茨城市,高萩市,笠間市,結城市,古河市,鉾田市,鹿嶋市,取手市)

** 高木仁三郎『原発事故はなぜくりかえすのか』,岩波新書,2000年

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